第36話 『獣』領にて
街の皆とタイガさんを拝んで、これから供養する。
この領の領主の供養だ。
盛大に行いたい。
「シュウイよぉ。字力は頼むぜ?」
おっちゃんから頼まれたので、『天』へと返す。
「いきます!」
そう掛け声をかけて字力を報酬して、天へと返していく。タイガさんは天へと登りゆっくり休むのだ。
「タイガさんの後は誰が継ぐんだい?」
そう聞かれたボクたちは目を見合せた。
どうするかは決めていないけど、ちょっとボクに考えがあるだ。
「ボクに考えがあるから、発表するのはもう少しあとになると思う!」
「わぁったよ。楽しみにしてらぁ」
街の人達は引き下がってくれた。
その後、三人で『獣』領へと歩を進めた。
領まではまた死体の山を通るのだが、なるべく踏まないように進み、後で供養することを誓って一旦通り過ぎた。
『獣』領の熊の門番はボク達を見ると通してくれた。
「ボク達を通していいの?」
「何か用があるんだろう? ウチは今誰も統率できる者がいなくて混乱している。できれば混乱を収めて欲しい」
門番も困っていたようだ。
この領も混乱している。いきなり領主の獣王を失ったんだ。それはそうだよね。
『獣』国は初めて入った。大きな木の下に街が広がっている。このまちでもレンガ作りの家が多いようだ。大きな木の幹にはしめ縄が取り付けられ、祀られているようだった。
「この街の今の長は誰ですか?」
近くにいた鰐の獣人に話を聞いてみる。
「あんたたち外の人間か?」
「そうです。この街の今後について話し合いに来ました」
「あそこにいる狸爺が一番長生きだ」
「そうですか。有難う御座います」
狸さんへ話しに行った。
畑仕事をしているようだったが、声を掛けてみた。
「すみません。獣王を亡くした今、この街の方達へ話があり来ました。人を集めて貰えませんでしょうか?」
「んん? お前達この前までウチの王と争っていた連中か?」
「そうです。そのことでお話があり、来ました」
「ふぅぅ。わかった。ちょっと待ってろ」
あまり乗り気ではないようだけど、人を集めてくれるみたいだ。
ボク達はしばらく待ってみることにした。
広場に続々と人が集まってきた。
口々に話は広まり、多くの人が集まった。
「皆さん、私は元『魔』領の領主をすることになり、『生』領を起こした者です! この度は、戦いの中で獣王を殺したのはボクです。それは事実です。ですが、獣王と他の兵士の皆を供養しようと思い来ました」
ボクはなるべく大きな声で通るように注意しながら話した。
怪訝な顔をする人たちが多く、一人が声を挙げた。
「俺達は負けたんだから傘下に入れっていうのか⁉ どうせそうなんだろう⁉ そしてボロ布のように使って殺すんだろう!」
そう思っている人は多くいそうだ。
ここでボクの思っている計画を話そうと思う。
「そう思うのも無理はないでしょう。しかし、ボクは皆が平和に暮らせる領を作りたい。そういう思いでこれまで戦ってきました! 今回戦いになったのは、私達は和平の使者を殺してしまったからです!」
そこまで話すとコウジュが一歩前に出た。
体が震えている。この人数に睨まれてさぞ恐いだろう。でも、それだけの大罪を犯したのだからそれを実感しないといけない。
「自分が、使者を殺しました。殺される覚悟でここにいるんす。どうぞ、煮るなり焼くなり好きにして欲しいっす!」
しばらく沈黙の時間が続いた。
「私は、争いが嫌いです。だから、平和に暮らしたい。でも、獣王様は平和な世にするためには戦うしかないと言っていました。本当にそうですか?」
そのウサギの女性は目を潤ませて皆に訴えた。
「ワシももう争いはこりごりじゃ。余生は静かに暮らしたい。若い命を奪うことはしたくないんじゃ」
狐のお爺さんもそう訴えた。
それを機に自分もだ、私もだと同じような意見が話された。
コウジュはそれを聞いて俯き。膝をつき地面を涙で濡らしていた。
「ボクが平和な暮らしをしたいと思えたのは、『粋』領のタイガという人物の思想に共感したからです。そのタイガさんはこの前の戦いで『覇』領の兵に殺されました。ボクは悲しみのどん底に陥り。そして、これから何ができるのかを考えました」
街の皆は静かにボクの話に耳を傾けてくれていた。
「皆さんがよければ、戦いとなった広い草原に、一つの領を作ろうと思います。そこは、色々な領の人が集まる街です。迫害のない、ただ平和な街。よろしければ、そこへ遊びに来てみてください。きっと居心地がいい場所でしょう」
ボクの心の中にあった計画を話した。
平和な領で人の集まることができる。そんな領。タイガさんやミレイさん、ボクの夢見た領。
夢を実現する為には各領に話をしに行く必要があると思った。
この敵であった領の人達が納得するなら、うまくいくと思ったんだ。
「私は賛成! いろんな人と出会いたいわ!」
「ワシもいろんな人を知ってみたいのぉ」
「俺も賛成だ。綺麗な人を嫁にするんだ」
「オレも戦わずに平和に暮らしたい!」
みんなが望むのはやはり平和な世なのだ。
これであとは『覇』国へ話しに行って同意を得られれば夢の領は成功する兆しが見える。
タイガさん。夢の国までもう少しだよ。
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