第24話 街、発展中

 字兵を募ったりして二カ月が経った。

 そこら中に新しい店がオープンしたり、街の外にまで建物が建ち、規模を広げつつある。


 今では雰囲気が明るくなり、暗く見えることはなくなった。

 そして、環境整備として各所に暗くなったら点く街灯を付けた。


 字力を元にして動くものなので、最初の付けるのは字兵にやってもらって報酬を出す。

 これも任務とすることで誰でもお金を手にすることができる。


 今になって思えば、ボクが貰ってたゴミ屋をしていたころの百ルノーは安かったなとわかる。

 パン一個しか買えなくて良く生きてたな。

 我ながら感心する。


「おっちゃんお客さんはどう?」


「おう! にいちゃん。客はいい感じに来てくれてるよ。納める税も減ったし嬉しい限りだね。生活が潤うよ」


 串焼き屋のおっちゃんはにこやかに答える。

 結構お客さんいるもんな。

 ボクも二本買った。


 横にいる人の分も買わないと。後でうるさいから。


「これさぁ、相変わらず美味しいねぇ? シュウイ?」


「ねぇ、ミレイさんの役割って何なの?」


「えぇ? 秘書でしょ?」


「秘書ってついて歩くことをいうの?」


「そうじゃないの? 違うの?」


 なんか違う気がするんだけど、ボクもよくわからないからなぁ。

 タイガさんの所のお付きの人は、もう少しなんか色々動いてくれてる気がするんだけど。


 けど、ミレイさんに何かをお願いするのも心配だし、ボクがミレイさんのことを逆に監視する感じになっているからいいか。


 変にもめ事とか起こされても困るしな。


「だれかぁぁぁ! 盗人だぁぁぁ!」


 聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 声のする方へと駆けつける。


 店の前には店主とみられる人が慌てていた。


「どこに行ったか分かる?」


「あっちの路地に逃げました! 領主様! お願いです! 捕まえてください!」


 店主の指した方向へと向かいながら音を『集』める。


『これおいしいねぇ』『これ片付けてくれ!』『へい!』『お肉三個くれ!』『あいよ! 毎度!』『あっぶねぇ! 気を付けろ!』『アイツなんなんだ⁉』


 見つけた。きっとこの声の方だ。

 踏み込みを強くして走る『速』度を上げる。

 

 次々と店と人がボクの視界の外へと流れて行く。

 本当にこの辺は店が多くてにぎやかになったものだなぁ。

 今となっては『粋』領から来る人もいるからなぁ。


 視界の先に慌てて逃げている人がいる。

 目標を見つけたのでそこまで『瞬』時に辿りついた。


「はい。ストップ」


 襟首をつかんだ。


「ぐえぇぇ!」


 その男は首を抑えながら悶えている。

 首の後ろには『走』の漢字。

 コーザさんと同じだ。


「ねぇ? なんでこんなことしたの? 何盗んだ?」


「ひぃぃぃ! りょ、領主様⁉ いや、お、おれぁそのぉ。金がねぇもんで食べた後金を払わずに出てきてしまって……」


「ねぇ、それで店の人だってお金貰って生活してるのわかるでしょ?」


「わかりますっ! でも、はらぁ減ってしょうがなくて……」


「はぁぁぁ。まだ広まってなかったか」


 ボクはこの二カ月の努力がなんだったのかと愕然とする。


「あのね、ご飯食べるのに困ったら領主邸へ来て? ご飯配布してるから。それと、仕事はギルドに登録すれば簡単な任務で少しだけど、お金貰えるから」


「へっ? そうなんですか? いやー。田舎から出てきたばっかりで知らなかったなぁ」


「それと、強くなりたいならギルドのモーザって人に話を聞いて見なよ?」


「はぁぁ。しかし、俺の天漢は『走』ですぜ? こうやって逃げることにしか使えねぇ」


 その男は下を俯いてそう呟いた。

 かつてのモーザさんを見ているようだった。


「そのモーザさんは今じゃ五級。中堅の強さだよ? 色々と教えてくれると思うからギルドに行くことをおすすめするよ。今回はボクがお金を払っておく。今度やったら重い罰になるからね? 稼いだお金とか全部なくなっちゃうから気を付けてよ?」


「はいっ! 二度としません! すみませんでした!」


 その男を連れてさっきの店に行き、事情を話して一緒に謝罪した。

 料金はボクが出した。

 領の金を使うまでもない。


 その店主も事情を聞いて納得し「金がねぇならそう言ってくれよ。そしたら領主様から金とるから」。にこやかに宣言する。そういう風にする制度をボクが作ったんだ。


 お金がない人にはご飯を食べさせてあげて欲しいって。ボクがお金を出すからと。そしてギルドに行くように促して欲しい。店にはそう話をしているんだ。


 今回みたいに話を知らない人もいる。まぁ。それもずっとただってわけにはいかないんだけどね。その辺は複雑なんだ。


「なんか領主っぽいね。凄いじゃんシュウイ」


「色々考えすぎてボク疲れてきたよぉ。この辺も落ち着いて来たし、ちょっと休暇取って田舎へ旅に行こうかな」


「えぇぇ。私は?」


「ボクの代わりお願いしていい?」


「仕方ないなぁ。代わってあげるかぁ」


 ミレイさんへお願いすることにした。

 そうと決まれば早いもので計画を立ててみた。

 ざっと二日しか休みがとれそうにない。


 それだけでもいいから田舎に行きたい。


 ボクのその気まぐれの行動で思わぬ出会いに恵まれることとなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る