第28話 混乱の兆し
シゴクが来てから三ヶ月程たっただろうか。非常に優秀な部下となった。
女好きが酷くて見る人全員にプロポーズする勢いだったのには驚いた。
それさえ目をつぶれば街の揉め事も解決できるし、問題点をあげれば少しすると解決案を出してきてくれる。
それが段々と高い精度になっていくものだから、感心した。
やはり『極』という天漢を貰っているだけはある。色んなことを極めて行けるのだと思う。
ボクよりも領主向いてるんじゃないかなって最近思うんだよね。
それをこの前チラッとシゴクに話したら、最終的には今の時代、強い人が領主になった方がいいと言われた。
シゴクに勝ったボクが領主なのは妥当なところなんだとか。「というか、
いると思うよ? たぶん。
「シュウイー? なんか『獣』領から使者だってぇ。街をブラブラ見てるらしいけど、どうするー?」
「そうだねぇ。会ってくるよ」
「一人で大丈夫?」
「んー。なんの話しか分からないけど、大丈夫でしょ」
そう。大丈夫だと思っていた。
反映してきたこの街、この領は平和な世の中になったと。そう思っていた。
領主邸を抜けて街並みを出店のあるところを見に行く。それらしい人はいない。
死者は狼の天漢の持ち主だから犬耳があり、しっぽのある人らしい。
そんな目立つ人すぐに見つかると思ったんだけど、なかなかみつからなくて。街をさまよっていた。
──キャーーーー
何処かで悲鳴が聞こえる。
なにか事件だろうか?
急いで音を『集』める。
『おい! これ街の人か?』『耳生えてるぞ?』『どこの人だよ?』『誰だこんなことしたの?』『死んでるよな?』『領主様は?』
これはちょっとヤバいかも。そう思い進めていた歩を早めて走る。
音の方向的に裏の方だ。
施設に近い路地で倒れているのは血だらけな耳を生やした人。
駆けつけ、状態を確認する。
脈は……ない。
というか。心臓がない。
胸に大きな穴が空いていた。
誰がこんなことを。
一応『治』してみる。
効果がない。ということは、やはり死んでいる。
「ここへ一番最初に来た人はいるかな?」
「はい! 私かな?」
女性の人だった。
あの悲鳴をあげた人かな?
「来た時にはこの状態だった?」
「はい。周りには誰もいなくて、この人が横たわっているだけでした。恐いですね……」
たしかに、この使者を狙ってのことなのかどうかは定かではない。けど、余りにもタイミングが良すぎる。
この使者を狙った可能性の方が高いと思うんだけどね。ボクは使い方を覚えたばかりの『念』を飛ばしてシゴクに繋いだ。
『シゴク、使者が何者かに殺された』
『えぇっ!? 一大事じゃないですか!』
『あぁ、誰がやったか洗い出せる?』
『やってみます!』
『頼んだ』
これでとりあえず、シゴクに任せるとして。
この使者をどうするかだなぁ。
このまま返したら宣戦布告と取れるし、謝罪に伺うしかないかな。
その使者を抱き上げるとボクの着ていた上着を掛けて領主邸まで運ぶことにした。
そして、この遺体をシゴクとミレイさんにも見てもらおう。
最初に発見した人が誰も見ていないんだったら目撃情報から当たるのは無理だろうか。でも、周りで見た人を当たっていけば、誰が浮上するかもしれない。
領主邸につくと使者を寝かせて祈りを捧げる。
「えっ!? その人もしかして!」
やって来たのはミレイさんだ。
「うん。探しに行ったら殺されていたんだ」
「酷い。胸を一突きね……」
「うん。これって素手かな?」
「傷を見るに、素手ね。刃物ではない。」
「だよねぇ」
そう断言するミレイさん。ボクよりも前から戦いに身を置いていたこの人が言うなら間違いないんだろうね。
困ったね。ミレイさんと支度して謝罪に行こうか。
「ミレイさん、一緒に謝罪、行って貰える?」
「えぇ。それで何とか収めるしかないわね。直ぐに行きましょう」
ミレイの賛同も得られたので、ボクは準備をする。なにか持っていった方がいいかな。慰謝料とも言われかねない。
一応金は持って行こう。
最悪戦いになるかもしれないけど、流石に丸腰で行かないとおかしいかもしれない。
防具だけして行こう。
ミレイさんにもそう指示をして行くことにした。
領主邸をシゴクに任せて二人で出ていくことにした。
領の領境まで行き、門を出る。
隣の『獣』領からは兵がワラワラと出てくるのが見える。
何故に攻めてくる準備をしてるんだ?
まずい。どういうことだ?
「あれらが和平の使者は殺された! 今こそやつら、『魔』の領を討ち滅ぼすべし!」
大きな声が聞こえた。
使者の死がもう耳に入っているみたいだ。
何かがおかしい。
こんなに早く情報が行くなんて。
ボクは『走』り近くにいた兵隊へ情報を流してみようと思い立った。近くにいた馬の人に声をかける。
「あのー、あの領は『魔』は滅んだんですよ。今は『生』の領として平和な領になってますよ?」
「ふーん。でもな、そんなの関係ねぇんだ。なぜなら、攻めるのはもう決まってるんだから。お前、あの領のものか?」
「はい……」
「早く逃げた方がいい。虎が怒ってるからな」
その兵の中心部には虎の姿をした人が雄叫びを上げながら立っていた。
もう戦いは免れないようだ。
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