第18話 『未』領誕生

「兄貴大丈夫!?」


 屋敷を出ると駆けつけて来たのはミレイさんだった。ボクの反対側を支える。


「傷は塞いだけど、部分欠損までは無理だった。ごめん。ボクの力が足りないばっかりに……」


「シュウイ。お前がそんなことを思う必要はない。これは俺が弱かったからだ。これからまだまだ強くなるぞ!」


 タイガさんは懲りずにそんなことを言うが、安静にしていて欲しいものだ。


「馬鹿兄貴! 馬鹿なこと言ってないで、家に帰って休むよ!」


「あぁ? だが、この領を収める必要があるだろう?」


 ミレイさんとそう話していると、進行方向にはゴッコさんが待っていた。


「私めにお任せ下さい」


 片膝をついて頭を下げている。

 これは完全にタイガさんを領主として受け入れてくれたんだろう。


「あんたが、革命軍の代表者か?」


「はい。ゴッコといいます。シュウイさん、ミレイさんにはお世話になりました。この度は、誠に有難う御座います!」


「なぁ、あんた。いい領の領民ってのは、何を持っていることだと思う?」


 急にそんな質問をしたものだから困惑を顔をうかべるゴッコさん。

 眉間に皺を寄せて思い悩んでいるみたい。

 でも、これは必要なことみたいだから、答えを出すのを待ってみよう。


「金? いや、幸せを持っている。でしょうか?」


「金だけでは何もできないさ。幸せはもっているものではない。努力して手に入れるものさ。本当にいい領の領民ってのはなぁ。夢を持ってるんだ」


「夢……ですか?」


 目を見開いて驚いているように見える。


「あぁ。パン屋さんになりたい。字兵になりたい。領主になりたい。あの人と結婚したい。子供を産みたい。全部、未来が見えるからそう思えるんだ」


 タイガさんは手を広げて腹に力を入れた。


「未来が楽しみだと領民が思える領を! 共に作ろう! この領の闇の時代は終わりを告げる! ここに新しい領を作ろう!」


「この領が属領でなくて良いのですか?」


「何もわざわざ、ウチの下に付かなくてもいいさ。同盟を結ぼう」


 ゴッコさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 周りの革命軍の人も同様に笑みを浮かべあってている。


「タイガさん、是非お願いしたい。この領は完成ではない。未来を求める領。『未』領とします!」


「いい名だ。この領の安寧を支援するぞ」


「そうですな。シュウイさんの強さは別格。しばらく力を貸して頂きたいと思っています。よろしいでしょうか?」


 ゴッコさんからのこの提案にボクは胸が躍っていた。この領を良くするためなら喜んで手伝うよ。


「そりゃあいいな。シュウイ、頼んでいいか?」


「はい! もちろん。頼まれました」


「私はお呼びでない?」


 ミレイさんが横から口を挟んできた。

 一緒に残りたいのかな?

 でもなぁ。ミレイさん居ると逆に面倒だからな。綺麗な人が居るのは今の現状ではまだ危険だ。


「ミレイさん、大人しく帰ってよ」


「あぁ! なんだその言い草わぁ!」


「ミレイさん居ると面倒事が起きるから、帰った方がスムーズに進む」


「なんだとぉ!」


 タイガさんを挟んでいるが、ミレイさんはお構い無しにこちらを殴ろうとする。

 それを怪我してるタイガさんが止めようとしている。


「止めろ! バカ! お前は俺を支えて歩け! 一回帰るぞ! シュウイの邪魔すんな!」


「兄貴まで私を邪魔扱いすんのかぁ!?」


「うるさい! いいから行くぞ! じゃあな! シュウイ、頼んだぞ!」


 手を振って去っていく皆。

 コウジュも居たみたいで手を振ってた。

 そっか。コウジュも五級だっけ。


 ここから領を立て直すまで大変そうだなぁ。

 ボクには何ができるんだろう。

 とりあえず、争いを収めたりすることかな。


 そうだ。まずはギルドを作らないとね。

 ギルドを作ったら字兵を集めて、受付の人とかを雇う。事務をする人も雇ったり教えたりしないと。それはゴッコさんに任せようかな。


「シュウイさん、荒事を任せることになると思いますが、大丈夫ですか?」


「はい。任せてください。なるべく、穏便に済ませるようにします」


「よろしくお願いします」


 ゴッコさんと革命軍の皆から頭を下げられちゃった。

 ボクにできることなんてあんまりないと思うけどね。


「ゴッコさん、まずは何から手をつけますか?」


「そうですね。まずは私たちが字兵としてこの領で悪さをするもの達を取り締まろうと思います。悪さをしたら罰を与える。罰として困っている人の手として働かせようと考えています。もちろん、私たちの監視の元で」


 それが一番良いかもね。

 この領の人達は悪いことを普通にしていたということだから、悪いことは悪いと罰すること。


 そうすることで抑止力となり少しずつやる者が減るはず。略奪、強盗するような人たちは人に指示されてやることを嫌うだろうから。いい罰になるんじゃないだろうか。


 それがやりたくて犯罪を犯す人は居ないだろう。


「うん。いいと思う。それに、ゴッコさんの『辞』の天漢がいい。しばらくゴッコさんが監視について、暴れそうになったら【動くな】って言えばいいもんね?」


「そうですな。そうしましょう。領主としてタイガ様のように領民に慕われる領主を目指します」


「うん。ボクも落ち着くまで手伝うから」


 領の方針はこうしてだんだんと固まっていくのだが、混乱はまだ続きそうだった。

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