第22話 領主とは
この領を『生』領と名付けよう。
この領の方針を領民に知らしめるため、まずはこの街の人達に伝えて回ることにした。
時間がかかるかもしれないけど、一人一人へ伝えることにしたんだ。そうじゃないと気持ちが伝わらないと思うから。
串焼きのおっちゃんの元へ手始めに向かう。街は閑散としていて人はあまり歩いていない。
少し前に領の大半の人は死ぬという事態が起きた。革命軍とは名ばかりの愚かな集団に。
「おっちゃん。大丈夫だった?」
「おう。にいちゃん。奴らはどうした? 静かなもんだけどよぉ」
「ボクが始末したよ。だからもう大丈夫」
おっちゃんは目を見開いている。
ボクが倒したなんて信じられないのかもしれない。
でも、倒したのは事実。
「でね、ボクが領主になったんだけど、この領はこれから他人を殺したりしたら犯人は死罪。盗みをしたら財産没収。喧嘩をしたら殴られる罰をうける。こうして犯人を同じ目に合わせようと思うんだ。そしたら犯罪は怒らないんじゃないかなって」
「んーなるほどな。しかしよぉ。女を襲ったのとかはどうするんだ?」
「それね。考えたんだけど、罰を与えて解放してもまたその女性は襲われる恐怖に震えて過ごさなきゃいけないでしょ? だから、死罪でいいかなって。この領は愚かな人が多すぎるから」
おっちゃんは目を瞑り、しきりに頷いていた。
どう思われるだろうかと少し不安になる。
ボクの考えたこの罰は重過ぎるだろうか。
そんなことないと思うんだけど。
「いい考えかもしれねぇな。それなら容易に手は出さねぇさ」
「そうだよね。有難う。少し安心した」
おっちゃんはニコッを優しい笑みを浮かべた。
その笑みはタイガさんの笑みに似ている。
優しい、こちらを気遣うような雰囲気を醸し出している。
「にいちゃんが領主なら安心だ。それは俺からも広めるぜ?」
「うん。ボクもこれから伝えながらこの街を歩こうと思うんだ」
肉屋のおっやんや家がない者。略奪をしていた者や盗みをしてた者。真面目に畑仕事をしていた者。農業を営んでいた者。
行ける限りの人に会い、自分が領主になること。これからは罰則を与えるということを伝えた。
家がない者はそれに怒り、ボクを襲ってきた。それを制圧して、ボクはいつでも襲いに来ていいよと伝えた。この領の
最後に施設へ向かった。
夜の食事を食べている時でみんな食堂にいるみたい。
子供達ははしゃぎながらご飯を食べ。母親は笑顔でそれを眺めながら食事をとる。走り回っている子もいた。
この施設は安全だからこんなことができるんだもんね。
そこにボクが行ったら驚かれた。
「みんな。この前はボクが守護者を変わってしまったばかりに、あんなことになってごめんなさい。あの時の領主も革命軍の人間も、みんなもういないから安心して欲しい」
頭を下げて罵倒されるかもしれないと胸のモヤモヤを抑えながら話した。
「あなたは、私達を守ってくれました。感謝しています。領主がいなくなったのなら、誰がこの領の領主を?」
「それはボクがやることになったんだ。だからこの領はボクが守るよ」
それから犯罪を犯した人への罰の話とこれからの生活についてみんなに理解してもらえるように語った。
そこで一人の女性が手を挙げた。
「あのー、私は旦那が昔殺されてしまってもういないんですけど、ここに残ってもいいんですか?」
それでここに残りたい人がいるということを初めて認識した。
ここがよりどころになっている人もいるんだ。
前よりは少ないけど税をとるようにすれば可能かもしれないな。
当面は領主邸で見つけた金庫に沢山お金が入っていたからそれで賄おう。
「うん。そうだね。大丈夫だと思う。資金は前の領主が貯め込んでたみたいだから。他にも残りたい人いる?」
すると、半数以上の女性が手を挙げたのだ。理由は同じく、旦那さんがもういない。それと、いるけどもうこの生活がいい。そういう人は好きな時に会えばいい。
ここを守る体制は必要だろうから、入り口に守護者は必要になる。それを誰にするかを選別しないといけない。
今考えているのは『粋』領の字兵から選出して交代制でやってもらうのがいいかなと思ってる。
あー。難しいこと考えすぎて頭が爆発しそうだ。ボクこういうの向いてないんだよねぇ。
頭から煙が出そう。今日の所はもういいかな。
「出入りは自由にできるようにするから、残りたい人は残っていいから。人が来るまで外には鍵かけておくから」
「わかりました。領主様、この領はなんという領になるのですか?」
「あっ、それ言ってなかったっけ。『生』領と書いてせいこくかな。ボクさ、『粋』領から来たんだ。そこの領主は二文字持ちでさ、『粋』ともう一文字が『生』だからちょうどいいかなって」
タイガさんのことを話す時はどうしても声が高くなる。
それだけ気分が高揚してしまうのかも。
「ふふふっ。その領が好きなんですね。話す時の顔と声が全然違います」
「そうだね。あの領は好き。この領もそういう領にしたいと思ってるよ」
「領主様であれば、できると思います」
その女性もまた目尻を下げた。こういう顔をする人が出てきたのはいいことだと思おう。
ボクはうまくやれているだろうか。
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