第10話 一年後

 あれから戦闘の訓練をし始めて、字力の使い方も思考錯誤したりしながら成長して一年が過ぎた。


「シュウイ? 今日はなんの任務?」

 

 そう聞いてきたのはミレイさん。

 一年たってもその美貌は何ら変わらない。

 

 何故こんなことを聞くのか。それは早くボクと戦場に出たり、敵領をぶちのめしたいという理由で五級以上になるのを待ってるみたいなんだ。


「んーと、狂狐の討伐だよ」


 もうこの頃にはミレイさんより頭一つでていた。


 今は店のお爺さんの手伝いで樽を二つ肩に乗せて運んでいる。


「そんなの良く持てるね?」


「これもトレーニングの一環なんだ。お爺さんの為にもなるし、いいこと尽くし」


「ま、そうねぇ。髪も伸びたね?」


「こうして結ってる方がラクでいいよ。寝ぐせとか気にしないですむし」


 寝癖直すのとか面倒だしね。

 それに関してはミレイさんは寝癖がついていようが、お構いなしだ。それもそれで強いと思う。


「私は気にしないけどねぇ。ねぇ、あと何個で五級にあがる?」

 

「今回ので上がるよ。外出てこき使うのは勘弁して欲しいなぁ」

 

「いいじゃん! 強いんだから! 字力使えば兄貴にも勝つでしょ?」

 

「それはボクの天漢が反則的だから」


 反則だから余り身内と戦う時は使わないようにしているんだ。じゃないとボクの訓練にならないからね。


「じゃあ、行ってらっしゃい! 部隊用意しておくから!」

 

「えっ!? ちょっ!……行っちゃったよ」


 部隊を用意しておくってどういうことだ? ボク用の部隊ってことかなぁ。それだとちょっとやだなぁ。知らない人と一緒に任務かぁ。


「別に話せるけどさぁ。ずっと一緒に居なきゃいけないのかな」


 少し憂鬱な気分になりながら討伐へと向かった。

 今回の狂狐は狂ったように誰彼構わず襲い掛かるらしい。しかもでかいから手こずってるんだって。


「この辺だと思うんだけどなぁ」


 町外れから『魔』の領境付近に近いある森。領境辺りで小さい何かがゆれた。


「あー。地下道狭くないか?」

 

「仕方ないですよぉ」

 

 こちらには気づいていない様子で地下道から出てきた。


 即座に『痺』らせて動けなくする。

 持っていたロープで腕を縛りあげて転がす。

 たまたま狂狐を殺した時のためと持ってきたロープが役に立った。


 近くにあったでかい岩を地下道の入口に乗せる。

 一年前に作られていた地下道も塞いだと思ったが、また掘られたらしい。

 呆れたものだ。


 ちょっと放っておいて狂狐の討伐に向かう。

 暴れて他の字獣も襲っているところに出くわした。


 一瞬で間合いを詰めて決めないと、こちらも危ういかもしれない。

 頭の中で字を並べる。

 そして、『瞬』時に移動した。


 殴り掛かり『打』撃を与える。

 怯んだところで『跳』びあがりトドメに『重』い一撃を放つ。

 流れるように字力を使い。頭を陥没させて息絶えた狐ができあがった。


 こういう文字は集めないと決めている。これは自分を守るためだと思ったからだ。字と言うのは持っているだけでその影響を受けるとボクは考えている。だから、『悪』『狂』『殺』などの悪いイメージのある字は取らないことにしているんだ。


 その狂狐を引き連れて途中の捕まえていた隣領の敵も引きずって連れて行く。

 街の入り口に置いておき、ギルドへと向かう。


「ランさん。この狐換金お願いします。そして街の入り口に隣領の奴らを捕まえてきてます。返還お願いしていいですか?」

 

「あら。相変わらず早いわねぇ。街の入口ね。わかったわ。それにしても隣領からの侵略は久しぶりよね?」

 

「ですねぇ。動きがあるかもしれないです」


 それだけ伝えるとギルドを後にして宿舎へと向かうと待っていたのはミレイさんだった。


「そろそろ終わってくる頃だろうと思ってたわ」

 

「待ってたの。ミレイさん、俺に何させる気?」

 

「ちょっかいかけてきてる『魔』を沈めるわ。『覇』も怪しい動きをしてるし、忙しくなるわよ?」

 

「ボク、知らない人と動くの苦手なんだけど」

 

 申し訳ない気持ちになりながらそう伝える。


 仕方ないよ。嫌なものは嫌なんだから。

 でも、そんなボクの気持ちとは裏腹にミレイさんはニコッと笑った。


「大丈夫よ。私とシュウイの部隊だから」

 

「二人?」

 

「そっ。少数精鋭!」

 

 ピースを目の前に突き出して胸を張る。


 まさかそうくるとは思ってなくて驚いた。

 領の制圧に行くんだよね?

 二人でいけるかな。


「心配そうね?」

 

 ボクは気持ちが顔に出やすい。だから嫌だなぁという顔をしていたんだろう。


「ボク達だけで制圧できるかな?」

 

「ふふふっ。私達だけでは無理よ。ただ、かき回すことはできる」

 

「そうだね。そういえばさっき地下道掘って出てきたやつら捕まえたよ?」


 その言葉を聞くなりミレイさんは邪悪な笑みを浮かべた。

 なにか悪いことを考えてそうな笑みだなぁ。

 無茶なこと言わなきゃいいんだけど。


「その地下道を使って二人で攻めに行きましょ。ただ、地形を見たりとか街の様子を見に行きましょうか。その為には戦闘服じゃない方がいいわね」

 

「えぇ⁉ そんなことして大丈夫なの?」

 

「大丈夫よ。一応兄貴には話してから行くわ。報酬も出すから。ねっ?」


 領の役に立つのならいいけど。

 でも人を殺したりするのはタイガさんが好まないと思うけど。

 どうやってかき回すんだろう。


「いいけど、人は殺さないようにするんでしょ?」

 

「そうよ。領主の居場所を探るのよ。楽しそうでしょ?」

 

「はぁ。行くしかなさそうだね」

 

「わかってるじゃない」


 そう言い放ち、タイガさんの元へと向かったのだった。

 天下統一へ向けて動き出す。

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