第17話 『魔』領の領主
施設を制圧したボクは領主の屋敷へと向かった。
全体図で場所は把握していたしすぐに着いたんだけど、ボクを待ってはくれなかったみたい。
「「「オオォォォ!」」」
雄叫びを上げながら入っていく字兵たち。
タイガさんは先陣きって行ったみたい。
屋敷は大乱戦になっていた。
ゆっくり邪魔しないようにしながら入っていく。
時には字兵以外を倒しながら進む。
一階は大きなエントランスに階段があり、敵味方が混じりあっている。
近くの字兵が相手していた敵を『衝』撃で吹き飛ばす。
「タイガさんは?」
「二階の奥です! シュウイさんも気をつけて!」
この頃幹部みたいな扱いを受けてるからみんな敬語なんだよね。
二階の奥は人だかりができている。
言い争っているみたいだ。
「この領を渡せば命は助かるぞ?」
「うるさい! お前たちに俺様の領はやらん!」
「こんな酷い領になんの価値がある! お前が私利私欲の為に好き勝手やってるからこんな酷い領になるんだろ!?」
「ここは俺様の作った領だ。みんな自由だ!」
「この領の自由は力があるやつだけだ! 弱いやつは搾取されるだけだろ!」
「俺様は自由の領を作ったんだ! 邪魔をするやつは殺す!」
会話はここまでだった。
奥の部屋から人が出てきてこちらに逃げてくる。
ボクは戦うために奥の部屋に行く。
「シュウイか。手を出すな? これは領主同士の戦いだ」
相手は異形。体が黒い影のようなものに変わり、手が八本あり、シッポもあるようだ。『魔』とは身体変化を伴う天漢だったようだ。
「ですが! ダンテさん、やつは危険です!」
「ここで逃げてちゃあ粋じゃねぇ!」
両者は激突した。
ダンテさんは大剣を振りかぶり叩きつける。
それは影の腕に阻まれた。
戦い方としては腕やシッポを掻い潜って本体に当てるしかない。
タイガさんは懐に入るため相手の攻撃を捌いているが数が多い。
なかなか懐には入れさせて貰えない。
「そんなものか? そんなもので俺様と戦おうと?」
「うるせぇ。俺は皆に戦っている背中を見せる必要があるんだ! 絶対に負けねぇ!」
影の腕を払い除けながら懐へと飛び込む。
胴を突き刺したと思ったが、それはシッポでガードされて吹き飛ばされた。
「くっ! まだまだだぁ!」
そうしてどれ程の時間が経過しただろうか。
タイガさんは身体中から血を流し、対する影を纏った男の足元にも血溜まりができている。
しばらく睨み合った後、最後の攻撃を両者が放った。
交錯した両者の攻撃。
トドメを刺したのは。
「グフッ! くそっ! 俺様の自由の領が! 夢の領だったのに! クソォォォォォォ…………」
「俺がいい領にするさ。さらばだ」
亡骸となった『魔』領の領主はガリガリの身体をしていて身体中に傷を負っていた。満足に食べてはいなかったのではないだろうか。
だが、タイガさんもタダではすまなかった。
片目と片腕を失い、満身創痍だ。
「タイガさん! 今少しでも治します!」
ボクは一心不乱に字力が続く限り『治』を使い治療を試みた。
傷口は塞がっていったが、部分欠損までは治せないみたいだ。
タイガさんの残った腕の方から肩を貸して支え、屋敷から出ると大歓声が上がった。
この瞬間、この『魔』領は終わりを告げた。
◇◆◇
僕の領は略奪、強盗、殺人なにをやっても許される領だった。
育ててくれた人にはこの領はそういう所が自由なんだと言われた。
僕の両親は強盗にあい、殺されたと聞いた。
僕が無事だったのは暴走したかららしい。
強盗に来た人を僕は殺しちゃったんだって。
この世の中は今そんなことばかり起きているんだって。
僕にはそんな世の中が嫌い。
女の人も子供もみんな襲われて命を落としていく。
でもこの領が自由の領でいい領何だって。
成長したころ、天漢の強さを見込まれて領の兵隊に抜擢された。
僕は人を殺さなければいけなくなった。
敵領の人だけど、女もいた。
僕はこんな世の中が嫌いだ。
人をいっぱい殺したからって幹部になった。
色々と好きにしていいんだって。
じゃあ、女の人と子供を保護する施設を作りたいとお願いした。
そしたら、攫ってきて無理やり施設に入れていた。
女と子供に乱暴なことをしたそいつらは殺した。
入りたい人を募った。
この領の女子供は弱い。直ぐに死ぬ。
ご飯もあげるからおいでと人を呼び込んだ。
だんだん集まってきた。良いことしてる。
そう思ったけど、ある時僕の目を盗んで女の人に手を出した奴がいた。
そいつは八つ裂きにした。
その頃には領主でさえ僕には適わなかった。
だから殺した。
元の領主が俺様と自分を呼んでいたからそう呼ぶことにした。
施設には女子供に手を出すことがない人を配置した。
天漢は『悪』で昔から悪さばかりしていたみたいだけど、僕を拾ってからは悪さをしてないらしい。
最近力が衰えて来たんだって。歳には適わないって言ってた。
軌道に乗ってきた施設は安全に女子供が過ごせる場所になった。
僕の夢の領の完成だ。
男は別に死んでもいい。
いい領だと喜んでいたら、侵略してきた男にこの領はダメな領だと言われた。
その人は隣の領の領主をしているみたい。
話してみると驚いた。強盗、略奪、殺人はダメなことだったんだって。
僕は知らなかった。
女子供さえ守れれば自由にしてもいいと思ってたんだ。
くそぉ。どうか。あの女子供が無事で幸せに暮らせますように……
暗転。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます