真夜中に立つ老人
「うわっ!!居た」
佳史は、車を止め慌てて車から飛び出した。
その日は、釣り仲間の誘いで、河川シーバスを釣りに行ったのだ。
釣り仲間が集まって釣りをするのだけど
隣に並んで釣りなんて事には、ならないのがシーバスフィッシング、
まぁ、時と場合と場所では、あるけど…
佳文は、堤防を登る誘導路から、河川敷へ下る誘導路を
車で進み、釣り仲間が駐車している車の横に自分の車を止めた。
「久しぶりっす!!」
車から降りた。佳文に中学の後輩の学が、
ロッドを手に持ち、挨拶をした。
「まなぶん、久しぶり~」
「ん?」「もう1台止まってる車は、知り合い?」
佳文は、学の車の横に止めてある車を、指差した。
「あぁ、コレっすか?知り合いのっス」
「今夜、釣りに行くって話したら、ツレが俺も行くって先乗りしてたんスよね」
「この車のヤツ、ヨッシーさん、知ってるんスか?」
学は、いつもの感じで説明してくれた。
「いやね、お前の車が、横の車にガン着けで止めてるからさ~」
車の持ち主によってはだけど、釣り場のトラブルになる事もあるのだ。
「ヨッシーさん、俺だってモラルは、持ってますよ~
知り合いじゃあなきゃーこんな…」
駐車間隔を見て学は、
「あっ…これじゃあ…知り合いでもトラブルっスね」と言い
「ヨッシーさん、コレ持ってて」と
用意中のタックルを、佳文に手渡し、車に乗り込み
エンジンを掛け、隣の車から離し駐車し直した。
車から降りた。学は、
「ありがとっす」と言い、佳文に渡したタックルを受け取った。
「で、その知り合いは、どこにエントリーしてるんだ?」
佳文は、学に聞いた。
学は、辺りを見渡し「ん~知らないっス」
このエリアのどこかにエントリーしているのだろう、釣り人あるあるである、
「ヨッシーさんも、はやく用意してくださいよ!!」
いつの間にか、ウェイダーまで履いて準備万端の学が、急かした。
「先にエントリーしてていいぞ~俺は、空いてる場所に入るから」
車の中からタックルを、出しながら佳文が答えると、
「じゃあ、お先に~釣れたらラインしてくださいね」
と言い残し足早に葦原の中に消えて行った。
「あぁ、分った」
佳文は、ウェイダーを履き、フローティングベストを着け
ロッド調整とリールのドラグ設定をして、車のドアをロックし
学とは、逆方向へ歩き出した。
するとすぐに、スマホが鳴った。
「もう、釣れたのか?」と
スマホを確認すると、「ツレの格好は、上から下までRBBです」
RBBと言う釣り具メーカーの押しらしい、
耳を澄ませながら、河川敷を歩く
どこからか「ピシっ」とか「シュッ」とか聞こえれば
近くにシーバスを狙う人が居るのだ。
「駐車してた車両は、俺達の3台と他の1台だから、最低4人か…」
ブツブツ独り言を言いながら歩く
「みんな反対方向に入った感じかな?」
河川敷を歩き、岸際へ進むと葦原に踏み固められた小さな獣道の様な道があった。
この道は、釣り人が歩き作った道で川岸まで続く、
釣り人道を数十メートル進み、川岸に到着した義孝は、周りを見渡し
他の釣り人が居ないか確認した。
耳を澄まし、音を確認し視覚でライトの光を確認すると
学が向かった方向に、3つのライトの光りを確認した。
「みんな、あっちか」
佳文は、呟き夜の川の中へウェーディングし、ルアーをキャストした。
1投目から、60㎝のシーバスが簡単に釣れた。
このエリアは、佳文のホームでシーバスの着く場所を熟知しているから
簡単に釣れたのだ。
その後も、数投に1度ルアーにバイトがあり
計3本のシーバスを釣り、休憩をしているとスマホが鳴った。
「おっ!!釣れたかな~」とスマホの画面を見る、
「お疲れ様です。頼んだ件は、順調ですか?」と
「ヤバっ!!忘れてた」
知り合いに頼まれて製作してた物の事を、すっかり忘れていたのだ、
「後は…仕上げと色を入れれば…今夜…徹夜と明日一日フルに使えば…
完成できるな…」
小走りに、車へ戻りロッドとリールを片付け、フローティングベストとウェイダーを脱ぎ
乱雑に、車に放り込んだ。
「あっ…釣れたの教えとかなきゃあ」
佳文は、学に釣れたシーバスの画像3枚と釣れた場所と急用で帰ると送り
車に乗り込み、河川敷から道路へ車を走らせた。
真夜中だけあって、交通量は少なくスムーズに帰宅の途についていたが、
「夜食を買って帰ろう」
堤防道路を走っていた佳文は、堤防道路から市街地へ向かう道へ曲がり
近くのコンビニへ向かっていた。
街灯が、ほとんど無い農道を車で走る先に、車のライトのハイビームに、
一時停止の標識が、照らされ光っていた。
「ん?」「誰か立ってる?」
「ぼわん」と暗闇に浮かぶ人の姿が、佳文の目に入った。
浮かぶ人の手前数十メートル手前で、車を減速し、
ゆっくりと横を通り過ぎながら、頭から順に身体全体を見た。
「うわっ!!」
車を道路脇に止め、ドアを開け飛び出した。
暗闇に浮かぶ人に近づき、確認した。
それは老人で、膝まで地面に沈んだ状態だった。
「街中で見つけた肩から上だけが出た男や橋の歩道に顔だけ出た男…
その男達に、何も出来なかった」
佳文は、以前の出来事に悔いが残っていたのだった。
「そうだな…」
周りを見渡し呟いた佳文は、車に戻り車をバックさせ、
老人の立つ直ぐ横に車を駐車し直しハザードランプのスイッチをONにした。
真夜中だけど、この道を通る車から死角を作ったのだった。
「膝から下は…」
釣りで使ったライトを点灯させて膝と地面の境を、もう一度確認した。
「足は…埋まって…地面と一体化してる感じだな…」
そこに立つ老人は、膝まで地面に埋まっていた。
「これは…少し見える人と偶然見えてしまった人には…足が無い様に見えるか…」
幽霊が…そう表現されるのは、こんな事からかなと思った。
「ここなら、導けるだろう」
そう考えた佳文は、老人に近づき、
自分の髪の毛を1本抜き、老人の髪に付けた。
そして、老人の手を取り空へ向け手を上げたが、何も起こらなかった。
そう導けなかったのだ。
「なぜだ…動ける状態のモノしか導けないのか…」
佳文は、そう思ったが、導く動作を何度も繰り返してみたが
老人は、消えなかった。
何度も繰り返す間に、数台の車が通り過ぎ
その車を運転する人と目が合い、不思議そうな顔、不審な者を見る目が痛かったが、
佳文は、スマホを耳に当て通話してる様に見せていた。
「そりゃー不審者だけどさ…」
だが不審者扱いされて、110番通報されては、言い訳もできない状況なので
一度、車に戻り、スマホのスイッチを入れて検索した。
「○○町・交差点・死亡事故」
「これか?8年前…自転車に乗る78歳男性…」
この場所で亡くなった事故を見つけた。
事故を検索した佳文は、橋から消えた男の検索履歴を探した。
「7年前…数年で自然に消えるって事か?」
もう一度、老人が立つ場所へ戻り確認すると
膝まで埋まった老人の足は、膝上付近まで沈んでいた。
「さっき確認した時より沈んでないか?」
その老人の足は、見つけた時よりも地面に沈んでいた。
「このままだと…数日中には消えるんじゃないか?」
佳文は、車に戻り運転席に座り考え込んだ。
「どこか…1部分でも地面に埋まっていたら…導けないのか?
数年で自然に消えると言う事なのか…」
佳文は、ますます解らなくなった。
数分…いや十数分考え込んだ佳文は、ゆっくりと車を発進させた。
数百メートル車を走らせた時、遠くの方から農道を赤い回転灯が
佳文が、車を止めてた交差点方向へ向かって来るのが見えた。
「うわっ…誰か通報したのか…ヤバっ」
要らない職務質問を受けるのは、御免だと考えた佳文は、
付近のコンビニへ立ち寄るのをヤメて、近所のコンビニへ向かった。
数日後、この場所を訪れた佳文は、老人の姿が、この場所から消えているのを確認した。
「はぁ…俺がやってる事って意味があるのか?」
そう思い車に戻り帰路に着いた。
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