第34話 真犯人とは

「はい! 使者を殺した人ですが──お二人の良く知る人でした」


「えっ?」

「嘘でしょ? シゴク……嘘って言って欲しい……」


 ボクはシゴクに懇願した。こんなことしても無駄なのに。現実は変わらないんだから。


 

◇◆◇



 その人がいるところに来ていた。


「ねぇ、どういうことなの? なんであんなことしたの?」


「はははっ! 何のことっすか!? シュウイは何言ってんすか!?」


 惚けたように笑っている。


 何したかわかってるのか?


「コウジュゥゥゥゥ! 何したかわかってんのかよぉぉぉ!? タイガさんが死んだんだぞ!」


 胸ぐらを掴んで壁に叩き付ける。


「お前が殺したんすよ!?」


「なんだって?」


「シュウイが、タイガさんが弱いから死んだんじゃないっすか? 違うんすか? なに、人のせいにしてんすか?」


 嫌な笑みを浮かべながらそんなことをのたまっている。

 コイツはタイガさんを冒涜している。


「元はと言えば、お前が使者を殺したからだろうがぁぁぁ!」


 再び壁に叩きつけた。


 心臓の音がうるさい。

 血がドバドバと頭に送り込まれて怒りという火に油を注いでいる。


「はっ。お前なんかが幹部扱いされるのはおかしいんすよ」


「なに?」


「俺は、時期幹部って言われてたんすよ! それが、シュウイが来たらお前ばかり可愛がられて幹部みたいな扱いっす! しかもこの領の領主はシュウイに任されるし、姐さんまでついて。自分は部下扱いっす。やってられないっすよ!」


「…………ことで」


「なんすか?」


「そんなことで! そんなことで全部台無しにしたのかよ! あぁぁ!?」


「なにがそんなことなんすか!? 自分にはそれが全てだったんすよ! そもそもタイガさんが死ぬなんて想定外っす!」


「想定外じゃすまないだろうがぁぁぁ!」

 

 壁に押し付けてすました顔をしているコウジュの目を見る。

 何を考えているのかわからない。

 濁った溜め池のような眼をしている。


「コウジュは何にもおもわないの⁉ 兄貴が死んだんだよ⁉」


 後ろでミレイさんが叫んだ。

 ミレイさんにはもう辛い思いをして欲しくない。

 コイツはもう話さない方がいいんじゃないかな。


「自分は、後悔してないっす。みんなタイガさんが、シュウイが、姐さんがいけないんすよ。自分をないがしろにしたから、その報いをうけたんすよ」


「兄貴はねぇ、シュウイの側にコウジュがいれば安心だって、その配置にしたのよ? 自分にもコウジュは必要だったからシュウイの側に置こうって!」


「だったら! だったら、自分を領主にしてもいいんじゃないっすか? シュウイが部下でもいいじゃないっすか⁉」


「あんたが! 兄貴に自分は縁の下の力持ちでいいって言ったんでしょう⁉ それを忘れたわけ⁉ だから希望を汲んでシュウイの側近にしたんでしょう⁉」


「そんなこと……」



◇◆◇


 

 あれはこの領が形になってきた時だっただろうか。


「俺にこの領の領主なんか務まるのかなぁ? なぁ? コウジュ?」


 その若かりし頃のタイガさんは自分を見て不安げな顔をして言ったっす。


「自分なんかよりタイガさんの方がカリスマ性あるじゃないっすか」


「でもよぉ。面倒見のいいコウジュの方が領主に向いてるよな?」


「やめてほしいっす。自分はタイガさんを支える縁の下の力持ちでいいっすよ」


 この時は心の奥底からそう思っていたんす。

 いつの日からかタイガさんのような領主になりたい。

 あのカリスマの様に華やかな暮らしをしたい。


 あの人のような……。


 

◇◆◇



「いつの間にか自分が変わってたんすね。だいがざん……」


 俯いていたコウジュの目からは涙が溢れていた。

 口を捻じ曲げて悲しみに耐えて。

 その涙に嘘はないと思う。


「ねぇ、兄貴はねぇ。字兵の中で一番コウジュをかっていたのよ? 功績をあげれば自分の様に喜んで私にはなしてきたわ」


「うぅぅぅ……ぐぅぅぅ。……ぅぅぅぅぅ……」


 コウジュは力なく座り込み床を濡らしていた。

 そんなやりとりをした場所がよくなかった。

 施設の前だったから、子供が来てしまった。


「おにいちゃん、どうしてないてるの?」


「うぅぅぅ」


「よしよし。わるいことしちゃったの? そんなときはねぇ、ごめんねっていえばいいってママがいってたよ?」


 その子は純粋無垢な気持ちでコウジュに教えてくれたのだろう。

 子供ってすごいな。

 大人が言えないようなことを真っすぐ言えるんだもんな。


「うん。わかったっす。ありがとう」


「うん! ちゃんとあやまるんだよ? ばいばい!」


 その子は笑顔を見せると手を振って去って行った。


 ボク達にとってこの空気を打開する救世主だった。


「シュウイ。自分が馬鹿だったっす。公開処刑でも何でもするといいっす。自分はとんでもない大罪を犯したっす」


「そうだねぇ。本当に取り返しがつかないことをしたよ」


 公開処刑とかすれば領主としての力を誇示できるし、他領にもこの人が犯人だったので殺しますと言える。


 ただ。ボクが他領の領主を殺してしまったのも事実。


 これはどうしようもない大罪だ。


「コウジュ。ボクと一緒に謝ろう。この領の人へ、そして、他領の人へ」


「そんな! 生きている資格がないっす!」


「だったら、それでも生きていたら罰になるんじゃない? ボクの中のタイガさんがコウジュを殺すのは許さないって言ってるんだ」


「くっ……わかったっす。本当にごめんなさいっす!」


 頭を下げるコウジュ。

 その頭をぐしゃぐしゃに撫でまわすミレイさん。


「こんのぉ! 馬鹿野郎が!」


「姐さん……」


「簡単に死ぬなんて許さないからね!」


「はい! 全力で生きます!」


 この騒動は犯人もわかったが、まだ事態は収束していない。


 まずは、『粋』領に報告だ。

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