第32話 生きる
「兄貴ぃぃぃぃ!?」
振り返ると複数の剣が串刺し状態になっているタイガさんが視界に入った。
咄嗟に目の前にいた獣王は『重』い一撃で牽制して駆け出す。
何とか『速』い動きでタイガさんへ駆けよる。
「タイガさん⁉ 今治しますからね! きさまら【ぶっとべ!】」
剣を刺していたやつらは吹き飛んでいった。
そしてタイガさんを『治』そうとする。
血がダラダラと流れて行く。
なんだよこれ。
早く『治』れよぉ。『治』れってぇ! 『治』れぇぇ!
「シュウイ。無駄だ。俺はもう死ぬ……」
「いやだよ。タイガさん!」
「大丈夫だ…………シュウイは……りっぱな領主だ……グフッ」
口からも血が零れ落ちる。
地面はもう真っ赤に染まり。
返り血なのか自分の血なのかもうわからなくなっていた。
「しゃべらないで! 今治すから!」
「……無理だ。わかるんだよ……グボッ…………俺の夢を……託す」
夢なんてもう知らないよ。
ボクの夢はタイガさんとミレイさんと平和な領で暮らすことだ。
タイガさんが欠けてちゃダメなんだよ。
「だいがざん! やだよ! ボクはだいがざんどいっじょがいい!」
「…………泣くな……みんな見てるぞ?…………領主ってのはなぁ………………笑え……」
タイガさんは口から大量の血を吐き、地面に突っ伏して動かなくなった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ボクの目の前は真っ暗になった。
◇◆◇
兄貴が倒れ込んだ後、シュウイは泣きながら叫び声を上げたの。
その瞬間、空気が凍てついた。
呼吸ができない。息を吸えない。息を吸うのよ。
喉を抑えながらしゃがみ込んでなんとか浅く呼吸をする。
視線の先のシュウイは得体のしれない者になっていた。
目は真っ赤になり。
周りにいた『覇』領の人間は血しぶきに変わった。
私には何が起きているのかわからない。
「シュウイ?」
私が声を掛けても反応はない。
ただゆっくりと腕を振るい、敵を血しぶきに変えていく。
敵は原型を留めていない。
獣人たちにも手を振るうと肉片へと変わる。
何をしているのかもわからない。
あれはなに?
「あの者を殺せぇぇ!」
「お前達! あの悪魔を殺せぇぇ!」
シュウイの周りは真っ赤に染まった。
吸った空気が鉄の味がする。
これは血しぶきが霧みたいになってる。
服も赤く染まり。
顔も、手も、足も全てが赤く染まっていく。
私はそんな中で立ち尽くしていることしかできなかった。
ゆっくりと歩いて行った先には獣王もいたが、なすすべなく肉片に変わっていった。
その後、攻撃してきたお面の人も地面の泥になる。
辺り一面赤い泥のできあがりだ。
シュウイはそこにいた者の殆どを殺し。気を失った。
残った残党は皆、恐れおののいて自領へと逃げ帰っていった。
私はシュウイを、周りの字兵が兄貴を抱きかかえて『生』領へと帰って行った。
後で『粋』領の皆には兄貴の死を伝えないといけないね。
待っていた街の人達は血相を変えて駆け寄ってきた。
「領主様は死んだのかい⁉」
「ううん。気を失っただけだよ。結局。シュウイが一人でやったようなもんだ」
「そうなのかい⁉ ミレイさんも血だらけだけど大丈夫かい⁉」
自分の姿を視線を落として確認する。
たしかに真っ赤になっているみたい。
「うん。私は大丈夫。なんにもできなかった」
後悔からか、安堵からか。
川が決壊するように目からは涙があふれた。
私は、兄貴やシュウイの為になにかできたのかな。
戦いに力は貸したけど、結局辛い所は全部背負わせちゃった。
兄貴の死は皆で背負おうよ。シュウイ。
抱きかかえているシュウイは天使のような寝顔だった。
無防備に寝ている赤ん坊みたい。
周りの人を一つも疑っていないような。
純粋無垢なその顔を私は愛おしく思えた。
「ミレイさん!
シゴクか。あんたは見なくて良かったかもね。
あんなシュウイを見たら悲しむよ。
「シゴク。あの件はどう?」
「わかりました。それが──」
「ごめん。後にして欲しいの。今はシュウイを休ませるわ。私も少し休むから」
「そうですね。では──屋敷で休みましょう」
街の人々は海が割れるかのように道を開けた。
その道を歩き。私達は帰ってきた。
生きてる。
この生きているということをこんなに実感したことあったかな。
シュウイといるといっつも気が気じゃなくて。
危なっかしいし。それは私もなんだけど。
戦場に兄貴が来た時、嫌な予感がよぎったのよね。
なんだか『覇』領の仮面の人変な感じだったし。
その周りの人も人形みたいな動きしてた。
もしかして操られていたのかしら。
それだったら尚更嫌な奴。
人を盾にして自分が生き残るような奴だから。
そんな奴は粋なやつじゃない。
そうでしょう兄貴。
兄貴みたいに前線に出て戦闘立って戦うのが粋ってもんよね。
でもさ、死んだらダメだと思うわよ。
だってさぁ、シュウイの領主姿ちゃんとみてないじゃない。
そしてこれから来るであろう平和の領もみてないじゃない。
私は、兄貴がいてくれてよかったよ。
誇らしかった。そして、これからも誇りに思って生きていくわ。
ありがとう。
そしてお疲れ様。
兄貴と歩む人生は凄く気持ちのいいものだったよ。
私達が行くのはまだ先になると思うけど、天で待っていてね。
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