第4話 「そんなの無料に決まってるだろ」

「それじゃあ早速なんだけど、この人が次私に告白してくるっていう男の子ね。週明けに告白してくるって話なの」


 月野は何食わぬ顔で次告白してくるであろう男子の顔写真を見せてきた。


 普通に次告白してくる男子とか言って画像見せてきてるけど、結構とんでもないこと言ってるのわかってんのか?


 告白後に『返事を保留しているから素性調査をしてほしい』というのならまだ理解できる。


 しかし、月野は告白前にも関わらず、中野に告白されることを知っている様子。


 なぜ告白される前から中野が告白してくるとわかるのだろう。


「同じクラスの中野晃なかのあきらか……。てかなんで中野が告白してくるってわかるんだよ」


「え、だって私『女子's Network』に入ってるし」


「……女子's Network?」


 女子's Networkと言われても、それがどのようなものなのか、全く想像も付かない。


 その女子's Networkとやらでなぜ中野が告白してくるとわかるんだ?


「要するに女子たちの情報網だね。女子's Networkがあれば大体なんでもわかるの」


「ただの女子の情報網で簡単に探偵超えてくるのやめてくれる⁉︎ 大体なんでもわかるとかチートすぎるんだが⁉︎ あとその Networkの言い方がやたら流暢なの腹立つからやめてくれ⁉︎」


「ちなみに私も女子's Networkの一員ね」


「いやおまえもかい⁉︎ だからたまにとんでもない情報仕入れてくるのね君⁉︎ あとなんでおまえも Networkの言い方そんなに流暢なの⁉︎」


 聡乃と二人で探偵部屋にいる時もかなりツッコミ役に回ってはいるが、月野が探偵部屋に来てからツッコミが忙しすぎる。


「とにかくこの中野君って子が私に告白してくるみたいだから、どんな人なのか調べてほしいの」


「……まあ了解した」


「これって調査料はいくらくらいなの? 掲示板の紙には何も書かれてなかったけど。私そんなにお金持ってないから高いと厳しいんだけど」


「は? そんなの無料に決まってるだろ」


「……え、無料?」


 『そんなの嘘でしょ?』という表情を見せる月野だが、俺からしてみればまだ本物の探偵でもなく、ただの高校生である俺がお金をとるなんてあり得ない。


「いや逆になんで金とられると思ってるんだよ。バイトってわけでもないし、個人の趣味みたいな活動で報酬をもらうわけにはいかないだろ。もちろん本物の探偵になってからは調査料とるけど」


「……へぇ。すごいね。藤堂くんって普段寡黙だし、幸薄いし、髪薄いし目立たないけど立派な人だったんだ」


「なんで俺をディスってくるスタンス聡乃と一緒なの⁉︎ せっかくの立派な人だって褒め言葉が台無しなんだが⁉︎ てか幸は薄くても髪は薄くないぞ⁉︎」


 聡乃は天真爛漫で、和気藹々とした雰囲気中に突然ディスを投下してくるのでそれはそれで怖いが、月野はどちらかと言えば飄々とした性格で、淡々とディスをぶち込んでくる。


  もちろん本気で言っているわけではなくただの悪ふざけなのだろうが、学校一の美少女と謳われている月野からディスられるのはあまりにも心臓に悪い。


 ……悪ふざけだよな? 本気じゃないよな?


 頼む悪ふざけであってくれ。


「大丈夫。大丈夫。本気だから」


「いや本気なのかよ……」


「……ふふっ。冗談だって。とにかく私が告白される週明けまでに、中野くんの調査よろしくね」


 依頼の内容を聞いただけなのにメンタルがすり減っているのはあまりにも理不尽だとは思うが、だからと言って一度引き受けた依頼を放棄するつもりはない。


 月野からの素性調査の対象となる人物が中野だと教えてもらった俺は、月野が探偵部屋を後にしてから本格的に調査を開始した。

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