第46話 色の特色

「モーザさん! 頼みます!」


 ボクは声を上げた。

 それに対し片手を上げて答える。

 その手が少し震えていたのは見てないことにしたよ。


「それじゃあ始めようか」


 モーザさんはその合図を聞くや否や上段蹴りを放った。

 先手必勝。

 得体の知らないものにはそれが一番効果がある。


 黄人には防御されたが更に宙を『走』り、今度は殴り掛かる。それには意表を突いた。


 拳が黄人の顔を突き刺さり少しのけぞった。

 追い打ちをかけるようにモーザさんが横から蹴りを放っていく。


 胴に手を置きながら手をモーザさんへとかざした。手からは黄色い液体のようなものが発射されて顔にかかる。


「なぁんでぇ! こりゃ! うわっ! かれぇ!」


 ペッペッと口に入った液体を出している。


「ハッハッハッ! くらいましたね? 辛いでしょう! ハッハッハッ」


「くそっ! もうくらわねぇ!」


 モーザさんは宙を『走』り逆さになると黄人の頭目掛けてオーバーヘッドキックを放つ。

 黄人は苦し紛れに黄色の液体を放つが、それは地面を汚すだけにとどまり、後頭部へ蹴りが突き刺さった。


 膝を着いた黄人を更に追い詰める為に殴り掛かると、突如モーザさんの前から消えた。


 先程汚した地面の中から出てきたのだ。


「えっ? そういう能力なの?」


「ねぇ、もしかして色の天漢ってみんなそんな感じなのかしら?」


 ボクが驚いているとミレイさんも驚いたみたい。これは長期戦になるほど不利だぞ。


 モーザさんの後ろに出た黄人は後ろから殴り掛かる。とっさに気づいて転がって避けたが目を見開いて状況を整理しているモーザさん。


 黄人は連続して黄色い液体をばら撒き始めた。周囲は黄色い斑でいっぱい。


 ここからは黄人が翻弄してなかなかモーザさんの攻撃が当たらなくなった。徐々に負傷していく。


 そして、遂には力尽きて倒れてしまったモーザさん。

 あちらが一勝になってしまった。


「ハッハッハッ! どうなるかと思ったが、我らの色の天漢の特性に翻弄されたようだな!」


「次は自分が行くっす」


 真ん中で二人は目線をぶつけ合う。


「どこからでもかかってきたまえ!」


 コウジュは腕を光らせた。足と手を『捻』らせ肉薄したかと思うと黄人の足を『捻』った手で貫いた。


「まだやるっすか?」


「いや。負けだ」


 これでこっちも一勝となった。


 コウジュの天漢は『捻』なのだ。これも珍しいながらも見事に使いこなしている。だから強い。


「次は赤人だね」


 ボクがそう告げると、頷いてコウジュが前へと出た。


 あちらも赤に人が前へと出てくる。


「降参するなら早い方がいいぞよ?」


「しないっすよ。やりもしないのに」


「そうかえ。じゃあ、痛い目をみるといいぞよ」


 ぞよ? 不思議な喋り方をするなぁ。

 痛い目を見る。なにか勝てる見込みでもあるのだろうか。


「始めるぞよ」


 開始の合図を皮切りにコウジュは攻めた。

 先手必勝。同じように肉薄して『捻』った手を突き出す。


 相手の赤人は紙一重で躱して赤い液体をコウジュの右腕へと付着させた。


「ぐぅぅぅ!」


 右手を抑えながら悶えるコウジュ。

 液体を払うが完全に色は取れない。


「我の色は痛いじゃろ?」


 あの色は痛みを与えるのか。それはかなり嫌な能力だね。


「この位の痛みは我慢できるっす!」


 コウジュはまたもや『捻』ったさっきとは違う手を突き出す。

 再び腕に赤色をつけた。


「くぅっ! まだっす!」


 怯まずに今度は蹴りを放つ。

 この根性は予想出来なかったのだろう。

 蹴りをもろに受けた。


「なっ!? なんで我の天漢をくらってまだ動けるぞよ!?」


「自分が皆に与えた痛みと比べたら! こんなのはヘでもないっす!」


 よろけた赤人に追撃を食らわせる。

 紙一重で避けられまた足に色をつけられてしまう。


 でも、コウジュは止まらなかった。

 歯を食いしばり、痛みを根性で我慢して次から次へと攻撃を放つ。


 遂に腹を貫いた。


「ゴフッ!」


「終わりっすね」


「ぐぅ……くそっ!」


 その赤人は仲間の元へと戻ると治療してもらっていた。コウジュは立ったまま次の人を待っているようだ。


 相手は今治療をしていてそれを待っている状態。コウジュは外傷は内容だが、痛みは感じているらしい。大丈夫だろうか。


 これで二対一。こっちが優勢だ。あちらは次は橙人が来るらしい。


 その人は真ん中まで出てくるコウジュに向かって構えた。


「始めようか」


「……」


 コウジュは動かない。


「どうしたんだい? かかって来なよ?……ん?」


 橙人はおもむろにコウジュに近づいて目の前で手を振った。


 何してるんだ?


「凄い精神力だ。この子、痛みに耐えて気絶してるよ。字力は消えてるからもう痛みはないはずだよ。回復してあげて」


「えっ!?」

「ちょっと、コウジュ!?」


 ボクとミレイさんは駆け寄るとたしかに目を開いたまま気を失っていた。


 そんなに耐えていたのか。良く耐えたねコウジュ。ボクは誇りに思うよ。


 二対二で対等になってしまった。

 あちらはあと五人。こちらはあと三人。

 次はシゴクが行くらしい。


「兄さんとミレイさんの為に。ワッシが全員倒します!」


「頼んだよ。シゴクなら負けないよ。でも、無理はしないで。誰も失いたくはないから」


「任せてください! ミレイさん! ワッシの勇姿を見ててくださいね!」


 シゴクはカッコつけてミレイにキメ顔を披露している。


「わかったから早く行きな!」


「へい!」


 どこぞの下っ端みたいな反応を返して戦いの場へと出ていった。

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