第19話 施設の監視

 女子供を収容していた施設に男達が殺到していた。

 それは自分の妻、子供の引き取りたいという要望。

 だが、現状は封鎖してまだ会うことができないようにしていた。


 これはゴッコさんと話し合った結果だった。

 この街を知り尽くしている人なので、だいたい予想できることがあるんだって。


「ここの施設はまだ解放できません。ご了承ください!」


「なんでだよぉ! 領主はいなくなったんだろう? 合わせてくれよぉ」


「まだダメなんです。もう少しお待ちくださーい!」


 入口を封鎖してボクと住民でそんなやりとりをしていると奥の方から大柄な男が、ゆっくりと近づいてきた。

 これは穏やかな雰囲気ではない。

 これがゴッコさんの言っていた事態なのかな。


「おい! 綺麗な女をよこせ! さもないと殺すぞ⁉ 誰が領主になろうと俺の好きにするからな!」


 身体を怒らせて鼻息を荒くしている。

 鼻につく匂いがボクの胸をザワつかせる。

 お前みたいな臭い奴が近づいてくるなよ。

 

「みなさーん。こういう輩がまだいるので、ダメだということでーす! わかりましたかぁ? あと、折角なのでお知らせでーす。こういう人は」


 大男の頭に手を置き、『潰』した。

 果実が潰れたような音をならして血が飛ぶ。

 周りにいた男達の顔にも血が付着した。


「……こうなります。いいですか?」


 ボクがここで見せしめをみせることでこれ以上こういう人は現れないようにする。そういう役割なんだけど、この恐怖に染まった目で見られるのは嫌だなぁ。


 皆一様にコクコクと首振り人形のように首のみ動かして微動だにしない。動いたら殺されると勘違いしてるのかな。


 別に殺したくて殺しているわけじゃないことをわかってほしいけど、無理かなぁ。


「いつになったら戻して貰えるんですか?」


「この領の領主が現在、警備体制を作っている所です。どういう風にするかまではボクにはわかりません。難しいことは領主に直接聞いてください」


「わ、わかりました」


 その男達は背中を丸めて自分の居場所へと帰っていった。

 頭を潰してしまった男は『天』へと返して掃除する。

 この施設、実は結構厳重にできていて、中からも鍵がないと外に出られないんだ。


 ここの施設の女性と子供達は実は前の領主に感謝していて、子育てを安心してできたんだって。しかも母親が多いからみんなで子供を育てるみたいな環境だったそう。

 

 あの人、そんなに悪い人じゃなかったのかもね。天漢と見た目が凶悪だったから領民が付いてこなかったのかな。


 見た目って大事だよね。ボクも大分大きくなったねってお店のお爺さんとかに言われたもんね。よく食べたからここ一年で筋肉も付いたし、肉も付いた。健康ってこういう事だよね。


 施設の中の人達はみんな適度に肉が付いていて健康的な体だったみたいだよ。ゴッコさんが調査したらそうだったって。


 そしたら、中の人達が私達はどうなるのかって聞いてきたんだって。よかったら外に出しますよって言ったんだけど、まだ恐ろしい男がいるようなら嫌だって言ったらしい。


 この環境が守られている環境だから幸せだって。別に男なんていなくてもいいって言ったらしいよ。そういうものなのかな。


 ボクはここの守護を任されていた。最重要地点となっており、ここが落ちればこの領は男達も離れダメになるだろうというゴッコさんの考察だった。


 領を回すこととかよくわからないからね。そういうのは任せる。いつの間にか戦いしかできないような体になっちゃった。こういうの脳筋っていうんだってね。ミレイさんが言ってた。


 タイガさんは脳筋よりだけど、頭がきれるんだって。やっぱりあの人は凄いな。


 人はいなくなったので、待機室なるものがあり、そこにぼぉっと外を眺めていた時だった。


 後ろから扉をノックする音が聞こえる。

 振り返ると小柄な女性が立っていた。


「どうしました?」


「あっ。新しい守り人さんですか?」


 そういう名前で呼ばれていたのかもわからなかったので、首を傾げる。


「ここの管理を任されましたけど?」


「あのー。ちょっと困っていることがあって……」


「ん? なんですか?」


 その女性に案内されたのは皆が食事をする場所だったのだが、皆が端に寄っていて何かを警戒しているようだ。

 なんだ? もしかしてボク、襲撃されるのか?

 女性は部屋の隅を指さした。


「あれが何匹かいるんです。どうにかできませんか⁉」


 今にも泣き出しそうな顔をしてボクに訴えかけてくる。

 中の人の困りごとを解決するのも役目だよね。

 前のおっさんの時どうしてたんだろう。


 一応お願いを聞いて対応してあげてたのかな。

 悪と印されていた人が果たしてそんなことをするだろうか。

 後でこの人に聞いてみればわかるか。


 その虫を『痺』れさせて捕まえる。ピクピクしているけど、その虫を部屋の中から『集』める。全部で15匹もいた。ボクの周りを渦巻いていて、手元に収まる。


 それを持って外に行き、『重』さでペシャンコにして『炎』で燃やした。


 部屋に戻るとなんだかキラキラした目でみんながボクを見つめる。


「あのー。後は大丈夫ですか?」


「はい! これで安心してご飯を食べることができます!」


「それならよかったです。では、ボクはまた待機室にいますので」


 そう言い残して待機室に戻った。


 ボクはしばらくの間待機室で置物の様に外を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る