第11話 魔の巣窟へ

 タイガさんに作戦を伝えるとGOが出たそうだ。

 それだと行かねばなるまい。


「さっ、準備して行くよ? 軽装にしてね?」

 

「一日で帰れる任務じゃないよね?」

 

 慌てて聞くと、顎に手を当てて考え始めたミレイさん。


「んーそうだなぁ。もしかしたら何日かいるかもね? 潜伏するから」

 

「そうだよね。じゃあ、非常食とか……」

 

「あっ! そういうのいらないよ! 現地に溶け込むんだから買って情報収集するんだよ。じゃあ、また準備したらくるから」


 ボクは潜入とかしたことがないのでわからないが、そういうものらしい。

 それなら武器のナイフだけ持っていこうかな。

 後は戦闘できそうな革装備を付けて傭兵っぽくしていこう。


 持っていくものが特にないというのでボクの準備もそんなにかからず終わった。

 一応下着の着替えは何個か持った。

 同じ下着を何日も着るのはちょっと我慢できない。


 前はずっと同じ布切れを着たりしていたのに。

 一年も経つとこんなに変わるんだね。

 環境って恐い。


「準備できた?」

 

「うん」

 

 少しの荷物を布袋に入れて背負う。


「じゃあ行こう。これ着て?」

 

 いかにも怪しそうな黒いローブだった。


「こんなの着ていて逆に怪しまれたりしないかな?」

 

「そっか。『魔』領には行った事ないんだもんね。あっちの領はこんなのが沢山いるんだよ。そして、治安が悪い。喧嘩、殺し、盗み。なんでもあり」

 

「えぇぇ。そんな領あるんだ」


 ボクの元々いた『覇』も兵士以外は貧しい生活をしていたけど、暮らせないほどではなかった。

 

 みんななんとか生きていけていたのだ。それは領のおかげではない。ボク達みたいなその辺に居る人を、みんなが放っておいてくれたから。


 勝手に畑を作って食べたりしていたから生きていけていただけ。みんなで分けて食べていた。


 その領に比べて『魔』はとんでもない領に思えてくる。


「それが現実なのよ。だから、私達は世界をこの領みたいにしたい。苦しい人を救ってあげたい。そう思うわけ」

 

「うん。それはボクも共感するよ。全部がこの領みたいだったらいいと思うから」

 

「ねっ? そのためには私達の行動が必要ってわけ」


 黒いローブを着ると宿舎を出て街を抜け、北の町はずれの隣領の領境へと向かう。

 ここからはボクが案内する。

 侵入者を捕まえた所に行き岩をどかすと、鉄板でできた入口があった。


「こんなところに出口つくりやがってぇ。まったく。困ったものだわ」

 

「これ使ったら埋めないとボク達も追われるよね」

 

「そうね。今回の任務で使ったら埋めましょう」

 

 鉄の入り口を開けると人一人通れそうな穴がぽっかりと開いていた。

 

「行くわよ?」

 

「うん」


 ミレイさんを先頭に暗い穴の中へと入っていく。

 まだ新しい穴だからだろうけど、かび臭くはない。土の匂いと鉄のような匂いが漂っている。

 入りきって鉄板を戻すと『光』を指先に出現させた。


「シュウイってホント便利」

 

「なんか道具みたいに言われるのは嫌だなぁ」

 

「ホントのことなんだからいいでしょ? ほら、進むから付いてきて?」

 

 手招きして先に進むミレイさん。その後を付いて行くけど狭い穴だから先が見えない。


「結構長いわね。これ息が詰まって嫌ね」

 

「灯りがあるからまだいいでしょ?」

 

「そうね。これで真っ暗だったら私は気がおかしくなるわ」

 

 それにはボクも同意見だった。


 こんな狭い所を通ってよく来たなと思う。

 何か照らす道具を持っていたんだろうか。

 二十分ほど歩いただろうか。


「あっ。ここで行き止まりだ。上になにかあるわ」


 重そうな何かを横にずらすと日の明かりが入ってきた。

 ようやく出口に着いたらしい。

 先に上がっていくミレイさん。

 

 それに続いて上がる。

 鉄板を元に戻すと周囲を確認する。

 こっちも森の中に入口を作っていたようだ。


 森はすぐに抜けられた。

 何やら視線を感じる。

 街へ向かっていると近づいてくる集団がいる。


「おい! お前達なんかいい匂いがするなぁ。お前女だろ? おぉ。別嬪じゃねぇか! 俺達と来いよ! なっ?」


 強引に連れて行こうとミレイさんの腕を掴んだ。

 

「触らないで!」


 来て早々面倒ごとか。勘弁してほしいね。

 前傾姿勢になると『速』い動きで肉薄し、『力』いっぱい腕を掴んで男を放り投げた。

 そして、『低』い声を発する。

 

「お前ら痛い目にあいたいのか?」


「すげえちからだ」

「兄貴が投げられるとは」

「こりゃあまずいな」

 口々に呟いている男達。


 投げ飛ばされた男が慌ててやってきた。


「ダンナすみませんでした。いやはや御強いですな! 街までの道中邪魔してすみませんでした! お通り下さい! おい! お前ら通せ!」

 

「「「へい!」」」


 数人の男達が間を開けて一本の道を作り出した。

 そこを悠々と歩くミレイさん。

 来ていきなりトラブルとか先が思いやられるよ。


 襲い掛かってきた男達は実力差が分かったのか道を開けてくれた。

 こんなゴロツキみたいなやつが街にもいるんだろう。

 困ったものである。


「さすがシュウイ。役に立つわね」

 

「いきなりこれだと先が思いやられるよ」

 

「治安が悪いのは本当みたいね。気を引き締めていくわよ」


 これから向かう街は目の錯覚か、日があたっているのに暗くみえる街だった。

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