第31話 合流

 ボクは背中を見せるんだ。


 迫り来る猿の獣人を殴り飛ばし、馬の獣人を蹴り飛ばし。

 時には言霊で吹き飛ばしながら獣王へと向かっていた。


 横槍が入らなければもう少しだったのに。


「シュウイ! 『覇』からなにか来る!」


 視線を動かすと、軍勢を率いて攻めてきている。この機に攻めてきたのか!?

 こんな時に。


 こんな数では両方の領なんて捌けるわけがないじゃないか。


 本当にできないのか?


 タイガさんならやるよ。


「シュウイー! ミレイー! すまん! 待たせた!」


「タイガさん!? なんで?」


「お前たちがやり合いそうだって言うから仲間を集めて来てやったぜぇ!」


 ボクは胸が熱くなるのを感じた。

 これがタイガさんだよ。


 片腕と片目を無くしてもなお放たれるそのオーラ。片手で大剣を担ぎあげて駆けている姿は強き人であることを誰も疑わないだろう。


「兄貴!? 動いて大丈夫なの?」


「あぁ。大丈夫だ! 動くのが間に合ってよかった!」


「シュウイ。お前はライオンを殺れ! 俺はあっちの能面をやる!」


 そう指さしたのは『覇』領の領主と思われる奴だ。そいつは顔に白くて顔の薄い面をつけている。


「タイガさん無理しないでよ!? 」


「わぁってらぁ! お前は行ってこい!」


 背中を押されたボクは気持ちが昂っていた。何者でも相手にならないようなそんな気さえする。


「はい!」


 タイガさんがいるならボクは安心してコイツを葬れる。


「【ぶっ飛べ!】」


 その言葉に呼応するように前の道を空けて吹き飛んでいく獣人達。

 俺は吹き飛んでいったその道を進んでいく。


「どけどけどけどけーー!」


 道を阻んでいる人を次々と『力』で飛ばしていく。それによって進行も少し遅くなっているみたい。


 もうすぐだ。獣王の前。


「そなたは中々に強いようだな。いいだろう。相手になろう」


 はははっ。ボクは別に強くないよ。

 弱いけど、タイガさんがいるから強く入れるんだ。


 この人はたぶん言ってもわからない人だ。

 ボクは踏み込むと共に胸を『貫』いた。……かにみえた。


「おう。いい一撃だな。だが、甘い」


 腕を掴まれ投げ飛ばされた。

 人を巻き込んで吹き飛ばされていく。


 即座に起き上がると、前傾姿勢で踏み込む。

 全『速』力で肉薄する。

 手を添えようとしたが、それもひらりと避けられる。


「そなたには触れられてはいけない気がするな」


 拳が顔に突き刺さる。


 また吹き飛ぶ。地面に何度かバウンドしながら転がっていく。途中体制を立て直し、攻めるために考える。


 コイツは強い。戦い慣れていると言った方がいいかもしれない。経験ばボクが断然浅い。


 そんななか何ができるのか。それを考えると、奇抜なことしかできないんじゃないかなって思う。


 そこで思い出した。ボク、自然系統の文字もあるんだった。


 ライオンへ向けて口から炎を吹く。


「うおっ! 自然系も使うのか!? なんて子だ!」


「これはどう?」


 細い水を高出力で放つ。


 ──ズバッ


 後ろにあった門が綺麗に斜めに切れた。


 鈍い重低音を立ててその辺に門が転がる。


 そして、『風』をおこして竜巻を作ればいいと思った。


 風で吹き飛ばされて落ちてくる。

 だが、やはり無傷であった。


「しぶといなぁ。丸焦げになれ!」


 ボクは手をかざして『雷』を放った。


「ぬうっ!」


 腕を十時にして雷に耐えている。

 まだまだ出力は上がる。

 字力を解放していく。


「おらぁぁぁぁ!」


「ぬぅぅぅぅ! ぐぬぅぅぅぅ!」


 獣王は身体から煙をほとばしらせている。

 こんなことで死にはしないだろう。

 さっきの虎のようにライオンの本来の姿に戻りつつある。


「ガルルルアアアア!」


 体に向けて空気を『撃』つ。

 空気の塊を打ち出したけど、ビクともしない。

 遠距離は威力がなくていけないね。


「【潰れろ!】」


 字力を飛ばすが、何かを察知したのか少し避けたのだ。

 片耳が潰れてなくなった。


「くっそぉ! 貴様ぁぁぁぁ! 許さんぞぉぉぉ!」


 獣王は発狂した。

 ボクは『瞬』時に獣王の上へ移動し、上から『重』い蹴りを放つ 。


 殺すつもりで放ったこの一撃はギリギリで横に躱され足の指を潰すにとどまった。


 くそっ! 反応が早い。流石に獣の王を名乗るだけのことはあるな。

 どうすればいい?


 ボクは『剣』を出して斬りかかる。


「今更普通の攻撃が効くと思っておるのか?」


 何度か振るうが全て避けられる。


「こんなものか?」


 気がついたら上を向いていた。

 顎をやられたみたいだ。


 何でこんなに避けられる?

 何でこんなに攻撃が当たらないんだ!

 なんでだ?


「そなたは頭で動くほうなんだのぉ」


 ──ドゴォッ


 腹に爪を立てた手がめり込んでいた。

 やられた。

 なんかがおかしい。


 ボクはこんなに弱かったの?

 なんでこんな獣に勝てないの?

 そんなにこの人たち強いの?


 ボクは何のためにここに居るの?


『一緒に天下をとらないか?』

 かつてのタイガさんの言葉が頭に蘇る。


 そうだ。

 ボクは皆で平和な世を作るために居るんだよ。


 この人はその平和な世には必要ない。


 ボクは『瞬』時に間合いを詰めて『力』を込めた拳を放つ。

 こんなんじゃダメだ。


 手刀で『斬』りさく。

 これもダメ。


 くそっ! 何故当たらない⁉


「兄貴ぃぃぃぃ!?」


 そんな時に嫌な悲鳴な聞こえた。

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