第4話 字兵ギルドで登録

 次の日、コウジュが一緒に字兵ギルドへ行こうって誘ってくれた。

 礼を言い、一緒に行こうとしたんだけど、そこにミレイさんが来て悔しがっている。


「私が連れていこうと思って服持ってきたのに! なんでコウジュが一緒に行こうとしてんのよ!」

 

「いやいや、あねさん、昨日何ですぐにシュウイに服渡さなかったんすか? 字兵用の標準戦闘服が合ったじゃないっすか!」

 

「えっ? 渡さな……かったか。ごめんシュウイ」

 

「姐さん天然だなぁって皆で笑ったっすよ。俺が渡したんで大丈夫っす」


 愕然としているミレイさんに肩を叩いて慰めている。

 ガバッと顔を上げて両手をボクの肩に乗せた。


「よしっ! 三人で行こう!」


 どうしても行きたいんだな。と察したので頷いた。すると、コウジュが顔を近づけてきて。


「姐さん、きっと弟ができたみたいに思ってるんすよ。面倒見がいいから」

 

「そうなんだ。なんだか悪いな」

 

「良いんすよ! のっかっとけば!」


 いきなりミレイさんが振り返った。

 そしていきなりキメ顔をした。


「ヤローども行くよ!」


 颯爽と宿舎から出ていった。

 後を追う形でボクたちは後ろから付いて行く。


 街をズンズンと進んでいく。

 ミレイさんはすれ違う人に手を挙げて挨拶をしながら路地を曲がる。

 一瞬見失い、曲がった先を見ると居なかった。


「あれ?」

 

「くくくくっ! ホントに姐さんは天然なんだから。こっちのこと忘れちゃったんだろうな」


 曲がってすぐの建物の入口にコウジュが立った。


「ここなんだよ。ようこそ。字兵ギルド『まつり』へ」


 建物に入ると左側は飲食スペースになっている。目の前の奥にはカウンターがあり受付には受付嬢がこちらを伺っている。

 その受付嬢へ話にいったミレイさんの背中を見つけた。

 後を追って受付に行く。


「この子の登録お願い!」

 

「あっ! 新人さんですか?」

 

「そうよ。有望株なんだから!」

 

「へぇ! すごぉーい! じゃあ、名前から聞いてもいいかな?」


 受付嬢の笑顔が眩しくて照れてしまう。顔を直視できない。やばい。こんな人と話したことないよ。


「シュウイ? 何? 照れてんのぉ⁉ ちょっと私とは普通に話したじゃない! どういうこと⁉」


 隣からめちゃくちゃ捲し立てられ、しゃがんで縮こまってしまう。

 シュンと小さくなっていると──


「シュウイ。大丈夫っすよ。ほら、立てるっす? 少しずつ受付さんの顔見てあげてほしいっす」


 下から少し目線を移すがすぐに下に行ってしまった。

 ミレイさんも綺麗だけどなんか違うっていうか。

 この人凄いキラキラしてる。


「ランさんが綺麗すぎて見られないみたいっす」

 

「まぁー。それは嬉しいわ! 下向いててもいいから答えて欲しいな? いいかな?」

 

「はい。ごめんなさい」


 下を向きながら謝る。そしてもう一度見る様にチャレンジしてみるが、すぐに視線が下へ行ってしまう。


「名前はシュウイ君ね?」

 

「はい」

 

天漢てんかんは何かしら?」

 

「てん……かん?」


 それはいったいなんだろう。聞いたことがない。


「あっ! そっか。呼び方がわかんないんだわ。自分が生まれ持っている漢字を天漢って呼んでるのよ」

 

「そうなんですか! えっと『集』です! あと『使』です!」


 少しの沈黙が恐かった。言われた意味を理解して答えたんだけど間違ったかな。


「えぇっ!? シュウイって二文字持ち!?」

 

「しかも熟語じゃないのね! すごいわー! たしかに期待の新人! で、何ができるかな?」


 そう言われると言葉に詰まる。何ができるか。ボクには一体何ができるんだろう。その疑問を解決できずに黙っていることしかできなかった。


「私が見たことと聞いたことで判断すると、何でもできるわ!」

 

「いやいやー。いい子いい子したいのはわかりますけど、ミレイさん。嘘はダメですよ?」


 ミレイさんは頭に手を当てている。

 話が通らないことにイライラしているようだ。


「嘘じゃ……」

 

「だったら、闘技場でワシが見てやるわい」


 受付嬢の後ろからガタイの大きな初老の男性が現れた。

 オールバックの白髪。蓄えている髭。長老感が出ていた。


「あなたは?」

 

「ワシか、ここを取り仕切っておるギルドマスターじゃ」

 

「シュウイといいます。よろしくお願いします」

 

「ホッホッホッ! その辺の字兵とは違うみたいじゃのぉ。奴らは礼儀がなっておらんからな! いくぞい。シュウイとやら」


 ギルドマスターが地下への階段を下りて行く後を追う。

 降りて行くと地下に広がっていたのは上の何倍も広い訓練場だった。

 天井の照明には『光』の文字が使われていて、結構な数あるので明るい。


 地下はムッとしていて汗の匂いが染みついているようだ。

 そんな訓練場で両者が向かい合うように立つ。


「その身体で戦えるのかのぉ?」


「何がですか?」


「お主のその身長は標準だが、やせ細りすぎてヒョロヒョロじゃよ?」

 

「戦えないかもしれませんが、試してみます」


 脳内のリストから『速』を使う。

 両肩が光った。突如身体が軽くなった。一歩進めばもうギルドマスターは目の前にいた。

 

「えっ?」

 

 そのままギルドマスターに激突してしまった。


「ホッホッホッ! お主の字は『集』と『使』であろう? なぜ見えない速度で肉薄できたんじゃ?」


 自分のこれまでのことと漢字の使い方を教えると高らかに笑っていた。


「これは鍛えれば面白くなりそうじゃのぉ」

 

「鍛える?」

 

「そうじゃ! 鍛錬、するぞい?」


 ちょっと心配になりながら苦笑いを返した。

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