心霊番組
佳文は、家に着き車を止めて、玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。
玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き
内側のドアとドア枠に渡し、抜いた髪の毛を貼り付け
「ただいま」
玄関を上がり居間の椅子に座った。
「はぁ…疲れた」
そう言いながら、テレビのリモコンを手に取り
TVの電源をいれた。
佳文は、テレビに電源を入れても、あまりテレビ番組を観ていなかった。
一人住まいの家…何も音がしない部屋で一人ポツンとしているのが
堪らなく嫌で、どこの放送局のなんの番組でも、
ただ人の声が聞こえていれば良かった。
「また…心霊モノか…」
夏近い時期だけあって、芸人さんやタレントが心霊スポットへ行く番組が流れていた。
テレビのスピーカーから
「ぎゃー」「なにか音がしたよ~」と
女性タレントが騒ぐ声が聞こえてきた。
「いいな~これでギャラが発生するんだから…俺なんて…無償だぜ?」
テレビから流れる音声に、ブツブツと文句を垂らす佳文だった。
「ピピピン・ピピピン」音声が鳴った。
「おっ!!お風呂にお湯が入ったな」
佳文は、着ていた服を床に、放り投げてお風呂に入った。
暫くして、お風呂から出てきた。
テレビからは、まだ心霊スポットのテレビ番組の音が流れていた。
「2時間番組か…」
そう言いながら、ソファに腰を下ろし座った。
すると、
「番組MCが、最後の心霊スポットは、古くから〇〇地方の池の周りに出る
老婆の幽霊です」と紹介した。
佳文は、MCの言葉に反応し、テレビ画面を観た。
「うわっ…懐かしい!!そんな噂あったな~」
食い入るように、映像と説明する、お笑い芸人の話を聞いた。
「うんうん、あったあった」
「うんうん、俺らの頃と内容がちょっと違うけど」
お笑い芸人の説明が終わり、ロケの模様が始まった。
「昼間の風景は、観光地ですね~」
レンタルボート屋の店舗が並ぶ池のダム部分が映った。
「へぇ…今も変わらずなんだな」
佳文の記憶では、数軒~10軒程のレンタルボート屋が並んでいた。
中学生の頃、電車に乗って、たまに釣りに来ていた場所だったし、
車の免許を取った頃は、ドライブに来たりしていた。
お笑い芸人の説明途中CMが入り、CMが終わり番組が始まると
画面は、夜になっていた。
「はい、ここは、先ほどの昼間と場所と同じ場所です。
真っ暗ですね…街灯も点々とあるだけで、池は暗闇です…
こっこれは…出そうですね…」
この説明に佳文は、
「まぁ…人が住んでないし、夕方5時には、レンタルボート屋も閉まっちゃうからな…」
「それでは、車に乗り込み、池をグルっと回ってみましょう」
すると画面は、道路を走る車の中に切り替わった。
「はい、時間は午前1時を過ぎましたが、今のところ何も起こりません」
すると番組MCが、
「夜中ですか…道を木が張り出してきて、如何にもって感じですね~」と
「はい、私達は、何周も周回して探しました。続きをご覧ください」
お笑い芸人の説明が入り、テレビ画面がレンタルボート屋前に切り替わった。
「私達は、何周も周回しましたが、残念ながら…」
カメラがお笑い芸人から真っ暗な風景にターンした時
ずぶ濡れの男女が、道路の欄干に座りロケ班を眺めていた。
「はい、残念ながら…この場所に現れる老婆も、他にある、
幽霊の目撃情報も確認できなかったです。」
お笑い芸人は、悔しい素振りで歩き出し、ずぶ濡れの男女が座る欄干前で止まった。
「ここで、霊能力者の方をお呼びしましょう」
お笑い芸人が、霊能力者の名を呼び、カメラフレームの中に入って来た。
「とうとう、見つけられませんでした…」
お笑い芸人が、霊能力者に話しかけると
「残念ですね…霊の気配は…感じるんですが…」
「えっ!!霊を感じてるんでか?どこです?」
お笑い芸人が、霊能力者に聞くと、
「はい、あそこに街灯が見えるでしょ?」
霊能力者は、池の対岸の遠くにある街灯を指差した。
「あの街灯…光ったり暗くなったりしてませんか?」
「あぁ!!ほんまですね!!今…暗くなった!!カメラさん映りました?」
お笑い芸人が、大きな声を出す。
「あれは、霊の仕業で、ここに居るよ~的なサインなんです」
霊能力者が答えると
「ほな、あそこに行きましょうよ!!」
お笑い芸人が、そう言うと車に乗り込み、その街灯の場所へ向かった。
しかし、
「すいません…あの霊は…居なくなっていました。
その証拠に、この街灯が暗くなったり、明るくなったりしません」
お笑い芸人を撮影していたカメラのフレームは、街灯を映した。
「それでは、もう一度、霊能力者の方に説明してもらいましょう」
フレームインしてきた霊能力者に、お笑い芸人が
「霊が居なくなってました。どうしてでしょう?」
「そうですね…私達が来るのを察知して逃げたのかもしれませんね」
霊能力者の返答に残念がるお笑い芸人が
「それでは、スタッフが待つレンタルボート屋の前に戻ります。」
と言い、CM後、ずぶ濡れの男女が腰かける、欄干前に戻った。
お笑い芸人と霊能力者の会話が、
ずぶ濡れの男女が腰かける欄干の前で、繰り広げられ、
お笑い芸人と霊能力者が左右に動く度に、
ずぶ濡れの男女が、テレビに映っていた。
「志村~後ろ後ろだな…」
佳文は、そう言いチャンネルを変えた。
「はぁ…見ちゃったからな…」
数日後
佳文は、玄関のドアの鍵を開け、ドアとドア枠に渡し張り付けた髪の毛を剥がし
ドアを開けて外へ出た。
玄関のドアを閉め、玄関ドアの鍵を掛け、佳文は自分の髪の毛を1本抜き
ドアとドア枠に抜いた髪の毛を渡し貼り付け外へ出た。
車の鍵を開け、車のドアを開き、車のドアを閉め、深く溜息をついて
イグニッションキーを回し車のエンジンを始動し車を発進させた。
堤防道路を走り、記憶を辿りながら車を進めた。
「随分ぶりだな…確か…この交差点を右折して次の次を左折だっけ…
そうそう、この道だ」
佳史の車には、ナビゲーションが付いていないのだった。
「あとは、道なりに進んで、この小さな川を渡って大きな交差点を右折だったな」
程なくして、到着した。
「テレビで放送されたからか…夜なのに人が多いな…」
佳文は、そう思いながら、ずぶ濡れの男女が腰かけていた
レンタルボート屋へ車を進めた。
レンタルボート屋の建物を見つけ、その前の欄干に目を向けた。
数人のカップルや、グループが欄干に腰を掛け、撮影会の真っ最中だった。
その中には、とうぜん、ずぶ濡れの男女も腰掛けていた。
佳文は、駐車スペースに車を止め、様子を見ながら、車の中で待機した。
次々と来る人を眺めて1時間が過ぎた頃、
やっと人の往来が途絶えた。
短時間で、済まそうと導くシミュレーションは、
車の中で、何度も繰り返した。
佳文は、車のドアを開け外にでた。
「ふぅ…始めようか」
辺りを見渡してから、ずぶ濡れの男女が腰掛ける欄干へ歩いた。
男女の前に立ち、足が地中に埋まっていないか確認した。
「大丈夫だな」
佳文は、自分の髪の毛を一本抜き、男の髪の毛に付けた
もう一本髪の毛を抜き、女性の髪の毛に付けた。
二人の手に触れて、佳文は手を上に上げようとした時、
一台の車が近づいてきたが、途中で止める事はできない、
佳文は、構わず動きを進めた。
ずぶ濡れの男女は、「ふわっ」と浮き上がり、その場から消えた。
近づいた車は、佳文の立つ手前で減速し、駐車スペースに車を止めて、
乗っていたカップルは、一度佳文に視線を向けて、どこかへ歩いて行った。
「まぁ…車から出てきた男が、背伸びをしていたんだろうと思ったかな?
とりあえず…導けたし帰ろう」
佳文は、車に乗り込みイグニッションキーを回し車のエンジンを始動し
Dモードにギアを入れて車を発進させた。
帰り道の途中、あの心霊番組を思い出し、
「お笑い芸人と霊能力者の会話…目の前で見ていた、あの二人…」
「なんでやねーん!!ってツッコみ続けてたかもな…」
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