第16話 お前たちとは違う

 タイガさんに潜入の結果を報告して三日後の作戦を伝えた。


 喜びの声を上げると字兵を集めて作戦と日時を伝えた。

 その日から武器の準備や食料の準備をして出発した。


 外を通っていくと『魔』領まで一日はかかるからだ。


 遂にこの時がやってきた。


「ヤローども! この領を俺たちの領みたいに粋な領にしてやろう!」


 実はタイガさんが来ている。領主だからまずいと言ったんだけど、言うこと聞かないんだよね。ミレイさんと一緒。


 部下だけにやらせるのは粋じゃないんだって。


「「「おぉ!」」」


「シュウイ、頼む」


 手に持ってい球には『炎』と印されている。それに字力を流して燃やすと『力』いっぱい投げた。


 少し待つが門が開かない。

 まさか。裏切られたか?

 そんな考えが過ぎった。


「おぉ! 開いたぞ!」


 心の中で安堵のため息をつく。


 門を通るとマングさんがいた。

「開くの遅かったですね?」


「悪い! 思ったより強くて手こずった」


「お疲れ様です。ここからは任せてください」


 ゾロゾロと駆け足で街へと向かう。

 道中お決まりの盗賊が嬉々として襲ってきた。

 敵領だから金があると思ったんだろう。


 そいつらは前を走っていたミレイさんの『気』を受けて吹っ飛んでいた。

 念の為『痺』を打ち込んで放置する。


 街に入ると予定通りのルートを通る。

 ほぼ障害はない。

 順調だ。


 そう思ったが、革命軍が顔を出した。


「すみません。施設の制圧ができていません」


 チラッとタイガさんに目配せする。


「シュウイ。こっちは任せろ。そっち頼む」


「はい。では、後ほど」


 ここでみんなと別れて革命軍の人と施設に向かう。


「施設には何人配置したんですか?」


「あそこは守っている人とか居ないので三人で大丈夫だと思ったんですが……」


「あっちが多かったんですか?」


「いえ、一人です。でも、強い。全滅しました」


「天漢は?」


「『悪』です」


 思慮を巡らせる。

 その天漢でできそうなことを考えながらはしる。『悪』の天漢はあることは知っていたが、能力がわからない。


 現場に到着した。


 施設の入口には一人の細くて背の高い男が立っている。強そうには見えないが、やはり天漢の影響だろうか。顔は凶悪そうな顔で笑みを浮かべている。


「あぁ? ガキが相手かよぉ。でもいいか。コイツを殺せば力がさらに溢れるだろう」


 この言葉で判断できるのは天漢の能力が俺を殺すことで力を付けるということ。

 もしかして、悪さをすればする程力がつくのか?

 なんていう反則的な。ボクもだけど。


「子供と女性たちは無事なのか?」


「あぁ。ボスに言われてるからな。こんなことしてただで済むと思うなよ?」


「はっ! この領はボクたちが潰す!」


 男はニヤリと笑い近づいてきた。


「ヒッヒッヒッ。いいねぇ。掛かってこいよ?」


 コイツは完全にボクのことを下に見ているみたいだ。それなら好都合。一気にカタをつける。


 前傾で踏み込み『速』い動きで肉薄して『貫』く手刀を放つ。


「おぉー! 早い早い!」


 上半身をありえない角度に曲げて避けられた。だが、まだまだ終わりではない。


 避けられた方に追い打ちをかけるように『力』いっぱい拳を振るった。


 男は腕をクロスさせてガードした。


 えぇ? これが効かないのかよ。

 一体どんな体してんだよ。

 頬を冷や汗が伝っていく。


「おぉ。痛い痛い。今度はこっちの番だ!」


 上体を起こした反動を利用した一撃がくる。咄嗟に身を『守』る。


 ガードできたと思ったが腕に激痛が走った。

 何かされたみたいだ。

 この男、やっぱりただ者じゃない。


 防げたと思ったが、コイツは刃物を持っていたらしい。腕にはナイフが刺さっていた。


 ボクだってただ者じゃないことを証明してあげよう。負けるわけにはいかないんだから。


 ナイフを抜きながら『治』す。

 逆再生されるように腕は元に戻る。


「あぁ? お前、一体何者だ? 何個能力を持っている?」


 男は眉をひそめて顔を歪ませる。


「教えないよ」


 再び『速』度を上げて肉薄する。

 拳に『衝』撃をのせて放つ。

 これはガードしたが吹き飛ばされてダメージを受けたようだ。


「久々に吹き飛ばされたぜぇ。俺より強いやつがいるなんてボスくらいかと思ってたけどなぁ。楽しいなぁ」


 口角を上げて不快な笑みを浮かべる。


「ボクは楽しくないねぇ。こんなにダメージを受けないなんてね。不殺は無理かもね……」


「あぁ? お前殺す気じゃなかったのか? 舐めんじゃねぇぞ! ガキなんかに俺がやられる訳ねぇだろうが! くそがぁ!」


 ボクはリストの漢字を並び替える。

 そして、殺すことを目的とした攻撃へと思考を変えた。


 一気に決める。体に力を入れ勝負に出る。

 踏み込みから『瞬』時に男の後ろに移動して頭上から『重』い一撃を放つ。


「うおっ!」


 その男は咄嗟に横へ転がって避けた。

 避けられたけど、さっきの攻撃で片足を失ったみたいだ。

 でも、まだ生きてる。


「ヒッヒッヒッ! 足がなくなったわぁ。けど、一回くらいなら」


 そんな言葉を発したかと思うとニュルニュルと黒い物が生えてきて、足の形を形成していく。

 なんと足が生えてきた。一体どんな能力してるんだよコイツ。

 これは何度も使われたらヤバイ。少し鼓動が速くなる。ダメだ。焦るな。


「驚いたか? 悪とは往生際の悪いもんでな。一回は欠損が治るんだよ! ヒッヒッヒッ! あっ、お前ももしかして同じ天漢か? 悪そうな顔してるもんな?」


 ニタリと片方の口角を吊り上げ、気持ちの悪い笑みを浮かべた。


 一緒にされてちょっと胸がザワつく。

 頭に血が上っていく。

 ボクはお前たちとは違う。


「お前たちとは違う!」


 本気の最高『速』で肉薄し、『鋼』の拳で地面に叩きつける。


「ガハッ!」


 男は大の字になっているが、構わない。


 拳で頭を『潰』した。


 飛び散った血が顔にかかる。


「はぁ。はぁ。はぁ。クソッ!」


 ボクは領のために力を振るっているんだ。

 私利私欲のお前らとは違う。


「あとは領主! ここを頼みます!」


 革命軍の男にお願いして次に行く。


 背中に畏怖の視線を感じながら領主の元へと向かった。

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