第11話 「……なるほど」

 俺の口車に見事に乗せられた蒲生は、ストラックアウトでのバトルを了承し、コインを入れて肩を回している。


 これだけ身長が高く体格がいい蒲生なら、野球をしていればピッチャーとして大成していたかもしれないし、野球以外のどのスポーツをやったとしても大きなアドバンテージになっていただろう。


 そんな蒲生は、なぜヤンキーになってしまったのだろうか。


「ふぅ〜。まあ少なくとも六枚くらいは行くだろ」


 余裕綽々の蒲生に向けて機械からボールが排出され、蒲生はそれをキャッチし投げる体制に入った。


 てか六枚って割と厳しい数字言ってるけど大丈夫か?


 素人なら精々四枚か五枚くらいが限界な気はするが。


「よし。まず一球目っ」


 蒲生は悠然と大きく振りかぶり、ダイナミックに足を挙げてストラックアウトのボードに向けてボールを投げた。


 蒲生が投げたボールは凄まじく、シューッという音が聞こえてくる程だった。


 ガコォンッ!


 蒲生の手から離れたボールは一瞬でボードまで到達し、蒲生は見事にど真ん中五番のパネルを射抜いて見せた。


「はっ。やっぱ余裕だなストラックアウトなんて」


 え、こいつもしかして素人じゃないのか?


 だとするならば、俺はかなり不利な勝負を挑んだのではないか?


「……さあ、どうだか」


 動揺を気取られないよう平静を装うが、内心めっちゃ焦っている。


「強がれるのも今のうちだ」


 その言葉通り蒲生は順調にパネルを射抜いていき、俺は焦りから額に汗をかき始めた。


 素人なら二球に一球くらいのペースでは外してくれるだろうと思っていたが、かなりコントロールが良く、全てのボールがパネルに向かって飛んでいってしまう。


 というかこの異常なまでのコントロールの良さ、もしや蒲生は野球をやっているのか?


 野球部に入っているなんて情報は耳にしていないのだが。


「不思議そうな顔で見てるな。蒲生のコントロールがいいのなんて当たり前なんだよ」


「野球やってるのか?」


「やってるなんてレベルじゃねぇよ。蒲生は中学時代、全国大会で優勝したピッチャーだからな!」


「……なるほど」


 なぜ蒲生本人ではなく山際先輩が偉そうにしているのか理解に苦しむ。


 とはいえ、蒲生が中学時代に野球で残した成績には正直驚かされた。


 中学とはいえ全国大会の優勝ピッチャーとなれば、どこの高校野球のチームも蒲生を欲しがっただろう。


 それなのに特に野球部が強豪というわけでもない輝高校に入学しているという現状から察っするに、

蒲生は中学時代に肩や肘の故障で思うようにボールが投げられなくなり、自暴自棄になったというところだろう。


 全てを賭けていた野球に裏切られ、もう野球を本気ですることができなくなるとなれば、蒲生にとってそれは俺たちでは想像がつかないほどのショック受けただろう。

 蒲生がした経験は間違いなく辛いものではあるが、だからと言って他人に迷惑をかけていい理由にはならない。


 この勝負、絶対に勝って月野への告白をやめさせなければ。


 蒲生は次々とパネルを射抜いて行くものの、パネルの枚数が少なくなるにつれて外すことも増え、最終的に十三球の持ち玉の中で、七球を射抜いて見せた。


「七枚か。九枚抜きできなかったのは残念だが、七枚も抜ければもう勝ったも同然だし試合は終わったな。チャレンジすんのやめとくか?」


「まだ先攻が終わっただけだが?」


「……ふん。その強がり、どこまで持つかな」


 俺にはこれまで探偵になるために積み上げてきた時間と実力が備わっている。


 先攻で七枚も射抜かれれば流石に勝てないだろうと勝負を諦めても仕方がないレベル。


 しかし、俺はこんなクズな奴にだけは負けるわけにはいかないんだ。


 月野を守るために。

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