第3話 「僕に任せとけ」

 月野莉乃。


 学校一の美少女と名高いその少女は、見るだけで思わず心を鷲掴みにされてしまう程のルックス、みんなが妬ましく思うほどの学力、誰とでも打ち解けられるコミュニケーション能力など、全てを持ち合わせた人間だ。


 きっと人間性も完璧に違いな--


「いやほんと私めちゃくちゃモテるの」


「自分で言うなよそういうのは⁉︎」


 自分で自分をモテると言えるのは悪いことではない。

 自信過剰は良くないが、ある程度自分を認めることで得られるものもあるだろう。


 とはいえ、それを人前で言ってしまえば聞く側の人間からしてみれば自慢にしか見えないし、そんなことを言われて気持ちいいやつはいない。


 月野は完璧美少女だが、唯一足りないのは奥ゆかしさだったようだ。


「いいじゃん。実際本当だし」


「い、嫌味なやつだな」


「いやもうね、気持ち悪いくらい告白されるの。あ、いや、告白してくる人のことを気持ち悪いって言ってるんじゃなくてね? そろそろ告白されすぎて、告白酔いしてきたというか」


「なんだよその贅沢な酔いは……」


 人生で告白酔いなるものを経験できるのは、ほんの一握りの人間だけだろう。


 経験したいとも思わないが、俺とは全く縁のない酔い方である。


「いやでも本当ね、あんまり告白されすぎると嫌になるもんだよ? ほら、大トロだって十貫くらいまでは美味しくても、二十貫とか三十貫とか食べたら美味しくなくなるじゃん? そんな感じ」


「う、う〜ん……。まあわかるようなわからないような」


「私は月野ちゃん程告白されないけど、まあなんとなく気持ちはわかっちゃうな〜」


「月野ちゃん程っておまえ告白されたことあんの⁉︎」


「え、割とあるよ?」


 幼馴染で助手という関係でありながら、聡乃が割と告白されているなんて事実、全く知らなかった。


 聡乃も月野程人気があるとはいかないものの、同学年の男子生徒から人気があるのは知っていたし、誰もが認める美少女だ。


 大きくてクリクリとした目でこちらに向けてくるわざとらしい上目遣いは、男子の心をグッと掴んで離さない。

 思わず頭を撫でたくなるような小さい背丈も男子としてはたまらないものがある。


 そんな聡乃であればいつ誰に告白されていてもおかしくはないが、聡乃からそんな話しは聞いたことがなかったので、驚きを隠せない。


「そ、そうなのか……」


「相川さん可愛いしそりゃ告白されてるでしょ」


「へっへへー。月野ちゃんに言われると嬉しいね」


 月野に可愛いと言われて喜んでいる聡乃だが、俺は聡乃が割と告白されているという事実を喜ぶことはできなかった。


 小さい頃からずっと一緒にいて、今も二人で探偵活動をしている聡乃が、男子から告白をされるなんて……。


 聡乃がどこぞの男子からの告白をOKする可能性だってなくはない。


 そんなのどう考えたって喜べるはずないだろ。


 あくまでも幼馴染としてだけどな


 べ、別に好きとかそんなんじゃないんだからね!


「莉乃でいいよ。私も聡乃って呼ぶから」


「お、じゃあ莉乃って呼ばせてもらうね」


「……とりあえず本題に入らせてもらうが、僕たちが月野君に告白してきた相手の素性調査をして、それを見て月野君が付き合うか付き合わないかを判断するといった流れでいいのかな?」


「まさにそれが依頼したいことだね。あんまり大勢の男子から告白されてると、いちいちその男子がどんな人なのかって調べてる暇もないんだよ」


 ……俺は月野の人間性に疑問を抱いた。


 月野は大勢の男子から告白されることを気持ち悪いと言い、告白酔いしたとまで言い放っている。


 それなのになぜ、俺たちに告白相手の素性調査を依頼してきたのだろうか。


 気持ち悪いと言い放つくらいなので、調査なんてせず、知らない男子や関わりの少ない男子なんて問答無用で告白を断ればいい気がするのだが。


「真面目なんだね。でも好きでもない男子なんて二つ返事でごめんっていえばいいんじゃないのか?」


「……まあ色々ね。それは」


 俺の質問に、一瞬ではあるが月野の表情は曇ったように見えた。


 その表情が何を物語っているのかはわからないが、あまり詮索しすぎるのは悪手だろう。


「……そうか。まあとにかく僕に任せとけ。素性調査くらい朝飯前だ」


 こうして俺は若干の違和感を感じながらも、月野からの依頼を受けることになった。

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