第3話 一緒に天下とろう!

 街で会う人に挨拶しながら向かったのは少し大きな建物。

 人が何人住めるんだろうと疑問に思う程の大きさだった。


「ここに私の兄貴がいるの。この領の領主なんだよ」

 

「ボクがいきなり領主に会って大丈夫なんでしょうか。しかもこんな格好で……」

 

「大丈夫。兄貴にありのままを見て貰おう」


 案内されて着いたのは大きな扉の前。

 ノックをすると中から「入っていいぞ」と返事がした。

 若い人の声だ。


「兄貴に見て欲しい子がいるんだ」

 

「なんだミレイか! 戦はどうした?」

 

「適当に倒して帰ってきたよ。そこでこの子に会ったんだ」

 

「ん? 君、ちゃんとご飯は食べられてるかい?」


 ボクの身体が細すぎて気になったみたい。

 腕を触り心配そうな目をボクに向ける。

 

「さっき食べさせたわ」

 

「お前に聞いてない!」


 その男の人はスキンヘッドでガタイのいい強面な人だった。でもボクを見た途端、目が優しくなる。声色も優しくて全然恐怖感はなかった。


「ミレイさんからご馳走になりました。とても美味しくてパン以外の物を初めて食べました」

 

「そうか! パン以外食べたことがなかったんだなぁ。美味いもん食えてよかったなぁ」


 その人は頬を濡らし涙を流していた。ミレイさんもだけど、他人の為に涙を流せる人なんだな。

 それに心が揺れ動かされる。前の領の人は自分が苦しくて助けを求めている人ばかりだった。領が違えばこんなに違うんだ。

 ボクはこの領にラッキーだ。


「この子、二文字持ちなの。しも珍しい単字二文字!」

 

「なに⁉ 二文字持ちは殆どが熟語なのに! 意味の異なる漢字が二文字なんてすごいぞ! なんの漢字だ?」

 

「『集』と『使』だよ」


 ミレイさんがそう伝えると顎に手を当てて考え始めた。どういう使い方をするか考えているのかな。

 

「もしかして、漢字を集められるのか?」


 まさか字だけで言い当てるなんて。


「そうです。死体からですけどね」

 

「この子、死体集めさせられてたのよ?」


 何かを察したのか目を見開いて肩を震わせた。口をパクパクして魚が餌を食べる時のようだった。少しおかしい。


「プッ! 兄貴! 変な顔!」


 笑っちゃいけないと思いながらも少し頬が緩んでしまった。


「はははっ! 君、ようやく笑ったね!」


 そこで気が付いた。人生で笑ったのはこれが初めてだということに。


「どれくらい漢字を集めたんだい?」

 

「数え切れません」

 

「そうか。俺達と一緒にこの世界を笑顔で溢れる粋な世界にしないか⁉ その為に天下統一を目指しているんだ! 仲間になろう!」

 

「ボクでよければお手伝いします!」

 

「ハッハッハッ! これで一歩、天下統一に近付いたな!」


 大きな口を開けて笑うこの人が領主ならば、幸せな世界になる。そんな気がした。


「俺の名はタイガ! よろしくな!」

 

「改めて、私はミレイ! よろしく!」

 

「シュウイです! よろしくお願いします!」


 この領を動かすことになる三人はこうして一堂に会した。

 

「まずは、字兵ギルドに登録してくれ」

 

「字兵ギルド?」

 

「そうだ。下級の十級から任務をこなして、徐々に一級に近付いて行くんだ。五級からは領外任務もある」

 

「わかりました。頑張ります!」

 

「あぁ。無理せずな。一緒にこの領を! 笑顔を! 広めて行こう!」

 

「はい!」


 タイガさんとガッチリ握手をすると部屋を後にした。ミレイさんに今度はギルドに連れて行って貰おうとする。だた、待ったがかかった。


「焦らなくていいよ。今日はゆっくり休もう。服は私が用意するから。ここにある部屋使って?」

 

「いいんですか?」

 

「いいの! 字兵用の宿舎だから、他にも使ってる奴らがいるけどその内戻ってくると思うから色々聞いてみな!」

 

「わかりました。ミレイさん、ホントに有難う御座いました」

 

「期待の新人! 楽しみにしてるよ!」


 満面の笑みを見せると建物から出て行った。

 割り当てられた部屋を見るとベッドとクローゼットだけの部屋だ。ボクにはこれで十分だけど。ベッドへ横になると心地よさに目を瞑ってしまった。


「あれ!? この子だれっすか!?」


 部屋の入り口で騒いでいる人がいる。目を擦ってよく見ると知らない人だ。知らない間に寝ちゃったみたいだ。挨拶しなきゃ。


「今日からお世話になります! シュウイです! よろしくお願いします!」

 

「あぁ! 新人っすか!? 聞いてなかったんす。申し訳ないっす。この子新人だったっすー!」


 どこかの人へもボクのことを知らせているみたい。なんか申し訳なかったな。まさか寝ちゃうなんて思わなかったから。


「大きい声出してごめんっす。自分、コウジュっす。よろしくっす」

 

「よろしくお願いします!」


「なんでも聞いて欲しいっす。自分十六なんすけど、シュウイは?」

 

「あぁ。ごめんなさい。歳数えてなくて。たぶん同じくらいだと思います」


 コウジュの顔が涙ぐみながら歪む。


「苦労したんっすねぇ。ぐすっ。敬語じゃなくていいっすよ」


 この領の人達は皆いい人らしい。

 思わずこちらは口角を上げてしまい心が温かくなる。

 

「晩飯くったっすか?」

 

「ううん。まだだけど……」

 

「一緒に食堂へ行くっす!」

 

「う、うん」

 

「どうしたっすか?」

 

「ボク、食べていいのかな?」


 また変な顔をするコウジュ。


「タイガさんに会ったっすか?」

 

「うん。ミレイさんに連れて行って貰った」

 

「なんて言ってたっすか?」

 

「一緒に天下獲ろうって」

 

「じゃあ、大丈夫っす!」


 よくわからないけど、大丈夫らしい。

 これが友っていうのかな。

 この後のコウジュと一緒のご飯はやっぱり美味しかった。


 他の字兵からも質問攻めに合い大変だった。

 コウジュはみんなから次の幹部候補と言われていた。

 こんなに面倒見がよかったらそうだろうなぁ。

 

 とりあえず着る服をもらった。何故ミレイさんは早く渡さなかったのかと皆は口々に言って、笑っていた。

 

「きっとまた天然が出たっすね」


 そんなことを言っていた。

 明日はギルドに行こう。

 早くこの領の為に働くんだ。

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