死神




田んぼの中にある交差点で、老人が消えた事を確認した佳文は、

ソファに座って考え込んでいた。


「これまで…何人かを導いたけど…」

大きく溜め息をつき、ソファの背もたれに凭れかかり、目を閉じた。


「俺がやってる事って…意味があるのか?」

ゆっくりと目を開け、天井を見上げた。


「初めて導いたのは…海岸だったな…」

佳文は、もう一度目を閉じた。


「ふぅ…」

深呼吸を繰り返し閉じていた目を開いて凭れかかった

ソファの背凭れからから勢いよく身体を起こした。

テーブルに置いてあった飲み物が入ったコップを手に取り

一気に飲み干し、

「はぁ…」溜め息を吐いた。


ソファから立ち上がり、空っぽになったコップを手に取り、

台所に持って行き、コップをシンクに置き、

水道の蛇口を開き、空っぽのコップに水道水を注いだ。

コップから溢れ出る水を、止めて洗面所に歩いた。

洗面台の前に立ち、水道の蛇口を開き流れ出た水を手で掬い、

佳文は、顔を洗った。

水で濡れた顔が洗面台の鏡に映っていた。

濡れたままの顔を「パシっ」っと両手で叩き、

「はぁ…」とまた、溜め息が出た。


「さっきから、ふぅ、とか、はぁ、とか溜め息ばっかだな」

独り言を吐き、水で濡れた顔をタオルで拭きとった。

そのタオルで、洗面台に飛び散った水滴を拭き取り、

使ったタオルを、洗濯籠に「ポイっ」と放り込んだ。


洗面所からソファが置いてある部屋に戻り、

佳文は、ソファに深く腰を下ろし座った。


「う~ん…」

佳文は、考えれば考えるほど、ワケが分からなくなっていた。


「…俺と同じ事をしてる人って居るんだろうか…」

佳文は、疑問に思いノートパソコンを開いた。

ノートパソコンの電源を入れて、パスワードを打ち込みWindowsを立ち上げた。


Google Chromeをクリックし、開いた検索窓に、

「死者 導く」と打ち込んで検索してみた。


十数ページ進んで見たが、そんな記事は書かれてなかった。


「死者 導く者」「霊 導く」「霊 導く者」と

幾つもの違う言葉を検索してみたが、ヒットしなかった。


「そりゃー当然だよな…俺だって辺りを見渡し、目立たないようにしてるし、

誰かに、死者を導いてます。なんて言えるワケもない」

佳文は、また振出しに戻った気がした。


「あの女性…が…何も教えてくれないし…いったい…あの女性は

何者なんだろう…」


佳文は、自分の事より、あの女性が何者なのかと考えだしたが、

分る筈も無かった。


「この状況も…たぶん見てるんだろうな…」

なぜか、天井を見上げた佳文だった。


「ふぅ…ますます…わからんわ~」と

思わず、大声を出してしまった。


「そう言えば…導かれるモノ…霊か…死んでから…成仏って言うのか?

導かれる人って、いつかは消えて無くなるんだよな…」


佳文の疑問は、導かれる者の事に移っていた。


「死んだ人って…どこへ向かうんだろ…俺が見た…導いたモノは…

自殺だとか…事故だとか…」


「あれっ?病気で亡くなった人は?病院では…あの少女しか見なかった…

病気で亡くなった人は、死を意識してるから?」


「あぁ…わからん」

色んな事が、頭の中を掻きまわし、次は叫びそうになった。


「それなら、事故…いや…戦争で亡くなった人は…戦国時代に亡くなった人は…」

過去に亡くなったであろう人の事まで、頭を駆け巡った。


「街中の男…橋の上の男…そして…老人…数年で消えて無くなってる…」

街中の男の事は、検索しても出て来なかったが、

橋の上の男と老人の事故は、検索に出てきて、亡くなった日時が分かっていた。


「何もしなくても、数年から十数年で消えて無くなるのかな…」

2件の事だけで、佳文は、勝手な解釈で片付けた。


「だよな…この日本だけで不慮の事故や事件、それに戦争や戦国乱世で、

亡くなった人は、今までに何百万人は居るだろう…

もしその人達が、導かれずに彷徨ってたら…うわぁ…身の毛が…だな」

佳文は、また勝手な解釈をした。


「しかし…気になるよな…この言葉」

佳文は、「死者 導く」をGoogle 検索した時に出てきた言葉に引っ掛かっていた。


「死神…か」

Google 検索した時に出てきた言葉は、死神だった。


「あの女性は…死神なのか…すると…俺が…やってる事って…死神」


「死神か…イヤイヤ…俺が知ってる死神は、生きてる人に死を…

死んだ人だし霊だし、だから俺は、違うだろ」


佳文の死神のイメージは。黒装束を着て大きな鎌を持ち生きた人の

命を狩るのが死神だった。


「あぁ…もう考えるの止めよ…」

ソファの背もたれに凭れかかり、目を閉じていたら

佳文は、子供の頃の出来事を思い出した。






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