第5話 初任務
なんとか字兵として登録できた。
ただ、一度もランさんの顔を見られなかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「まぁ、落ち込むことないっすよ。早速受注する任務を見るっすか?」
「うん! 頑張らなきゃ! 役に立ちたい!」
「じゃあ、この中から選ぶっす」
コウジュに指定されたのは十級で受けられる任務が掲示板に張り出されている。
ゴミ掃除。薬草採取。毒消し草採取。子守り。突ブタ駆除。草食べネズミ駆除。
掲示板にはいろいろある。
「ボク、ゴミ掃除得意だけど……」
「そっか。じゃあ、それと薬草採取にしたらどうっすか? 駆除系は討伐しなきゃいけないから危ないっすもん」
「うん。わかった。これにしよう」
「受付にもっていけるっすか?」
「……うん!」
掲示板からその任務書を剥がすと受付に持っていく。
こういうことは人にお願いしてたらボクが成長できない。
やらなきゃ。
ちゃんと受付の人の目を見てお願いした。
すると喜んで笑顔が爆発していた。
「この依頼でいいの? ゴミ掃除なんて誰もやりたがらないから残っているだけだよ?」
「でも、誰かがやった方いいですよね? ボク得意ですし、役に立ちたいんです」
「そう? ならやってみよっか。嫌になったらすぐ戻っておいで?」
それは無理じゃないかなと思いながら場所の指示を聞く。
薬草も形と群生地を聞いて前準備はできた。
さっそく行こう。
ミレイさんとコウジュは黙って見送ってくれた。
なんだか眉間に皺を寄せていたけど大丈夫かな。
心配させちゃってるんだよね。
ギルドを後にするとゴミ集積場へと向かう。
街のゴミがそこに集まっているんだ。
近付いて行く一歩踏み出す度にゴミの匂いが鼻を刺激する。
誰もやらないからこんなことに……。
集積所から溢れたゴミが道を塞いでいた。
「あらら。集めて広い所に持っていこう」
左の肩を光らせながらゴミをまとめて集積所から町はずれの方へと持っていく。
異臭の放つごみを一旦地面に置いた。
次にボクの手には『炎』が浮かび上がりゴミに火をつける。
『風』で炎を大きい物にしていく。
徐々に大きくなりゴミ全部を呑み込む巨大な火柱となった。
炎の熱で頬が熱くなった。
異臭もするが、風で上へと流していく。
字力の扱いは小さい頃から得意だった。
ゴミを字力で集めて行くのだ。
そして火を放てば一網打尽。
そうやってボクはゴミ屋として生活してきたんだ。
何年も前に天へと行ったが、感謝している。
「おぉー。坊主、すげえな。綺麗にしてくれてありがとよ! 臭くて困ってたんだわ!」
「い、いえ! お役に立てて良かったです!」
ゴミを掃除してお礼を言われたのなんて初めてだった。こんなに感謝されることがあるんだ。そう思うと心が温かくなっていく。
「おい。大丈夫か? 熱かったのか? なんで泣いてんだ?」
ボクの目からは水が溢れていた。
これが泣いてるってことなんだ。
初めて泣いた。
どんなに辛くても涙なんてでなかったのに。
それが普通だと思ってたから。
この領は人がみんな温かい。
「大丈夫です! またゴミが溜まったら来ますね!」
「あぁ。頼んだよ」
それだけ言うとおっちゃんは去っていった。
次は薬草集めだ。
ここからはボクの『集』の本来の能力を使える。
ギルドで聞いた場所へと向かう。街の外に出て少し言ったところにある群生地へ向かう。
森の手前だ。
そこは草が一面にひろがっていて薬草も沢山ありそうだった。
草の擦れる様な音が聞こえた。
音がした方向を見ると何かがくる。
飛び出してきたのは頭に『突』と彫られている鼻が特徴的な生き物だった。
こっちに迫ってくる。
咄嗟に『壁』を地面に放つと土が盛り上がり、壁が聳え立つ。
壁に激突する鈍い音が響き渡った。
生き物が見えるように位置取りを変える。
そいつはこちらをギロリと睨む。
この生き物には悪いけど、危ないから討伐させてもらうよ。
ごめんね。変な鼻の生き物。
「ごめん!」
プチッと潰れるその生き物。
『重』で潰しちゃったけど、そのままギルドに持ち込もう。報酬が貰えるかもしれない。
ついでに字も貰っておこう。
戻る前に薬草を一つつまみ茎からポキッと折ってとる。それをもち「集まれぇ!」と念じる字力を広げる。すると、字力の有効な範囲にある全ての薬草が集まってきて体の周りへ漂った。
袋を口を開けてその中へと薬草を入れていく。すると、袋はパンパンになった。思ったより早く依頼達成できたから、ギルドへ戻ろう。
「まだ午前中だったのに、もう終わっちゃったな。いいのかな?」
大きな袋と潰してしまった生き物を持ってギルドへ戻る。
道中街の人達に声をかけられた。
「おっ? 新人か?」
「字兵さん、ご苦労様」
「おやおや、大きな荷物だねぇ」
街の人達はみんなボクを気にかけてくれている。それがとても嬉しくて照れくさい。
ただ、心はとても温かくてまだ昨日来たばかりだけど、この領に来てよかったと思う場面がいくつもあった。
この気持ちを世界の皆にも共有したい。
そんなことを考えて歩いているとギルドに着いていた。
受付にはランさんがまだ居てくれた。
「あのー……」
「あっ! どうしたの? その袋……もしかしてもう終わった?」
「実はそうなんです」
「凄いわ!」
カウンターの中で飛び跳ねて喜ぶランさん。
「それは?」
「なんか『突』の字をもつ生き物で。いきなり襲われたんで潰しちゃいました」
「あっ、ホントだ潰れてるね。でもいいわ。買い取る!」
「ホントですか!? よかった!」
買取窓口に持っていくと取ってきた物を別の職員の人に渡した。
「報酬出すわね。えっと……これとこれとこの任務だから……二万五千ルノーです!」
頭が真っ白になった。
最初に出てきた思考はそんなに貰っていいの?だった。
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