廃墟




佳文は、耕史が言った言葉を振り返り思い出していた。


「あぁ…佳文って、なんかそんなだったろ?」



「そう、あれは…小学生最後の夏休みだったな」

俺と耕史に恵一の三人で、家から離れた水路へ

フナ釣りに出かけた日だった。



「お~い、ヨッシー迎えに来たぞー」

耕史が、佳文の家に迎えに来た。



「ちょっと待って!!まだ釣り具の用意してないんだよ」



「なにしてんだよ!!早く用意しろよー」

と急かす耕史


佳文は、釣りのナイロンラインを巻いた糸巻きに

玉ウキと鉛の板オモリと釣り針を結んだだけの仕掛けを

小さな箱に放り込んだ。


「これでヨシ!!」

そう言い、自転車を引っ張りだして耕史の待つ道に出た。


「耕史、エサのミミズは、どうすんの?」

佳文は、耕史に聞いた。



「ミミズなぁー、シマミミズが捕れる場所があるから捕ってから行こうぜ」

耕史は、エサのシマミミズが捕れる場所を聞いた来たらしい



「それってどこ?」と佳文は、聞いた。



「ほらっ、除夜の鐘を突きに行った寺あるじゃん?その寺のゴミ捨て場だよ

何日か前にさ、クラスのヤツが捕ってきたミミズを見せてくれたんだよ」

佳文と耕史は、ミミズが捕れると言う寺のゴミ捨て場へ自転車で向かった。

その寺は、佳文の家から自転車で数分の場所にあり

すぐに、お寺に着いた。



「耕史、どこでミミズが、捕れるんだ?」

佳文が言うと耕史は、



「ここの奥に行くと、ゴミ捨て場があってさ~落ち葉が積もってんだよ」

と言いながら、お寺の敷地の外側の奥へ進んだ。



「ほら、ここだよここ、」

耕史は、落ち葉を退かし穴を掘ったような場所を指差した。



「耕史…ミミズってナニで掘るんだ?」と

佳文は、聞いた。



「あっ!!スコップ忘れた…」耕史が笑う



「どうすんだよ!!」



佳文と耕史は、辺りを見渡し玩具のスコップを見つけた。

「佳文~コレってミミズを掘る用に、誰かが置いてるんじゃね?」と

耕史が言う、



「ラッキー!!ミミズを掘ろうぜ~」と佳文

ゴミ捨て場の直ぐ横の落ち葉を退けると、シマミミズが数匹出て来た。

二人は、夢中になって、数十匹のミミズを捕り

金魚すくいでもらった、金魚を入れるビニール袋に捕ったミミズを入れた。



「めっちゃ、ミミズ捕れたね~」

佳文が耕史に言う



「うん、ここでシマミミズ捕って、みんなに売れるんじゃない?」

耕史は、真剣な顔で佳文に言った。



「うん、売れるね」と佳文は答えたが、1日も経たず

そんな事は、忘れるのが小学生



「うわっ!! めっちゃ痒い!!」

佳文と耕史は、同時に叫んだ。

ミミズ捕りに集中して、ヤブ蚊に刺されているのに気が付かなかった。

夏の木々が生える日陰に、ミミズ掘りに興奮して

息を弾ませる子供は、ヤブ蚊にとっては、ご馳走だったのだ。



「耕史の身体中、ボツボツで気持ち悪!!」

佳文が言うと耕史も



「ヨッシーの身体中も、ボツボツで気持ち悪い!!」

二人は、お互いを見て、大笑いもするが

ヤブ蚊に、刺されまくって痒さに耐えられなかったが

自転車に乗って、待ち合わせの場所へ急いだ。

2人は、自転車を漕ぎながら、


「ヨッシー!!ボツボツ!!」



「耕史!!ボツボツ!!」とお互いを見ながら叫び大笑いしながら

自転車を漕いだ。

待ち合わせ場所への途中、同じ小学校の生徒に出会い、


「ヨッシー!!身体中ボツボツ!!」と叫び



「耕史!!身体中ボツボツ!!」と叫んで笑っていたが

声を掛けられた生徒には、何の事かも分からなかっただろうが

2人は、同じ小学校の生徒と、すれ違う度に

同じ事を叫んで、大笑いしていた。

そんな事をして、自転車を走らせると

あっと言う間に、恵一との待ち合わせ場所に着いた。

当然、2人は、恵一にも


「ヨッシー!!身体中ボツボツ!!」と叫び


「耕史!!身体中ボツボツ!!」と叫んで大笑いしていたが、

恵一は、



「なにが…身体中ボツボツなん?」と真顔で聞いた恵一に耕史は、



「ヨッシーの身体見てみ!!身体中ボツボツ!!…」

「ん?」

佳文が、蚊に刺された場所は、なんとなく赤くなっているだけだった。

そして、耕史も自分の手足を確認すると

真っ黒に日に焼けた、手足が、なんとなく赤くなってるだけだった。

自転車で数十分走る間に、ヤブ蚊に刺され膨らんだ箇所は、収まり

日焼けで真っ黒な手足や顔は、少々の赤み、では赤さが分からなかった。



「あれ?もう痒くないや」

佳文が言うと、耕史も


「本当だ、もう痒くない」

2人は、顔を見合わせて、


「俺たち、最強!! ヤブ蚊の痒さに勝った!!」また、大笑いした。



2人の大笑いに恵一は、呆れながら、


「はいはい」

「それで、ミミズは?」

耕史は、ビニール袋を見せて


「大漁」と答えた。


3人は、田んぼの中の用水に架かる橋の上に立ち

のべ竿でもなく、ほとんど車も人も通らない橋の上から

手釣りの仕掛けを、用水に放り込んだ。

暫し時間が過ぎ、耕史は


「恵一…釣れるんじゃあないのかよ!!」とイライラしだした。



「昨日は、釣れたんだけどなーおかしいな…」

そんな恵一に耕史は、


「あ~ぁ…ミミズ、こんなに要らね~じゃん」



「だからさ…昨日は釣れたんだよ」

耕史と恵一の間に、不穏な空気が流れだした時

遠くから声が聞こえた。



「おーぃ!!」「ボツボツのヤツ!!」

「やっぱ、ココに来てたのか!!」

「俺の妹が、ヨッシーと耕ちゃんが、ボツボツって言いながら

笑いながら走ってたよ~って言ってたから気になって探してたんだよ」


真司が、自転車を立ち漕ぎしながら走ってきた。



佳文と耕史は、顔を見合わせて


「知らんし」と声を合わせた。



それを見ていた恵一は、「酷ぇ~」と笑った。



状況が分からない真司は、「なんだよ~」と言うばかりだった。



「いい所へ来たな真司、フナが釣れないんだよなぁー」と佳文



橋の上から用水路を見た、真司が


「用水の水門が、開いて魚が居なくなったんだよ

恵一、昨日と用水の深さちがうだろ?」



真司の言葉に恵一は


「あっ…本当だ…ヨッシー、耕史…ごめん」



「なんだよ!!ヤブ蚊に刺され損かぁー」

「まぁ、ヨッシーの顔が、ブツブツで面白かったから許す」



「耕史の顔も、面白かったから許す」

佳文と耕史は、また、大笑いをしたが、

真司には、大笑いの意味が分からないままだった。

その様子が、悔しかった真司は


「なぁ、肝試ししない?」と言い出した。



その提案に恵一は、「昼間に、肝試しって無理じゃん!!」



すると真司は、田んぼの中を指差し

「あそこに、木がいっぱい森みたいに生えてるじゃん?

あの中に、家が建ってるの知ってる?誰も住んでないんだけど

夜になると、たまに電気が点くんだって聞いたんだよ

誰も住んでない、家なんだよ!!

夜になんて来れないからさ…今行ってみない?」

真司の提案に、3人は、即答で


「行こう!!」



「面白そうじゃん!!」耕史が言うと恵一は、


「探検探検!!」と叫んだ。


佳文は、「釣れないしな~」

乗り気ではないが、歩調を合わせた。



「じゃあ決まり!!」と真司が声を上げる

4人は、自転車に乗り、田んぼの中に建つ廃墟のへ走った。

木々が鬱蒼と茂る敷地の入口に、自転車を無造作に止めて

木々の奥に建つ家を見た。



「家の玄関開いてるじゃん…人が居るんじゃあ?」

耕史は、小声で話した。



「なに、ビビッてんだよ~行こうぜ」と真司が

ズカズカと敷地の奥へ歩く、

3人は、その後を歩いた。


「真司…怖くないのかな…」と恵一が言うと耕史の負けん気に火が点く



「もっと早く歩けよ!!」と耕史は、真司を追い抜き

廃墟の玄関先に着いて、3人の方を振り返り、


「おいおい、ビビッてんのか3人?」とニヤリと笑った。


3人は、「ビビッてないし!!」と返した。が

その言葉の後、佳文は、なんとなく廃墟の2階の窓に視線が向いた。


思わず「うわっ!!」と大きな叫び声を出した。

2階の窓に、人影が見えたのだった。


佳文の声に

3人は、「うわっ!!」と叫び

同時に「ヨッシー…脅かすなよ!!」と声が出た。



「2階の窓から、誰か見てたよ…」と佳文が言うと耕史は、



「俺たちの他に、誰か来てるのかな~」と言い出した耕史に恵一は


「やっぱり…やめようよ…」



「ビビッてる2人は、ほっといて行こうぜ~耕史」と強気の真司に

内心怖がってる耕史は


「おぅ…探検だ!!」と言い廃墟の中へ入り、3人は後に続いた。


廃墟の中は、昼間なのに薄暗く、床は所々抜け落ち

湿気が4人に纏わりついた。



「2階に誰か居るなら、階段を探そうぜ」

真司が、先頭に立ち廃墟の中を歩いた。

1階は、大きな部屋がいくつもあり、奥へ進むと朽ち果てかけた階段を見つけた。


「おっ!!階段見つけた!!」と真司が階段に向かい部屋の中を走り

階段を見上げ


「こんな階段を誰かが上ったのか?」と真司が言った。


3人は、ゆっくり階段まで歩き着いた。

そして、4人は、階段から2階を見上げて


「こんな階段…上がれないよな…」恵一が言うと、


「うん…この階段は、誰も上がれないよな…」と耕史が続いた。


「階段に、足跡も付いてないし…」佳文が言うと真司は、


「ヨッシー、2階に誰か居たんだろ!!」と声を荒げた。



「うん…見間違えかもしてないけど…」と佳文が言い終える間際


「ギシッギシッギシッ」っと誰かが2階を歩く音が聞こえた。



「2階…誰か歩いてない?」と佳文が言うが、



「ヨッシー…脅かすなよ…なにも聞こえないよ!!」

他の3人には、聞こえてなかった。


2階を歩く音が、階段の直ぐ横まで来た時

「ぬぅ~」と何かの影が1階を覗いた様に見え、佳文は思わず、


「うわっ!!」と声が出た。

その声に驚いた3人は、「うわっ!!」と声をあげてから


「おい!!ヨッシー!!いい加減にしろよ!!」と真司が怒った。



「だって…ギシッギシッって音がして、階段の上から誰か覗いたんだよ…

なんか…ヤバいから帰ろう」と佳文は提案した。


3人には、脅かしてる風にしか捉えてなかったが、

怖くなった4人は、廃墟を出る事にし、足早に玄関へと向かった。

幾つかの部屋を、歩き廃墟の玄関に近づいた時

2階から、「ドタドタドタッ」と人が走る音が4人を追いかけてきた。

その音は、佳文の他の4人にも聞こえ、真っ青な顔で廃墟の玄関に着いた。

「うわぁぁぁ!!」と叫びながら玄関を出ようとした時、

玄関の天井が床に落ちてきた。

大急ぎで廃墟の敷地から4人は、自転車を置いた場所まで走った。


4人は、用水に架かる橋まで戻った。

無我夢中で自転車を漕ぎ廃墟から逃げてきた耕史が後ろを振り返り


「はぁはぁ…怖かった!!」


怖い体験が楽しい事に、すり替えってしまった。


「ヨッシー!!すげぇー霊感すげぇー」

耕史の言葉に、恵一と真司も加わり


「ヨッシー!!霊感すげぇー」となったのだった。



大人になった耕史には、その時の記憶が残り、


「あぁ…佳文って、なんかそんなだったろ?」

と言ったのだろう。







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