第29話 『獣』領の実力

 このままではまずい。

 一旦戻って字兵をかき集めることにした。


 話し合いの場を設けることができればいいのだけど。

 その為には、まずあの虎を鎮める必要がありそうだ。

 街を走り回り、『獣』領が攻めてきたことを知らせる。


 字兵で戦ってくれる人を募る。

 これが強制ではないことを告げつつ、人が集まれば一緒に出撃する。集まらなければ、ボクが一人で出る。


 自分の皮鎧とナイフ。頭を守るヘルメットのようなものを被り迎え撃つべく領主邸の前に躍り出る。


 人だかりができているが、ついて来てくれる人たちなのかな?


 数はざっと五十人ほど。対する敵は恐らく五百程いる。兵力が十倍だ。数だけみれば絶望的。


 皆装備的には皮鎧と剣やメイス、斧等武器を手にしている。


 ボクが出てきたことを認識すると人だかりの真ん中に通り道ができた。


 その真ん中をボクは歩いていく。


 ボクの後に、ミレイさん、モーザさん。そして字兵の皆がぞろぞろとついて来てくれている。


 今回、シゴクは使者を殺した犯人解明を急ぐため、不参加だ。コウジュも施設を守る使命があるため、不参加。


 門をくぐり、ボク達は『獣』領の兵達と対峙した。


 さまざまな人がいる。『虎』『象』『狼』『さい』『鷲』見ている限り多種多様。鳥の種族もいるから上からの攻撃も想定される。


 厄介な相手だろう。だが、ボク達はこの領を守る。


 相手の戦闘には『虎』の人が剣を掲げて立っている。


「お前達のような話の分からない悪魔は滅びてしまえ!」


「話をしない? たぶん、あなた達は勘違いをしてる。ボク達はこんなことをしたくない!」


「ふんっ! 使者を殺しておいてなにをいう!」


 それに関しては、わかっていないから謝るしかない。

 

「それは、本当に申し訳なった! でも、不測の事態だったんだ! 今急いで犯人を捜しているんだ! 待ってくれないだろうか⁉」


「はんっ! 苦しいいい訳を……我らはお前達みたいな悪魔の話は聞きたくない!」


「それは違う! ボク達は、この領は変わったんだ!」


「えぇぇい! うるさい! やっちまえぇぇぇ!」


 地響きのような雄叫びを上げて駆けてくる『獣』領の兵達。


 ここまできたら、もう引くことはできない。

 全力で迎え撃って生きよう。


「もう。本当に愚かだなぁ」


 ボクは『辞』を使用することにした。

「【止まれ】」


 最前列を走っていた人と次の列の人くらいまで声が届く範囲の人は急に動きを止めた。

 

 あまりのできごとにボク達の仲間も戸惑って止まってしまっていた。


「なにやってんのよ⁉ 行くわよ! ぁぁぁ!」


 ミレイさんが止まってる人目掛けて気の塊を放って吹き飛ばしていく。


「ボク相手なのに普通に攻められると思わない方がいいよ?」


 目の前にいた兵の腹を『衝』撃を乗せた拳で後ろにいた他の人ごと吹き飛ばす。


 戦いは始まってしまった。始まってしまってはもう止まらないだろう。早く終わらせるまでだ。


 後から人をかき分けてやってきた『熊』と対峙した。


「お前が領主か? 弱そうだ」


「そう。あんまり殺したくはないんだけど、投降してくれない?」


「ガッハッハッハ! 面白い冗談だ!」


 熊さんは話ができるけど、ひいてはくれないようだ。


 その鋭い爪を振り下ろしてきた。直前にバックステップで下がった。危ない。やるしかないか。


「覚悟してね」


「ふんっ! 貧弱な奴なんかにはやられん!」


 前傾姿勢になると突進してきた。

 ボクも前傾姿勢になり『突』撃する。


 車が当たったような鈍い音を立てて肩に衝撃が走った。

 少し押し返される。

 こっちは字力を使っているのに押され気味だ。


 身体を『柔』らかくして軟体動物のように地面に背中を付きながら熊さんの後ろに抜ける。


 地面を蹴り、『跳』躍すると『鋼』の腕に変化させて力いっぱい殴りつけた。


 拳に手ごたえはあった。これで動かないでいてくれるといいんだが。


 そうこうしている間にも周りでは乱戦になっていて、こちらが押され気味だ。


「おぉぉ。かてぇな! まだまだ俺は大丈夫だぜぇ⁉」


 仕方がない。強硬手段だ。


「悪いね。足を『潰』させてもらうね」

 字力を使い両足を潰した。


「ガァァァ!」


 これで少しは大人しくなるだろう。

 次は『鷲』の鳥人が上空からかぎ爪で攻撃してきた。

 様子を伺っていたんだろう。


 身体を『柔』らかくして躱したが、身体には赤い一筋の傷。


「このぉぉ! 【落ちろ!】」


 バランスを崩したようにドサリと地面へ墜落する。そこへ即座に駆けつけ、『力』いっぱい下顎を殴りつけた。

 気絶した所で背中に生えている翼を腕を縛る用で持っていたロープで結ぶ。


 これで飛べなくなった。


 皆には悪いけど、なるべく人は殺したくない。それも、誰が悪いかがはっきりとしないからだ。


 誰かの仕組んだことじゃないかと思っている。


 何かがおかしい。こんなことで戦ってはダメなんだ。


 そう思いながらも相手は容赦なく襲い掛かってくる。


 多少の犠牲は仕方がない。うちの領の兵も恐らく無傷では済まないだろう。亡くなる人も出て来るかも。


 ボクは一先ず、虎さんを黙らせようかな。


 視線の先には各兵隊へと激をとばす、白い虎の獣人が映っていた。

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