第27話 シゴクの意外な一面
お土産の野菜を抱えながら、シゴクと二人で街への道のりを歩いていた。
「兄さん、街っていいとこですか?」
「んー。まぁ、今は発展してきてるから店とかも色々あるし、いい所になってるんじゃないかなぁ」
「ふーん。そうなんですねぇ。前は暗黒街とか呼ばれてましたけど……」
そんな感じで呼ばれているのは知らなかった。まぁ、確かに暗い印象はあったから、あながち間違ってもいない。
少し離れた村でもそんな感じで街のことが伝わっていたのか。だから、あんまり遠くから街に来る人がいないんだな。
よく来るのは一旗揚げようと意気揚々と気合い入れてきた盗賊みたいな輩だが。すぐに場違いなことを察して大人しくなるんだよね。
「たしかに暗かったもんな。今は明るいもんだぞ? 夜だって光があるからな」
「えっ!? どうやってですか?」
「そりゃあ、字力の応用だよ。自動って訳にはいかないから、最初の発動は手で触って字力込めるんだ。それも仕事になってる」
目を見張って驚いている。
「そんな安全な仕事があるんですね!」
「うん。だから、女性でも仕事ができる。その仕事は報酬はそこまで良くはないけど、それでもいいっていう人がいるからね」
ウンウンと頷いて街へと視線を巡らせる。
行くのが楽しみになってきたな?
「そういう街はどう?」
「いいですね。優しい街です」
「はははっ! ありがと! そう言って貰えると頑張ってきたかいがあるよ」
ボクは、その言葉にホッと胸をなでおろした。
シゴクは街のことを教えたら凄くいい案をたくさん出してくれそうだ。
そう思ったらボクも街に戻るのが楽しみになってきた。色々と考えるのを手伝ってくれる人ができたので、凄く心がラクになった。
視界にはもう街が見えている。
もうすぐだ。
なんか街がザワついてる。
「シゴク、なんか変だ。ちょっと急ごう」
「はい!」
急いで街に戻ると騒然としていた。
領主邸の前には数人が倒れていてミレイさんが頭から血を流している。
まだ立っている人はミレイと対峙して怒鳴っている。
「領主を出せ! こんな平和な街では俺たちは生きて行けねぇ! 前の街に戻す!」
「だから、私が代理だって言ってんでしょ? かかって来なさいよ!」
こういう考えの人がまだ居たんだね。
平和な世の中で生きていけないのは自分の好きにできてたことができないからだ。
字兵としてお金を稼いで好きにすればいいのに。そういうことではないんだろうけど。
「ワッシに任せてください!」
シゴクが声を上げ、ミレイさんの前に出た。
「ここはワッシに任せてください! 貴方は治療を!」
ミレイさんは目を丸くして瞬きをしている。
事態が飲み込めないんだろう。
そりゃ知らない少年が出てきたらそうなるわ。
「ミレイさん、大変だったね。有難う。今『治』すね。どう?」
「うん。痛みは引いた。有難う! やつら、意味わかんないんだよ!? 腹が立つよ! それより、あの子誰?」
「あの子はこれからボクの右腕として働いてもらう弟みたいなもん」
ボクのその言葉に胡散臭そうな顔をしてシゴクを見つめる。
「なんだクソガキィィ!」
「ワッシが相手だ! 可憐な女性を痛めつけるなんぞ、男の風上にも置けない!」
「うるせぇぇぇ!」
件を振り下ろして来た男だったが、クルッと回ったかと思うと背中から地面へと激突した。
そうそう。そうなるんだよ。
でも、こうして遠目から見ているとちゃんと分かるな。
攻撃してきた手や足に自分の手を添えて受け流しながらも、回すように手首を返しているんだ。なるほど。
次々と投げ飛ばしていくシゴク。
「なんだコイツ! 一歩も動いてねぇ!」
男たちが驚いたのはこれだけの攻撃を受けながら、一歩も動かずに捌ききっているということ。
「クソッ! こんなガキに! 一斉にかかれ!」
男たちは囲むようにして切りかかるが、全てを受け流された。先程と同様に背中をついて衝撃に顔を歪めていた。
「何度やっても無駄です!」
「領主はどうした? お前が領主か!?」
「違います! 領主の弟みたいなものです!」
吹き飛ばされた男たちはシゴクに適わないと思うとあろう事か、様子を見ていたボクに剣を突きつけてきた。
「コイツがどうなってもいいのか?」
「何やってんですか?」
「あぁ!? 人質だよ! コイツの命が惜しくば、領主を連れてこい!」
ボクはその男のあまりの滑稽さに笑いが込み上げてきてしまった。
もう。なんでこういう人ってこう、愚かなんだろう。
「ボクが領主だけど?」
「あぁん!? 思えみたいな小僧が?」
ボクは『瞬』時に後ろをとり、そして剣を握っている手を『力』いっぱい叩き落とした。
──ボギッ
「ガアァァァァ!」
勢い余って骨を折っちゃったみたいだ。
「ねぇ、何でこんなことするの?」
「俺たちは平和な世では生きて行けねぇ!」
「そんなわけないでしょ。ご飯食べてれば生きていけるんだから。ボクさ、ご飯はお金無くても食べれる様にしてるよね?」
苦渋に満ちた顔でこちらを睨んだ。
「お前みたいな領主の手ほどきは受けねぇ!」
「ふーん。じゃあ、死ぬ?」
ボクがその男の目を見るとガタガタと震え出した。
「いや……勘弁してくれ……」
「じゃあ、字兵になって稼いで食べたらいいじゃない。そしたら、ボクの手解きではないでしょう?」
「あぁ。すまんかった」
その男は力なくトボトボと仲間と共に去っていった。
「貴方さんは、なんというお名前なんですか!? ワッシはシゴクといいます!」
「えっ? 私? ミレイだけど」
「あぁ! なんとお美しい名前! 今後はお守りさせて頂きます!」
「えっ? あぁ。うん。ありがと?」
戸惑いを隠せないミレイさん。
ボクも戸惑った。まさか、こんなにシゴクが女好きだったなんて……。
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