第13話 「鍛錬怠るべからず」
『探偵なるもの鍛錬怠るべからず』
とは俺が昔、窮地を救ってもらった憧れの探偵から教わった言葉である。
探偵に興味がなく憧れてもいない子供であれば、そのまま聞き流すであろう言葉ではある。
しかし、その探偵に窮地を救ってもらい、憧れの眼差しを向けていた俺はその言葉を胸に刻んだ。
それ以来、俺はその教えの通り鍛錬を開始したのだ。
体を鍛えるための筋トレはもちろん、あらゆることにチャレンジしスキルを磨いた。
俺が磨いてきたスキルはスポーツやゲーム、楽器や家事など言い出したらキリがない。
そのおかげで、俺は人よりセンスが身についたようで、大抵初めてやる新しいことでも人より上手くできるようになった。
野球もその中の一つで、特にコントロールにだけは自信があったのだ。
「……はい。俺の勝ちな」
「「……」」
俺は六枚のパネルを狙い通り連続で射抜き、そこからあえて六球は外した。
月野に最低なことをしようとした奴らには最低な気分を味わってもらわなければ気が済まない。
そう考えた俺は、一度喜ばせてからどん底に突き落としてやろうと思ったのだ。
本来探偵がそんな派手なことをするべきではないんだが、もう声をかけてしまっている時点で目立ってしまっているので、これ以上目立ったところで問題はないだろう。
勝ちを確信したとはいかないまでも、負けることは無いだろうと調子に乗っていたヤンキーどもは完全に沈黙してしまっている。
「おい、黙ってんじゃねぇよ。さっき言ってた女の子への告白は無しだからな--」
「「すんませんしたぁぁぁぁぁぁ!」 」
まさかこのまま黙り込んで、俺が賭けていた月野に告白しないという約束を放棄するつもりではあるまいなと思っていたが、予想に反してヤンキーたちはその場に土下座をして全力の謝罪をしてきた。
「……え、いや、謝ってほしいとかそういうわけではなくて、とにかく女の子への告白をやめてもらえればそれで--」
「もちろんっす! 絶対告白しません!」
な、なんだこの手のひら返しは。蒲生ほど体格の大きい大男が、俺のような標準的な身長の男に体を縮めて土下座をするなんて情けないことこの上ない。
「あ、ありがとう。告白もそうだし、無理矢理ホテルに連れ込むとかやめろよ?」
「あんなのただの冗談なんで絶対連れ込みません! そもそも俺、めちゃくちゃチキンなんで、俺が発する言葉全部虚勢っす!」
「……は? 虚勢?」
「っす! 虚勢の塊っす!あ ちなみに山際先輩も虚勢の塊っす!」
「い、いやおい、流石に先輩に向かってそれは--」
「っす! 俺も虚勢の塊っす! 本当はヤンキーでもなんでもないっす! 虚勢言いまくってるだけのクソザコっす!」
先程まであんなに怖そうに見えた二人が、今は子犬よりも小さく見える。
要するに蒲生と、山際先輩は本当はヤンキーでもなんでもなくて、ただ虚勢を張っているだけのチキン野郎だったということか。
それなら女子's Networkに蒲生の悪評が無かったのも頷ける。
二人がただのチキン野郎とわかり、月野に告白したら手を出す危険も無くなったので、とにかく早くずらかろう。
「そっか。とにかく告白は無し、ホテルに連れ込むのもダメだからな」
「っす!」
「それじゃあ俺はこれで--」
「「まっ、待ってください!」」
何事もなかったかのようにその場を離れようとした俺だが、蒲生と山際先輩に引き留められてしまう。
「ど、どうした?」
「「俺らを舎弟にしてください!」」
ようやく帰宅できると思ったのに、なーんか面倒臭いことになったんだが?
結局俺は二人のゴリ押しに負け、蒲生と山際先輩は俺の舎弟となった。
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