第2話 「素性調査をしてほしいの」
俺は学校一の美少女、月野莉乃から送られてきた『告白相手の素性調査依頼』というメールが未だに本人から来たものだとは信じられずにいた。
仮に月野本人からの依頼だったとしても、わざわざ素性調査を依頼してくる理由がわからない。
告白してきた相手が好きな人ではないのであれば断ればいいだけだし、好きな人がいないのだとしても、『今は誰かと付き合う気はない』と断ればいいだけなのではないだろうか。
とにかく俺は真偽を確認するため、メールが来た日の翌日、月野を探偵部屋へ呼び出した。
そして俺とサトノンは、探偵部屋に置かれた2畳程の大きさの机に置かれた椅子に座って月野が来るのを待っていた。
「本当に莉乃ちゃんなのかな。私別のクラスだしほとんど話したことないけど、莉乃ちゃん大人気だし私たち以外に相談できそうな人もいそうなもんだけどね」
「俺は同じクラスだけど多少会話したことがある程度だな。まあ実際月野がめちゃくちゃ告白されてるって話は聞いたことがあるし、本当な気がするけど」
月野は学校一の美少女と謳われているだけあって、学年問わず1週間に1回は告白されているような状況らしい。
まあこれまでどの告白も受け入れたことはないらしいが。
「私は違う気がするけどなー」
「……なんだよそれ、俺の考えが間違ってるっていうのか?」
「うん、そうだよ?」
「ちょっとはノームズを敬えよ⁉︎」
相変わらずサトノンは俺に対する敬意が足りていない。
それでも一応探偵と助手という関係性のままでいてくれているのには感謝している。
「だってノームズ、割と推理外したりするし?」
「そこまでいうなら賭けだ! 俺が勝ったらテーブルに置いてあるちょこっとパイは俺のもんだからな⁉︎」
「じゃあ私が勝ったらノームズがノオソンで、私がサトムズね」
「賭ける物がデカすぎないか⁉︎ てかノオソンとサトムズってなんかダサくね⁉︎」
聡乃がついに探偵と助手の関係をひっくり返らせようとしてきたところで、探偵部屋の扉をコンコンッとノックする音が聞こえてきた。
今から入ってくる人物が月野か月野じゃないかというだけなのに、サトノンの賭けた物がデカすぎて緊張が走る。
月野以外の人物が入ってきたら、俺は探偵から助手に成り下がり、名前もノオソンになってしまう。
俺はフーッと息を吐いてから「どうぞ」と声をかけた。
「お邪魔します」
俺とサトノンは顔を見合わせ、俺はサトノンに向けてしたり顔を見せる。
探偵部屋に入ってきたのは、月野莉乃本人だったのだ。
「……ははっ。ちょこっとパイは俺のもんだ」
「ぐぬぬぬぬ……。今回は完敗だぁ」
「え、なんの話し?」
「す、すまない。他愛のない世間話だよ。とりあえずそこのイスに腰掛けてくれ」
月野がイスに座ったのを確認してから、俺はメールの件について訊くことにした。
「それで、昨日メールを送ってくれたのは君で間違いないかな? 月野君」
「そうだよ。昨日藤堂君にメールを送ったのは間違いなく私」
まさか本当に学校一の美少女から依頼が来るなんてな……。
それも『告白相手の素性調査』という難しい内容だし。
月野は本当にメールに書かれていた通りの調査を依頼したいのだろうか?
「じゃああのメールの内容も嘘やデタラメじゃなく、本当に依頼したい内容なんだね?」
「……そうよ。メールの通り、私は藤堂君に今後私に告白してくる男子生徒の素性調査をしてほしいの」
「……え、今後?」
「うん。今後」
俺は月野からの依頼を舐めていた。
月野に告白してきた相手1人だけの素性調査をすればいいと思っていたのだが、『今後』ということは、これから月野に告白してくる男子がいたら、その男子生徒全員の素性調査をしなければいけないらしい。
「……それは大仕事だな。了解した」
正直依頼を引き受ける前にお断りをしたい内容の依頼ではあった。
しかし、俺は犯罪に手を染めなければ解決しないような依頼以外は全て引き受けるようにしている。
その信念を曲げることは絶対にできない。
こうして俺は、月野からの依頼をお断りすることなく引き受けたのだ。
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