病室の少女
佳文は、朝から気が重かった。
なぜかと言うと、ほとんど付き合いのない、遠縁の親類が
近くの総合病院に病気で入院したから、見舞いに行けと言われていたからだ。
「はぁ…面倒だな…親戚付き合いは…その叔母って誰だよ…」
佳文の記憶には、入院した叔母の記憶がなかった。
「俺…会った事あるのか…」
朝から、機嫌が悪かった。
「親父と母さんが、生きてたら、こういう事は、任せられたのにな」
会った記憶がない、親類に会うと言うより、
お見舞いで、なにを言ったらいいのかも思い浮かばず
イライラしていた。
「それに…総合病院だろ…入院病棟がある病院…それってさ…」
佳文は、入院病棟がある病院が気になっていた。
「入院患者が居れば…病気で亡くなる人も居る…」
以前、病院跡地で導いた時の事を思い出した。
「病院跡地で導いた後の夜みたいになったら…嫌だしな…」
多くの導かれるモノが、自宅に集まった事が気になっていた。
「あぁ…気が重い…それに、あの時から数回導いたけど…
あの女性は、一度も、俺の前に現れてないんだな…」
佳文を、導くモノとした。女性は姿を見せずにいた。
「まぁ…見舞いに行って、大勢の導かれるモノが居たら、
見えないフリして帰ってこよう」
そう決めた。
佳文は、玄関のドアの鍵を開け、ドアとドア枠に渡し張り付けた髪の毛を剥がし
ドアを開けて外へ出た。
玄関のドアを閉め、玄関ドアの鍵を掛け、佳文は自分の髪の毛を1本抜き
ドアとドア枠に抜いた髪の毛を渡し、貼り付け外へ出た。
車の鍵を開け、車のドアを開き、車のドアを閉め、深く溜息をついて
イグニッションキーを回し車のエンジンを始動した。
シートベルトを身体に付けロックして、もう一度
大きく溜息をついた。
「ふぅ…行くか…」
そう言うと車を静かに発進して親類が入院する総合病院へ向かった。
数十分車を走らせると、大きな通りに面し建つ総合病院が見えて来た。
「あぁぁ…着いちゃった…」
来院者用の駐車場に車を止めて、総合病院の受付へ向かった。
受付に、入院している親類の名前を告げ、病室の番号を聞き
連絡通路を渡り、入院病棟へ向かいエレベーターに乗った。
「あれっ?」「それらしいのを見なかったぞ」
一人で乗った。エレベーターの中で、大きな独り言を吐いた。
親類が入院する病室の階にエレベーターが止まり
佳文は、エレベーターを降り、病室番号案内を確認し病室へ歩いた。
「505号室…黒田、ここだな…」
「コンコン」佳文は、病室のドアをノックし、一呼吸してから
「こんにちは」と言い、ゆっくりとドアを開けた。
4人部屋の病室には、親類の叔母が一人だけだった。
「こんにちは、白石佳文です」
起きていた叔母に、声をかけると
「あぁ…よっちゃんね、お父さんとお母さんの葬儀以来かしら」
「もう、大丈夫?」
叔母は、話した。
「そうですね、もう慣れたと言うか、そんな感じです」
佳文は、そう話しながら叔母の顔に覚えがないか、記憶を辿ったが
両親の葬儀に、来ていたかは思い出せなかった。
「ごきげんは、いかがですか?」
ありきたりの言葉をならべ、
「これ…召し上がってください」
食事はできると聞いていたので、ありきたりの果物を用意してきた。
「まぁ…気を使わなくていいのよ」
ありきたりの言葉を叔母は返した。
「もうね、病気はいいのよ、先生も2週間後には、退院だって仰ってたし
退院したら、また旅行でも行こうかしらね」
「そうですね、入院で落ちた体力を旅行で戻せるますね」
佳文は笑顔で、叔母に話した。
「あらっ、いい考えね」
叔母は笑った。
その時、病室のドアが開いたような気がしたが、
親類の誰かが、お見舞いに来たのだろうと思い、佳文は、病室のドアを見なかった。
「そうそう」
叔母は、曇った表情で話し出した。
「この病室ね、私一人でしょう…実はね、2日前まで高校生と言ってたわね
女の子が入院してたのよね…」
叔母は、目線を同じ病室に入院していた少女のベットに目を向けた。
「その子はね、入院中に両親を事故で亡くして、塞ぎ込んでいたわ…
私が…病気になって入院してなかったら両親は、事故に遭わなかったと言ってね」
「とてもいい子だったのよ、私が一人でトイレへ行こうとしたら
私が、看護師さんを呼べばいいのだけどね、その子がトイレまで付き添ってくれたのよね」
「いつも、おばあちゃん、おばあちゃんと言ってね、色々と世話をしてくれたり、
話をしてくれたり、聞いてくれたりね」
「私が、あなたには、おばあちゃんは居るの?と聞いたら」
「私には、お父さんとお母さんしか身寄りが居ないのよね~って
話してくれたのよ」
「私が、変な事聞いて、ごめんなさいって言うと」
「ううん、気にしないで、お父さんとお母さんが居てくれれば、私は幸せなんだし
入院中は、おばあちゃんが、私の仮のおばあちゃんだからねーと笑ってたわ」
「それなら、二人が退院しても、私は、あなたのおばあちゃんで、
あなたは、わたしの孫で居なさいと言ったらね」
「あーっ!!それは、いいわねーおばあちゃん」
「二人で、大笑いしてたら、看護師さんに怒られたわ…でもね…
その夜、ご両親が、お見舞いに来る途中に、事故に遭われて
同じ病院に運ばれて来たけど…即死だったそうなのよ」
「その事を聞かされ、それ以来、その子は食事も摂らず薬も飲まず
5日後、屋上から飛び降りたの」
その話を静かに聞いた佳文は、となりに立つ少女を見た。
「ちょっと、おトイレだから看護師さんを呼ぶわね」
叔母は、そう言いナースコールのボタンを押し、すぐに病室へ来た
看護師の付き添いで、トイレに向かった。
「お父さんとお母さんと一緒に居たいか?」
佳文は、となりに立つ少女に聞いた。少女は俯きながら頷いた。
「それじゃあ、俺は、君の両親を探しに行ってくるから、病院で待っててくれるか?」
少女は、小さく頷いた。
佳文は、自分の髪の毛を一本抜いて、少女の髪に付けた。
程なくして叔母が、病室に戻ってきた。
「叔母さん、ちょっと急用ができて帰るよ、退院までには、また来るから」
佳文は、叔母に話、病室をでた。
「あら?忘れ物ね」
佳文が、お見舞いに持って来た果物の横に、小さな袋が忘れて置いてあった。
駐車場に止めた、車に戻りスマホのスイッチを入れて
検索した。
「えぇっと…この付近の死亡事故・夫婦二人と」
佳文は、検索バーに検索する言葉を入力した。
「これか…」
検索すると、すぐに見つけられた。
「便利だけど…イヤな世の中だな…」
そう思ったが、車を発進させて、交通事故現場に向かった。
事故現場は、総合病院から少しだけ離れた。水田が広がる場所だった。
道路脇に車を駐車し、車から降りた。
見晴らしの良い、交差点まで来ると、真新しいガラスの破片と水田の中へ続く
車が進んだ跡が残っていた。
路肩に視線を向けると、二人の男女が腰を下ろして座っていた。
「あの二人だな…」
佳文は、二人に近づき、
自分の髪の毛を二本抜き、二人の髪に付けた。
「待ってて下さいね」と話しかけ、車に戻り総合病院へ戻った。
「忘れ物しちゃってませんか?」
叔母の病室のドアを開けながら声をかけた。
「忘れ物は、コレね?」
そう笑いながら、叔母は、小さな袋を手渡した。
「あぁ…コレです。コレ」
叔母から、小さな袋を受け取り、病室で待っていた少女の手に触れて
小さな声で「おいで」と呟き
「すいません、また、来ますね」と言い
佳文は、叔母の病室からゆっくりと歩き、少女が付いて来てるか
後ろを振り返り確認しながら病室を出た。
エレベーターに乗ろうと思ったが、5階から階段を歩き1階まで降り車に戻った。
少女がエレベーターに乗れるかどうか分からなかったからなのだ。
「ここに、乗って座れる?」
佳文は、車の後部座席のドアを開けて、少女を座席に誘導し
少女は、車の後部座席に乗り、後部座席に座った。
座席に座ったのを、確認して、後部座席のドアを閉めた時思った。
「車に乗れるのだから、エレベーターにも乗れるかも…
あぁ…もっと早く気づけよ…俺」
苦笑いしながら、運転席のドアを開き、車に乗りイグニッションキーを回し
車のエンジンを始動させ、シートベルトを身体に付けロックし
サイドブレーキを戻し駐車場から大通りへ、ゆっくりと車を走らせた。
大通りに出てからルームミラーで少女を確認し、
「もう少し待っててね」と声を掛けた。
大通りの交差点を曲がり、水田が広がる地区に向かう道路へ車を進め
事故現場近くの道路に車を止め、佳文は、運転席のドアを開き車から出た。
後部座席のドアを開き、少女を車から降りるよう誘導した。
少女は、車から道路の路肩に降りた。佳文は、後部座席のドアを閉めて、
「ゆっくり歩くから、後ろを付いてきて」少女に声をかけた。
佳文は、少女の前をゆっくり事故現場に向かい、両親が座る路肩へ歩いた。
「君の両親が、座ってるよ」と少女に伝えると
少女は、両親に向かって「すぅ~」と走った。
走り寄る娘に、両親が立ち上がり迎えた。
親子三人は、抱きしめ合い、再会を喜んでいるように、佳文には見えた。
佳文は、ゆっくりと親子に近づき、三人のとなりに立った。が、
「三人…同時に…だよな」そう思ったが、
「抱き合って、一つになっているんだから、このままでいいのか?」
導くモノを三人同時に行うのは、初めてと言うか、
あの女性に、どう導くのかも聞かされてなかったが、導いてみる事にした。
「どう…導く…」
佳文は、三人の姿を見て、両親の手に触れれば形になると思った。
「三人一緒に導くからね」
そう言い、佳文は、父親と母親の手を取り、手を上に上げた。
三人は、「ふわっ」と舞い上がり、少女は「こくっ」と頭を下げ親子は消えた。
佳文は、「ふぅ…」と深呼吸をし思った。
「今回は、来なかったな…」
佳文の導きが終わると、いつも聞こえる女性の声が聞こえた来なかった。
「明日にでも、この場所に献花に来よう」
佳文は、止めた車に戻った。
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