第8話 「他の男の子と違うから」
月野がした発言の真意を掴めなかった俺は、サトノンに助けを求めるべくサトノンを見た。
しかし、サトノンも俺と同じく状況を掴めていない様子で、呆けた表情を見せている。
「す、好きになりたいっていうのは友達としてだよね? 友達としてじゃないとこんなところで面と向かって直接好きになりたいだなんて言わないもんね?」
「そ、そりゃそうだよな⁉︎ loveのほうで好きになりたい相手に対して、好きになりたいって直接言うやつなんていないもんな!」
俺はサトノンの意見が『正解であってほしい、頼むから正解であってくれ!』と激しく同意した。
いや、もし学校一の美少女である月野がloveのほうで俺を好きになろうとしてくれているのなら喜ばしいことだし、loveのほうであってくれと願うのが普通だとは思う。
しかし、俺は自称とはいえ探偵だ。
もし月野からloveのほうで好きになるために調査をされるとなれば、探偵活動に支障が出てしまう可能性が高い。
隠密行動で行わなければならない調査中に月野が俺を調査するためについてくるとなれば、調査対象から俺が調査をしていることに気づかれるリスクは上がってしまう。
それに、元来男子というのは女子の前では良いかっこうを見せたいと思う生き物だ。
loveのほうで調査をするなんて言われたら、意識してかっこいいと思われるような行動をとろうとしてしまい、探偵活動の妨げになるのは避けられないだろう。
「え? いや、私が藤堂君と付き合いたい、恋人になりたいって思うかどうかの調査をするつもりだよ?」
「「……はい?」」
普段はあまり息の合っていない俺とサトノンだが、この瞬間ばかりは完全に気持ちがシンクロしていた。
月野とはまともに会話したことなんてないし、数日前に探偵部屋にやってきて一件依頼をこなしただけだ。
それなのに、俺のことを付き合いたいと思う人間かどうか調査をしたいと思うなんて、俺何かしたかな。
藤堂の目には俺がジョニーヘップぐらい鼻が高くて、顔の小さいイケメン俳優か何かにでも見えているのだろうか。
「だから、私が藤堂君と付き合いたいと思うかどうかを調査するの」
「……え、あ、あのね? 莉乃ちゃん、さっきも言ったけど、乃音って本当に別段取り柄のない人間なんだよ? 別に乃音を貶したいわけじゃなくて、これまで女の子と付き合ったことなんてもちろん無いし、女の子から好かれたことも、ましてや自分から好きになったことも無いような人間なんだよ? それなのに、なんで莉乃ちゃんみたいな超絶美少女が乃音を付き合いたいと思うか調査したいと思ったの?」
「本当に貶しているわけじゃないんだろうけど傷つきはするからな?」
「まだ調査前だし、明確な理由ってのは答えられないけど『他の男の子と違うから』かな」
月野の言う自分が他の男子と違うとはどの部分を指しているのだろうか。
確かに俺は他の男子とは違うと自分でも思う。
教室で休み時間の度に机を囲みスマホゲームや漫画、アニメの話をしている男子とは違い、俺は探偵になるために、できるだけ目立たないようにクラスでも過ごしている。
それはマイナスな面であって、プラスに働くことはないはずだ。
他の男子とはマイナスな意味で違うことが、月野にとってはどのように見えているのだろうか。
「……まあ確かに違うかもしれないけど、マイナスに働く要素ばっかりじゃないか?」
「まあマイナスな面もあるよね」
「……正直なことで」
「でもプラスな面もたくさんあるよ。他の男の子は私を可愛い女の子としてしか見てくれないし、私に優しくしてくれる男子はその奥に下心がある。でも藤堂は、自分の信念のために、私に優しくしてくれるでしょう? そんな君に興味を持つのは至極当然なことだと思うけど」
「……ありがたい話ではある」
「じゃっ、そんことで次も調査お願いね。私は君を調査するから」
「なんかノリが軽いのが気にはなるが……。まあなんでも好きにしてくれ」
こうして俺は、月野からの依頼である告白相手の素性調査をしながら、自分も月野に調査されることになった。
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