第6話 鍛錬と相談
換金したお金は大事に布袋にしまっている。
本当にこんなに貰ってしまっていいんだろうか。
受付のランさんに話したら正当な報酬だっていうし。
討伐系が高かったみたい。
あの生き物の討伐で一万五千ルノーらしい。
ゴミと薬草が各任務五千ルノー。
宿舎へ戻ろうとすると路地から手が伸び、手招きをしている。
路地を曲がると服装を見るに字兵らしき人がいた。
「なん……ですか?」
「あぁ。実はな。金が無くて困ってんだ。お前新人だろ? 先輩助けると思って金をくれ」
「……いくら欲しいんですか?」
「欲は言わねぇ。二万ルノー欲しいんだ。今日稼いできたんだろ? なっ? いいだろ?」
「えぇ。いいですよ」
布袋から二万ルノーを出して手に乗せると、握りしめて反対の路地からそそくさと去って行った。
なんでお金に困ってたんだろう?
ボクみたいにお金がない人もいるんだね。
その路地から出るとコウジュと鉢合わせした。
「おう。シュウイじゃないっすか。どうしたんすか? そんなところから出てきて?」
「うん。さっき字兵っぽい人にお金欲しいって言われてあげた所なんだ。こんなにいい領でもボクみたいにお金に困っている人もいるんだね?」
「字兵の格好したヤツっすか? 自分の知っている限りではそこまで行き詰っている字兵はいないはずっす。誰かがシュウイの人の良さに付け込んだんすね。許せないっす」
目を吊り上げると周囲を伺う様に見渡した。
怪しい人がいないか見ているのかもしれない。
「まぁ。ボクはこれだけあれば大丈夫だよ。宿舎でご飯食べられるし」
「ダメっすよ! そういう奴はまた来るっすよ?」
「困ってるならいいんだよ」
「お人好しっすねぇ。依頼は終わったんすか?」
コウジュはボクのことを呆れたように笑った。
「うん。午前中で終わっちゃった。暇だし別の依頼も受けようかな」
「あんまり無理しない方がいいっすよ? 一緒に鍛錬するっすか? 自分もまだまだ未熟なんでタイガさんに稽古つけて貰う時があるんすよ」
ちょっと大変そうだなぁと思いながらも了承した。
宿舎に戻ると訓練場に行く。
タイガさんは訓練場で大抵は字兵の人達に戦い方を指導してくれているんだとか。
ギルドと同様。ここも地下に訓練場がある。
コウジュの後を付いて行き訓練場に入ると冷たい空気が漂っていた。
もっと熱気があるかと思ったが、字力の力で涼しい環境になっているようだ。
数名の字兵がタイガさんと一緒に訓練を行っていた。
主に組手をしているようで拳を打ち合ったり蹴りを放ったりしていた。
「タイガさん、失礼しまっす! シュウイと一緒に訓練したいっす!」
「おっ! シュウイ、今日いきなり訓練に来るなんて俺は嬉しいぞ!」
ボクを見るなり満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「あっ。はい。見てみようかなぁって……」
「まず拳を握れ」
「えっ? はい」
「こうだ」
タイガさんは拳を構えてそれをボクに真似しろと言ってるんだよね。
見てみようって言ったのに、やることになっちゃってるよぉ。
真似してみると直接身体の引いたりおしたりして修正して基本の形を教えてくれるみたい。
「うん。これが基本の形だ。覚えておけよ?」
「はい」
「ここからこう打つ」
右手を引きながら左拳を突き出してみる。
一回戻ってまたさっきの動きをトレースしながら少しずつ修正していく。
「わかったか?」
「なんとなく……」
「最初はそれでいい。その次がこっち。この連続した動きを俺達はダブルと呼んでいる。戦う時はこれを基本にしているんだ」
なんとなく動きはわかった。後は繰り返して自分のものにするんだとか。
ボクに基本を教えると今度はコウジュと組手をし始めた。
面倒見がいいし体力のある人だ。
こうやって皆に教えているのなら。相当慕われているだろう。さっきの人のことも相談したら訓練してお金を稼げるようになるんじゃないだろうか。
そんなことを考えながらひたすらダブルの動きを繰り返す。なんか右のわき腹が引き攣ったように痛い。なんだろう。
少しわき腹に手を当てて座る。
「シュウイ!? 大丈夫っすか!?」
「なんか引き攣ったように痛くて」
「つったんじゃないっすか? 手を挙げて左に反ってみるっすよ」
ゆっくりと身体を反っていく。
「いててて」
「いきなりで力入ったんじゃないっすか? 最初は軽くやるっすよ!」
「うん。わかった。ありがとう」
もう大丈夫だというとコウジュはタイガさんの元へと戻っていった。
すごいなぁ。動ける人って。ボクは体力内から身体を動かすのは苦手だなぁ。でも、教えてくれる人がいるから期待にこたえたいと思う。せっかくいろんな字が使えるんだから。使いようによっては強いはず。
それはタイガさんも言っていた。
少し休憩に入ったのを見計らってさっきのことを相談してみようかなと思う。
あの人が少しでもラクになるならいいと思うから。ボクみたいに苦しんでいる人がいるなら助けてあげたい。ここの領の人はみんないい人だからきっと大丈夫だよ。
「タイガさんちょっといいですか?」
「おう。どうした?」
「さっきなんですけど……」
まさかこれが騒動に発展するとは思いもよらなかった。
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