第9話 一大事
その夜は何だか騒がしかった。
街がザワついている。
部屋で『集』を使う。
この天漢は音も集められるんだ。
『タイガさんどこ行ったんすか?』『知らないな。どこいったんだろうな?』『おなかすいたなぁ』『あの人たち何者?』『なんか武装してたよな?』『なんか変だよね?』『まだ間に合う。そいつらと縁を切れ』『そういうわけにはいかねぇ。ここでふたりには死んでもらう』
今のはタイガさんだった。
その後の人物は知らないけど、一大事っぽいね。
急いで外に出るとコウジュの部屋へ行く。
「コウジュ! タイガさんが危ない!」
「なにごとっすか!?」
「人を集めて! タイガさんが殺されそう!」
「よく分かんないっすけど、分かったっす!」
急いで武装した字兵を数人集めて街へと向かう。
「どこに行くんすか?」
「分かんない! 心当たりない?」
「そういえばモーザさんの居場所聞かれたっすね……」
顎に手を当ててそう呟いた。
「それどこ!?」
「こっちっす!」
コウジュを先頭にして走る。
街の人達も家から顔を出している。
「あのっ! 怪しい人達見ませんでした!?」
「さっき変な人達があっちに行ったよ?」
「ありがとう!」
方向はあってる。
急がなきゃ。
脳のリストの中から一文字を選択する。
それは『走』だった。
「ごめん! 先に行くね!」
「えっ!? 早いっす!」
少し走ると何やら争っているような物音が音がする。
「なんだお前らぁぁぁ! 『魔』の領のヤロー共か!? かかって来いゴラァァ!」
「やれぇぇぇ!」
タイガさんと知らない人が叫んでる。
目まぐるしく過ぎ去っていく街並み。
近い。
路地を速度を落とさずに大曲りして行く。
「あぁ? だれ──」
──グシャ
ボクの全力疾走からの蹴りが炸裂して吹っ飛んでいく。
こんな僕の蹴りでも吹っ飛ぶんだなと思った。字力のおかげかもしれない。『走』は走ることには
「コウジュー! ここだぁぁ!」
精一杯叫んで味方を呼んだ。
「シュウイ!? 何故ここに!?」
「それはあとで、今はこいつらを!」
「そうだな」
タイガさんの横に並んで睨み合う。
ボクはこの人と天下を獲ると決めた。
横に並んで戦うんだ。
「ふんっ! クソ雑魚の分際で俺様の顔をけりおってぇぇ! 生かしておかねぇ! ぶちのめす! お前らは他のやつをやれ! このほせぇのは俺様がやる!」
その男の左手の甲には『狩』の字が光る。
「はははっ! 狩りの始まりだぁ!」
こちらに迫ってくる男。
人の密度が高い。
効果範囲の大きな文字は使えない。
地面に目をついて
一つの文字を設置。
「おいおい! 俺様のこと蹴っておいて今更謝るなんてなしだぞぉ? 楽しませてくれや?」
「あ、あれはたまたま当たっただけだよ? 見逃して?」
少しずつ後ろへと下がり、先程居たところに男を誘導する。
「ハッハッハッ! バカが! 見逃すわけねぇだろう! 死んで償えぇぇ!」
一気にこっちへ詰めてきた。
ボクはそのまま少し下がりニヤリと笑った。
地面に叩きつけられるような音と何かが刺さる音が響き渡った。
その男は視界から消えた。
ボクの目の前には三メートルはありそうな穴があり、中には槍が敷き詰められている。
男が絶命しているのは明らかだった。それに対しての感情はなにもない。最初に考えたのは文字を貰おうだった。
さっきの地面に設置した文字は『罠』だ。シンプルだけど、それだけに強みがある字。
「シュウイ! ここか! 大丈夫か!?」
「うん。何とかね」
コウジュは落とし穴を不思議そうに見て過ぎ去り、他の奴らを倒して回っている。タイガさんは体術だけでも強かった。
あのままあの男と戦っても負けなかったかもしれない。でも、ボクは役に立てたと思い嬉しい気持ちになっていた。
一通り倒すと死んでないものは縛り上げて連れていくようだ。
「生きてるやつには少し話を聞く。まぁ、あんまり意味ないだろうけどな。後は適当に返すわ」
「その人達を返すんですか?」
「あぁ。これが俺のやり方だ。無駄な殺しはしない。ただ、さっきシュウイが殺したやつだが、アイツは別だ。殺すべきだった。だから気にすんな」
そう優しくボクへ語りかけると指示を出して男達を連れていかせた。
向き直ったのはもう一人いたこの家の人。
ボクは今気がついた。この人がモーザさんと言う人なんだと。
「モーザ、これでアイツらとの縁は切れた。しっかりと精進しろ! 必ず強くなれる!」
「へい。頑張りまさぁ。そして、新人くんよ……」
モーザさんはこちらを申し訳なさそうに見つめた。
「シュウイです。ボクもモーザさんの名前知らなかったからおあいこですね」
「へい。そうですねぇ。金は働いて返しやす! シュウイ、すまなかった! 先輩としてなっちゃいなかった! この通り!」
ボクはその謝っている姿を見て嬉しくなった。自分が謝ってもらったからじゃない。ボクの思ってた通り良い人だというのは間違っていなかったからだ。
「いいですよ。後で返してくれれば。貸しってことにしておきます。ちゃんと返してくださいね?」
「シュウイ……すまねぇ」
頭を下げて床を濡らしていた。モーザさんは強くなれるはずだよ。
そう思ったのは左腕に印された『走』を見たからだった。
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