第37話 皆で供養
ボク達は『獣』領で一夜を過ごし、『覇』へと向かっていた。
話をした後にボクは話が分かる人で安心したと声を掛けてくれた。
獣王はいい人だったが、争いのことばかり考えていて領民に幸せは後回しだったと語った。
たしかに獣王は話の聞かないひとだったとボクも思う。でも、もの凄く強かったのを覚えている。
遠目にもわかる白い街並みが目に入った。
門番はいない。そのまま素通りする。街全体がスラムの様になっていた。
みんながその辺に屯しているどうしたらいいかわからない状態なのだろう。
街の中心部へ行くと店を出している人がチラホラいた。
「おじさん。ボク他の領から来たんだけど、この領って今どうなってるの?」
「この領はもう終わったのさ。覇王は死に、この領は他の領に呑み込まれるのを待つのみなのさ」
「皆がそうなってるの?」
「あぁ。見ればわかるだろう? なぁんにもしたくないし何のために生きているのかわからないのさ」
たしかに街に居る人達は活力が無いように見える。
ボクは一人一人に声を掛けることにした。
この領の外にもう一つ平和に暮らせる領ができたらどうだろうかと話をして歩いた。
どうでもいいという人もいたが、興味を示す人もいた。
こんな領だったんだなと改めて知った。
「あれ? ゴミ屋じゃねぇか⁉ おめぇどこいってたんだよぉ⁉ 消えちまいやがって!」
「ボクは今、生き残った領の領主として話をしに来ています」
「はぁ⁉ なぁに言ってんだ⁉ 少しデカくなったくらいでデカい態度とるんじゃねぇ」
少しふくよかなそのゴミ屋はボクに殴り掛かってきた。
字力を使うまでもないので、そのまま手で受け止める。
「なっ⁉ 生意気な! この! くそっ! 抜けねぇ!」
手に力を込めて捻ると。
「いてててて!」
膝をついて悶えた。
「いつまでもボクが弱いと思わないで。こっちは領を背負ってる」
「……本当に領主なんだな」
手をさすりながらそう呟いた。
「ボクはこれから戦いの場になっていた草原に一つの新しい領を作ります。どの領からも集まることができる平和な領です。争いはご法度。争えば両成敗します。もしよければ、来てみてください」
そう言い放ち、身を翻した。
そのまま『覇』領をあとにした。
この領ではまともな話をできる人がもはやいない。
早いうちに救いの手が必要だ。
そう考えたボクは『生』領で人を集めた。
供養をするから参加したい人は是非にと。
その後、『粋』領、『獣』領、一応『覇』領でも呼び掛けたのだ。
ボクはというと本来の『集』を使い、死体を集めて行った。
改めて集めてみると山になるくらいの死体の山となった。
こんなに多くの人が戦いで亡くなったのだと思うと悲しくなる。
ボクは当事者として供養しなければならない。
殺したのはボクなんだから。
「シュウイ、大丈夫?」
そんな思い詰めていた顔をしていたからミレイさんが心配して声を掛けてくれた。
「うん。ありがとう。なんかこんなに沢山の人を殺してしまったんだなって思うと悲しくなる」
「でも、皆が争った結果であって、シュウイだけが悪い訳じゃない。それに、止めようとしたじゃない?」
「そうだけど、話にならないから実力行使っていうのじゃダメだったんじゃないかな。時間をかけて相手が理解するまで話し合わなきゃいけなかったんじゃないかなって……」
目を吊り上げたミレイさん。
「そうやって自分ばかり責めないの! 獣王は話をしたけど、襲ってきたんでしょ⁉ どうしようもないじゃない!」
「それも、さらっといなせるくらい強ければよかったんだ。ボクはまだまだ強くなるよ」
「なんか違う気がするけど、まぁいいわ。あんまり気にしないのよ」
「有難う」
他の領の人達は思ったより沢山集まった。
ありったけの字力を出力する。
「天へと返します!」
キラキラと光が天の川の様に天へと昇って行き、死体は光となり消えていく。
周りの人々は手を合わせて兵達の供養にと祈りを捧げた。
この草原は綺麗な状態になり、まっさらな土地となった。
ここでボクは少し皆に清めの酒を持ってきたのだった。
前の領主が貯め込んでいた倉庫の中に眠っていた清酒。
田舎で米から作ったものを献上してもらっていたようだ。
今はそこの田舎と契約してお金を対価にして買い取っている。
「みなさーん、清めの酒をお持ちしました! 飲んで供養としましょう!」
器なんてないからみんな手を受け皿にしてもらうんだけど。
貰う目は嬉しそうだった。
この世では酒なんかは嗜好品な為、領主ぐらいしか口にできないのだ。
初めての三人もいるんではないだろうか。
皆、嬉々として清酒を口にして笑顔をこぼしていた。
中には初めて『獣』領の人を見た人もいて、驚いていた。
天漢が身体に影響するというのは知っていたようだが、獣の文字を持つ人たちがどのような人なのかは知らない人もいたようだ。
まっさらな心でみたら差別なんて怒ることはないだろう。
だって、皆同じ人なんだから。
もし悲しい発言をした人は気持ちが変わるまで領には入れないようにしよう。
そんなことを心に決め、この日を境に大きな争いはこの世界からなくなった。
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