第12話 暗い街

 街に入るとよどんだ空気が漂っている。

 なんだか暗い活気のない場所だ。

 店はやっているようだが、強面の男ばかり。


 試しに串焼きを売っている親父さんにボクが声を掛けてみた。


「串焼き二本ちょうだい。田舎から来たんだけど、大きい街はいい所かと思ったら大して変わらないね? 田舎より酷いかも」

 

「おう。今日来たのか? だったら気を付けるんだな。そこかしこに盗賊がいる。強くなきゃやっていけねぇ街だ。先に金出しな。二百ルノー」


 懐から金を出して渡す。

 そして串焼きを受け取るともう一つ聞いてみることにした。


「この領の領主様がこの街にはいるんだろう? この現状は知ってるのかねぇ?」


「はっ! 知ってるも何も、領主がそういう奴なんだから仕方がねぇさ。領を出ようにも、出ようとすれば殺されるからな。税を納めなくても殺される。田舎だってそうだろ?」


「やっぱり変わらないんだねぇ」


「兄ちゃん領主様の話は気を付けな」


 離れろと言わんばかりに手を振って煙たがる親父。

 やっぱりこの声で話すと若いのがばれるな。

 低い声で話さないと。


 ボクの声は身体の成長が遅かったせいか、声が割と高い。

 こういう時になめられるからやっかいだ。

 低い声のタイガさんとかが羨ましい。


 ほかの店を見て回る。

 他も同じように筋肉隆々の親父が店をやっている。ここでは女子供を見ることがない。


 いると知られるだけでも危険なのだろうなと察する。この街の雰囲気では女性を連れて歩くのは危険だ。


 ここに最も危険そうな美人な女がいる。

 ミレイさん、もう少し自重できないのかなぁ。

 この魅了する雰囲気は消せないんだろうけど。


 今度は『低』い声で声を掛ける。


「親父、肉を二つ貰えるか?」


「へい! だんな! ちょっと待ってくだせぇ!」


「この辺には領主が居るんだろ? いつまでこの現状のままなんだろうな?」


「だんな。あんまり言わない方がいいですぜ? 知っての通り領主は力でねじ伏せる荒れくれものでさぁ。どこにいるのかは不明とされていやすが、知る人ぞ知るという所でしょう。あんなに厳重にガードしてりゃ……おっといけねぇ」


 慌てるように肉を渡してくる。


「俺はなんにも言ってねぇよ? なぁ? だんな?」


「あぁ。聞こえなかったなぁ。有難うよ」


 威厳を保つように話しながらその店を後にする。そして、少し路地裏に入る。

 誰も見ていないことを確認して肉を頬張る。


「うん。美味いね」


「美味しいわね」


「ミレイさん、あんまり目立たないようにした方がいいね。受け答えはボクがやるし、あんまり女だとバレない方がいい」


 ボクがそう忠告したんだけど、それはもう遅い忠告だったみたい。


「おーぉー。姉ちゃんと坊主がこんな所でなにやってんだぁ? 姉ちゃん。俺と来な? なっ?」


 男三人組がニヤニヤしながら近付いてきた。

 ボクは不快な思いをしながら、男とミレイさんの間に立つ。


「なんだぁ? にぃちゃん? どけよ? 痛いめぇ見たくねぇだろ?」


「はぁ。面倒な」


「あぁ!? なんだぁ? くそガキがァ!?」


 近づけてきた顔を『力』いっぱい握り潰す。


「がぁぁぁぁぁ」


「うるさい」


 地面へ叩きつけ、周囲に轟音を轟かせた。


 叩きつけられた男はピクピクッと痙攣しながらクレーターの真ん中でのびている。


「兄貴!?」


「こいつも兄貴かよ。兄貴多いな」


「なにぃ!? クソがァァァ!」


 本当に面倒なのでぶちのめすことにした。

 殴りかかってきた男の頭にあげた足を添える。

 クルッと地面に頭を叩きつける。


 もう一人いた奴は殴り掛かってきたが、しゃがんで避けて蹴りあげる。落ちてきた頭を掴んで地面に叩きつけた。これでクレーターには三体の亡骸のできあがり。


 もう死んでいると思うから、このままにしておこうか。


「ミレイさん、フード被って。この場を離れよう?」


「そうね。騒ぎになったら大変ね」


 その場を離れて街の奥の方へと入っていく。

 更にディープな世界に来たかのように暗い街並みは更に暗くなり、怪しげな店が多々あるエリアに来た。


「なんか凄いエリアに来ちゃったね」


「ちょっとこのエリア出よう?」


 そそくさと暗い所から出ようとする。

 だが、前に男が立ちはだかった。


「おい。さっきの音とあの男達はお前達の仕業だな?」


「えっ!? いやー。知らないですねぇ」


 その男はニヤリと笑った。


「そんなわけない。俺が見てたからな」


 あちゃー。こりゃダメだな。

 バレてたら言い訳のしょうがない。

 仕方ない。こいつも殺すしかないな。


 拳に力を入れる。

 音を出さずに殺す。


『貫』の一撃を──

「待ってくれ! 危害は加えない!」

 ──止めた。


「どういうこと?」


「大きい声では言えないが、この領を変えようとしている革命軍なんだ。あんたたちこの街のもんじゃないだろう?」


 耳元でそう言った大男が促す方へと進んでいった。

 建物の裏に行くと壁をコンコンッと叩く。

 するとその壁がスーッと消えたのだ。


 中を見るとテーブルの並んだ広い空間が見えた。

 そこには一人の若い男性が佇んでいる。

 罠かと身構えながらボクから入っていく。


 問題ないことを確認するとミレイさんを招き入れた。


「お呼びしてすみません。道中の戦闘をお見掛けして手練れだと思いましたので、是非話を聞いて欲しい!」

 

 座っていた男はそう口にした。


 この男は何者なのか。

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