第5話

◆◆


 ――昔々、ユリエット王国に魔女がいました。


 魔女は国のために、沢山の善行をして、すべての人から慕われていました。

 しかし、ある時から、魔女はおかしくなって、国にとって悪いことをするようになりました。

 王族も民衆もどうしたものかと困り果てていたところ、魔女はようやく告白しました。


 ――自分の寿命が迫っていることを……。


 死が恐ろしくなって、悪行を重ねてしまったのだと……。

 晩節をこれ以上穢したくないので、城を一つ所望したい。そして、自分の介護を頼める召使いを一人つけて欲しい。

 魔女の頼みを、お安い御用だと、王は請負って、早速、山間の「サロフィン城」と、貧乏男爵家から金で買収した「召使い」が彼女のもとに献上されました。

 これで静かに穏やかに、彼女は亡くなるのだろうと、誰もが思ったわけですが、しかし、誤算だったのは、その後、魔女がしぶとく四十年も生きるだろうことを、本人も含めて、誰一人予想していなかったことです。

 魔女は、召使いに自分のもとから離れられないように、城から出たら、死んでしまう呪いをかけました。

 召使いは城内では、老いることはありませんでしたが、その代わり、外に出る自由を失いました。


 ……そして。

 召使いは魔女の死後も一人、魔女に掛けられた呪いが解けないまま、己の寿命が尽きる日まで、生きているのです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る