第20話 なんでそんなに愚かなの?

 施設の管理をする日々が続いたある日のこと。

 大規模な盗賊団の殲滅をするから手伝って欲しいと依頼があった。


「盗賊団のアジトは分かってるんですか?」


「はい。突き止めました。少し離れています。森の中に地下の家を作っていました。是非、討伐隊に参加いただけませんか? それで大規模な盗賊団は最後です」


「分かりました。では、ここの守りは違う方に」


「えぇ。抜かりありません」


 ゴッコさんの頬が少し痩けている。

 ここ最近の激務で忙しかったみたいだから、そのせいかもしれないね。


 こんなに頑張っているんだもん。

 ボクも少しは手伝ってあげないとね。


「一時間後、出発です。領主邸前に集合です。ここの守護者も連れてきます」


「分かりました。じゃあ、交代していきますね」


 立ち去ったあと、三十分ぐらいしてからだろうか、代わりの守護者がやって来た。その場を頼んで領主邸へと向かう。


 五人程集まっていた。

 あまり多いと勘づかれる可能性があるので、少数で行くとのこと。


 場所を知っている人がいたから後についてボクはただ後をついて行く。


「あの森の中なんですよ」


「ふーん」


 ボクはただついて行ったけど、人がいる気配などない。地下に居るって言っていたけど、どこに入口があるんだろう?


「あそこです」


 指をさされた所には草が生い茂っていた。


「どこに──」


 ──ザクッ


 胸から剣が生えていた。

 胸が熱い。灼熱の炎に焼かれているようだ。

 生えた剣の付け根からは赤い液体がドクドクと流れ落ちている。


 なるほど。

 わかったよ。そういうことだったんだ。

 最初から利用されていたんだね。


 領主を殺し、自分たちが領主となるために。

 タイガさんは片目片腕を失ったから脅威にならない。

 ボクは脅威になるから折を見て始末しようってことなのかな。


 あぁ。せっかくタイガさんが同盟を組もうって言ってくれていたのに。なんで好意を無下にするの?


 どうしてあのいい人と一緒にいい領を作ろうとか思わないの?


 どうして領民の為に平和で良い領を作ろうと思わないの?


 ねぇ。なんでそんなに愚かなの?


「グフッ……なんでなの?」


「ハッハッハッ! 油断したか? 我らの計画には貴様は不要なのだ。領主を倒した今、貴様には死んでもらう」


 剣を押し戻して背中から抜く。

 身体から熱が引いていく感覚を感じながら傷を『治』す。


 舐められたものだ。

 ボクがこの程度でやられると思っているなんてね。

 タイガさんの障害となる奴らは全てボクが掃除する。


 そう。ゴミ屋だから。昔とやることは変わらない。ゴミを掃除するだけ。


「ん? なぜ、立っていられる?」


 体に『血』を巡らせる。

 そして周囲に置いていた血は僕の周りに浮遊した。


「お前たちが愚かなのはわかった。この領にお前たちはいらない」


 浮遊していた血は縦横無尽に駆け巡り、立っていた男達の頭を貫いた。

 頭に穴が空いた男たちはその場に倒れ伏す。


 男たちから漢字を奪う。

 久しぶりに新しい漢字が追加された。

 ボクってついてる。


 残してきた女性たちを思うと胸騒ぎがした。

 アイツらの狙いがあそこだとしたら。

 だとしたらまずい。


 力の限り『走』った。

 少しでも早くつく為に全力で。


 みるみるうちに近づいてくる街並み。

 あの町には今あいつらが支配している。

 ここを助けることができるのは僕しかしない。


 街では戦闘音が聞こえてくる。

 誰かが戦っている?


 高鳴る鼓動をなんとか誤魔化しながら息を切らして街へと入った。

 店の親父が戦っている。


 咄嗟に親父の相手を『力』いっぱい殴り付けて地面に叩きつけた。


「串屋のおっちゃん、どうした? この状況は何?」


「見りゃわかんだろ? 新しい領主は俺たちを皆殺しにしようってんだ! そんなの許せる訳がねぇ!」


 領主になったからってやることは虐殺なの?


 ゴッコさん、ガッカリしたよ。


「おっちゃん。ボクがカタをつけるよ」


「兄ちゃんが? 大丈夫か?」


「うん。見てて」


 まずは施設に向かう。

 道中の革命軍は全員胸に穴を開けた亡骸になっている。


 施設の待機室には誰もいない。

 胸騒ぎがした。

 中に入ると廊下には血が付いていた。


 奥で物音が聞こえ、悲鳴が響いている。


 食堂だ。


 扉を開けると一人の女性を殴り付けて服を引き剥がしている。

 周りの女性も何人か殴られたようで気絶している。


 ボクの頭の中で何かが切れた。


 凄まじい音を音を立てて『瞬』時に移動し、男の頭を掴むと『力』いっぱい床に叩きつけた。

 そして字を奪い天へと返す。


 倒れていた女性たちを『治』していく。

 安静にするように伝えた。

 そして、入口の鍵を閉めていくからしばらく中にいるように伝える。


 皆涙を流しながら頷いて「ありがとう」と言っていた。


 ボクは馬鹿だった。あんな人たちを信じて。

 タイガさんの片目片腕を犠牲にしてまで前の領主を倒したのに、この有様。


 ガッカリだよ。ゴッコ。


 あぁ、でも、今はミレイさんとタイガさんが居なくて良かった。


 こんなボクの顔が見られたら大変。


 ゆっくりと歩くと人々は海が割れるかのごとく道を開けた。


 領主邸までの一本道を。


 窓に移るボクの顔は悪魔のような形相をしていた。

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