第6話 「聞いてくれる?」
一般人が探偵のことを調査するなんて、どんな物語でも聞いたことがない。
いや、まあ俺もまだ自称探偵ってだけでただの一般人なんだけど。
仮にそんなストーリーが存在するのだとしたら割と面白そうではあるが、自分が調査される側の探偵であるため、気分はよろしくない。
「調査って--」
「調査って何するの⁉︎」
俺から月野に調査とやらの内容と調査をする目的を訊こうとしたところで、聡乃は俺の言葉を遮って前傾姿勢になりながら、月野に調査とは何をするのかを質問した。
俺の勘違いかもしれないが、聡乃が月野に質問をする際、少しではあるが焦った様子を見せた気がする。
聡乃とは付き合いが長いが、聡乃が焦っている場面はこれまで一緒に過ごしてきた時間を幼少期まで遡っても浮かんでこない。
別に焦るような質問の内容でもないし、俺の勘違いだっただろうか。
「シンプルに気になったの。藤堂君がどんな人なのか。だって普通に考えて面白くない? 高校生にもなって探偵とか幼稚なこと言って部活にも入らず探偵やって無料で調査引き受けてるんだよ?」
「おい探偵は幼稚じゃないだろ」
「た、確かにそれだけ聞いたら面白く感じるかもしれないけど、乃音なんて気にする必要全くない人間だよ? 探偵能力も低いし音痴だし足短いしにんじん嫌いだし」
「急に俺のウィークポイントばらしまくるのやめろ。あと探偵能力だけはせめて高くあれよ」
「……探偵能力は高いんじゃない? 中野君の調査も女子's Networkでわからないところまで完璧に調査してくれたし、探偵としての能力は高そうに見えたけど?」
「そっ、それはまあそうかもだけど……」
……な、なんだ? 一体この二人の間で何が行われているんだ?
月野はやたらと俺を調査したそうだし、聡乃は逆に調査するに値しないことを必死に説明しているし……。
ま、まさか二人とも俺のことが好きなのか⁉︎
なんて思いもしたが、流石の俺もそこまで驕ってはいない。
聡乃からしてみれば俺は兄弟のようにしか見えていないだろうし、月野に関しては先週まともに話したばかりなのだから。
「……うん。決めた。私今日から藤堂君の調査を開始します」
「えっ、ちょっ、嘘でしょ?」
「……マジか」
「うん、大マジ」
月野は俺が当事者であるはずなのに、俺のことは蚊帳の外で聡乃との話し合いで勝手に俺を調査すると決めていた。
まあ別に調査されたとて悪いことをしているわけでもないし、困ることは何もないんだけど。
とはいえ、やはり気になるのは調査の目的だ。
俺が探偵として調査をするのは、依頼主からの依頼があるから。
逆に言えば依頼がなければ自ら進んで調査をすることはない。
月野が俺を調査する目的、これだけは訊いておかなければ納得して月野に調査されることはできない。
「俺を調査する目的は? 調査した結果、月野が得られるものはなんなんだ?」
「うーん……。ちょっと話長くなるけど、聞いてくれる?」
月野の表情から、月野が今から話そうとしているのは、月野が俺たちに隠している部分なんだと悟った。
きっと今からの話を聞けば、俺のことを調査する目的だけでなく、告白相手の素性調査を俺たちに依頼してくる理由までもがわかってしまう気がする。
最初は隠していたはずなのにそれを俺たちに話す気になったのは、中野の調査を経て、俺が月野からの信頼を勝ち取ったということなのだろう。
「もちろん、1時間でも2時間でも聞いてやる」
今から明かされるであろう月野の過去について、興味はあるものの、その過去を聞くのは若干怖くもあった。
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