徘徊
佳文は、友人に呼び出された
「ピンポン~」
返事がない…
「ピンポンピンポン!!」
返事がない…
「あのヤロー…人を呼んでおいて忘れてやがるな!!」
「数分待って帰って来なかったら、俺も忘れる」
そう言い、マンションのエントランスの植え込みに腰を掛けた。
数分すると、なにか気配がした。
その気配は佳文の、となりに座った。
「あぁ…数年前…ここで飛び降りがあったんだっけ…」
となりに座ったのは、30代半ばの男だった。
その男は、座ると直ぐに立ち上がり
ふらふらと辺りを歩き回り、また、戻って来て座るを繰り返していた。
「この男…居場所を探してるのか…家に連れて帰って居座られても困るから
今日は、何もしないで…アイツも帰って来ないし帰ろう」
ゆっくりと植え込みから立ち上がり車へ向かった。
車を発進しながら目をやると、
30代半ばの男は、ふらふらと歩き座るを繰り返していた。
家に着き車を止めて、玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。
玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き
内側のドアとドア枠に渡し、抜いた髪の毛を貼り付けた。
するとスマホが鳴った。電話に出ると幼馴染の耕史からだった。
「佳文か…今日、なんで来なかったんだ?」
と耕史は、少し怒る口調だった。
「いや、マンションに行って、何度も部屋番号を入力して
呼び出したぞ?1103だったよな?」
佳文は答えた。
「俺の部屋番号は、1203だよ…ってか
1103は、数年前飛び降りた人の部屋…間違えんなよ…まったく」
スピーカーから溜息が聞こえてきた。
「それに…」
「それに?なんだよ」
佳文は、耕史に聞いた。
「俺の部屋の番号を間違えてなのか、イタズラなのか、分からないが
真夜中に、インターホンを押すヤツが居るんだよ」
「それにな…押したヤツの画像が映ってないんだよな…」
少し怒りが入った、言葉のニュアンスが、疲れた声に変わっていた。
「インターホンカメラの故障じゃあないのか?」
佳文は、聞き返した。
「俺もさ何度も、映らないから故障じゃないか?と調べてもらったら
昼間や夜は、映るんだよ…
映らないのは…真夜中のインターホンなんだよな…俺…気味が悪くてさ…」
耕史は、相当ヤラれてる様子だった。
「1003の人は、どうなんだ?」
そう聞くと
「あぁ…たまにだが…あるそうだ」
1003の人も、同じようだった。
「相談って、この事か?」
そうなんだろうけど、聞いてみた。
「あぁ…佳文って、なんかそんなだったろ?」
その言葉に、ちょっと笑えたけど、イジってみた。
「そんなって、なんだよ?俺なんかあったっけ?」
そう言うと、少し黙ってから
「いや…悪いと思ってるんだよ…今は…すまん…」
今も気にしてるんだな~と思った。
「それで、どうしたいんだ?」
耕史に聞くと
「すまないが…見て欲しいんだ…それで」
言葉を選んでいた。
「なんとかならないか?と言いたいんだな?」
俺って、優しいなと思った。
「あぁ…頼むよ」
耕史との話は、そこで終わった。
数日後の真夜中、耕史が住むマンションへ向かった。
耕史は、呼び出さずエントランスの植え込みに座った。
すると、30代半ばの男が、となりに座り、立ち上がり
ふらふらっと歩き出し、前に見た時とは違う行動をした。
そう、エントランスからマンションの出入り口に向かって
歩きだしたのだ。
ふらふらとマンションの出入り口へ向かうと
オートロック板の前に立ち部屋番号を押している様だった。
少し経つと、ふらふらと歩き回り、佳文のとなりに座った。
「あぁ…やっぱり、この男が原因か…原因も解ったし
不審者扱いされる前に帰ろう」
佳文は、家に着き車を止めて、玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。
玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き
内側のドアとドア枠に渡し、抜いた髪の毛を貼り付け
玄関を上がり居間の椅子に座った。
「さぁて…自殺者か…戻る場所を探してるだけならな…って
亡くなった人の部屋へ入るのは無理だし…
面倒な事にならなきゃあいいけど…早急に終わらせるか…」
翌日の夜、マンションのエントランスの植え込みに座り、男が現れるのを待っていると
耕史が、帰ってきた。
「佳文…なにしてるんだ?」
耕史は、不思議そうな顔で声をかけて来た。
「あぁ、ちょっと様子を見に来たんだよ、お前が、泣きそうな感じだったからさ」
そう言うと
「泣いてねぇーし…でも、ありがとうな」
苦笑いをして、耕史は、佳文の横に座った。
「あれからも、インターホンが鳴るのか?」
知ってて聞くと
「あぁ…昨日の夜中も数回鳴ったよ…参るよな…お茶でも出すから上がってくか?」
耕史は、そう言ってくれたが
「ありがとう、もう帰るから、またの機会に、お邪魔するよ」
事を早急に済ませたいから断った。
「そうか、またな」
と言いマンションのエントランス出入り口へ向かい
扉が開くと、一度振り返ると奥へ進み見えなくなった。
耕史がマンションへ入った頃
30代半ばの男が現れ、佳文のとなりに座った。
暫くすると、男は立ち上がりエントランスへ向かう
佳文は、一呼吸おいて、立ち上がり男の後ろに着き
自分の髪の毛を1本抜いて、男の髪に着けた。
「そっちじゃない」
佳文は男の手を取り、自分の車へ誘導した。
「君に聞こえるか聞こえないか…わからないが…
今から、君の居場所へ案内するからね」
男は、俯いたまま車の中からマンションを見ていた。
佳文は、なにも言葉を発せず車を走らせ
一級河川の河川敷に車を止めた。
「おとなしく、乗っててくれて、ありがとうな」
男に声をかけ後部座席のドアを開けて降車を促し
「俺の後に付いて来てくれ」
と言うと、頷いたように見えた。
大小の石が転がる河原を歩き、ニ人が並んで腰かけるには丁度良い
大きさの石の前で足を止めた。
「この石に座ろう」
佳文は、ゆっくりと言葉を発して、石の上に座った。
男は、佳文のとなりに座る。
「これから俺がする事のマネが、できそうならマネてくれ」
そう男に声をかけて、佳文は、河原の石を積み上げ始めた。
男は、動かなかった。
佳文は河原の石を、五重に積み上げて、
「この積み上げた一番上の石に触れれば、君の行きたい場所へ
触れずに居れば積んだ石が崩れるまで、座った石から
君は離れられない、積んだ石が自然に崩れるか、
誰かがイタズラで崩すかで、君の向かう場所が変わるだろう」
そう言い、河原から離れ車に戻った。
暫く河原を眺めていると、「パッ」っと河原が淡く光った。
「あぁ…天日干ししなきゃあダメだな」
男が座っていた後部座席は、湿っていた。
佳文は、家に着き車を止めて、玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。
玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き
内側のドアとドア枠に渡し抜いた髪の毛を貼り付け
玄関を上がり、ソファーに座り、
「あぁ…佳文って、なんかそんなだったろ?」
耕史が言った言葉を思い出した。
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