第68話 プラントープの落ちる日

 第六部隊はニューナゴヤ南西区郊外でJSSの部隊と交戦状態であった。部隊の半数が負傷すると本陣から信号弾が発射された。三色を見る限り撤退の信号であった。JSSサイドも同じくして撤退を始めた。李凪もそれに合わせて駐屯地へ戻っていった。

 負傷兵は六名。死亡した兵士は八名にのぼった。残った戦闘員はたったの四名である。それほど厳しい戦いではなかった。有り合わせて戦ったからであろうか。死亡した戦闘員の大半はカルテードであった。常々言われていた戦闘員のレベル低下問題が顕著に出た結果であろうか。

 部隊の再編は時間を要するが、元々追加は決まっていることであった。上野一課と身延二課の戦闘員を追加する予定であった。

 李凪は駐屯地に戻り、有線を使用したテレビ電話にて三次と連絡を取っていた。

「楽生さん達は明日着く予定です」

「わかった」

 うなじ付近を掻きながら、李凪は三次に返答していた。

「第六はすぐに再編して攻撃に入れると考えられます。偵察気球もあちらに一つ撃ち落された可能性がありますので」

「こっちも兵士からユニオンに関することが何かないか探したが持っていない。使い捨ての兵士だろう。ニューナゴヤ侵攻の為の犠牲か。中央を取っておけば日本は東西に分かれる。首都が四百年以上東に置いているから西が機能停止に陥るという策だろうな」

 ニューナゴヤという都市も地理的に大阪と東京の間に位置する。東海を過去に制圧されてから反転攻勢に出て現在に至る。一気に人的被害を出せる場所となるとこの地になるのであろう。

「間に合うか間に合わないか」

「厳しいですよ。JBSにも回してもらえるよう上も頼んでいますが、JSSにはJSSのプライドがありますから」

 結果的に援護のない状況で戦わざる得ない状態である。今の所は何とか防いでいるも、それは過去の話である。今後はそうなると言える点は一つもない。

「明日は警戒態勢で待っているか」

「それでお願いします」

 その言葉で連絡を切った。

 翌日の午後、予定より二時間遅れて楽生らは南西区の駐屯地に到着した。午前中は第六部隊に動きは見られない。だが南区では大規模な戦闘が行われていると情報が入っていた。これを狙えば人数が手薄な南西区も攻撃が行われる可能性があった。

「そっちはどう」

 楽生が駐屯地で待機している李凪に話しかけた。

「まだ何もねぇよ」

 長机に座っていた李凪の向かいに楽生が座った。その横に続いて入ってきた新島と見知らぬ顔の人物が座った。

「攻撃を仕掛けるならば今。でも兆候は見られない」

「偵察気球の情報が間違っているとか」

「それはなさそう」

「普通なら補給艦を叩くか、弱っている今を攻撃する。それが基本だけどね」

「相手も弱っているとかですか」

 新島の発言する可能性も一理あった。けれど、第六部隊の戦力と南西区にいるJSSの戦力を考えれば一目瞭然であった。

「なんかきな臭く感じる」

 李凪の眉間にしわが寄ったような言い草は、楽生にすぐ伝わった。

「敵に動くチャンスがあるとすれば」

 今手元にあるものだけで判断することは容易でない。

「ところでそれは誰?」

 李凪は新島の後ろにいた銀髪のワンサイドアップの人物に手のひらを向けて指した。今更何を言っているのかと言う顔をするも、楽生はすぐにその意味が分かった。

「そういえば知らなかったもんね。ナギがいない間に入ったルー」

「摂津瑠華です。ルーって呼んでください」

 摂津が李凪に自己紹介してから一礼する。楽生は話を戻してある仮説を立てた。

「南西区は落とせないんじゃない。落とさないと考えれば」

「どうゆうこと」

「安全杯で占領を行うことを考えているとすれば」

 南西区には駐屯地以外に軍事施設がないことは確かである。ユニオンが落とさない理由があるとすれば何か。

「領事館じゃないですか」

 新島が地図を持ってきて指差した。ニューナゴヤが完成したことによって名古屋から移転した国も多かった。国際問題をあえて避けた形であろうか。

「でもある国はユナイトと敵対している国だらけだ」

「ウェーブジャマーじゃないですか」

「ウェーブジャマー」

 ピンときた二人はお互いに顔を合わせた。

 夕方になり、李凪と楽生は駐屯地の外に出ていた。それぞれ私服で南西区の繁華街を歩いていた。出来上がった街並みであるが、それでも町には陰となる部分が出来ていく。それは南西区でも同じようなことが言えた。

 二人は繁華街の中にある雑居ビルの地下へ入っていった。表向きはプールとなっているが、その場所は鉄拳会の隠れ家であった。

 店に入ればビリヤードテーブルが置かれている。そこで楽しむ客の中に鉄拳会の人間が見張るかのように点々と配置されている。

「今は満員です」

 そういって二人の後ろに立つ二名の従業員。二人の正体をわかっているかの様に後ろに立っていた。背中に突きつけられているのは銃口である。

「黙って言う通りに」

 二人は拳銃を突きつけられたまま言う通りに歩かされた。店の裏から出ると二人は拳銃を突きつけた二人の方へ向いた。

「何の目的だ」

「何の目的も何もわかっているだろう」

 軽くあしらうように話す李凪と楽生に対し、慎重になる組員。タイミングを図って楽生は目の前の相手の腕を掴んだ。腕を掴まれた組員は引き金を引くも銃口はもう一人の組員の胸元に向いていた。

「素人だな」

「そりゃそうよ」

 李凪は何処かの監督のように答えた。ある程度相手の実力は見切っていた。

 組員は掴まれた腕の自由を取り戻しつつ、もう一度引き金を引こうと人差し指は動いていた。引き金を引いた時、銃口は路地の奥を向いていた。

 銃声が聞こえてしばらく経った頃、通りから高い声の悲鳴が聞こえた。流れ弾が人にあたったか。通りの方には、敷地面積の広い公園がある。夜になると客待ちをしている娼婦が何人かいた。

「一般市民にあたったぞ」

「撃ったのはお前だ。私達には免責特権がある」

「腐っているな」

「お互い様」

 そう言って楽生は組員をうつ伏せにして、馬乗りになりながら相手の身体を地面に押し付け、持っている拳銃を奪って李凪に渡した。

「さあ吐け」

「そこまでにしろ」

 渋くて金属を叩くような鈍い声が反対側から聞こえた。李凪は声の方向を向いた。声の人物はゆっくりと近づいて来る。

「レイも一緒か」

「シロッコ」

「その呼び名は嫌いじゃない。でも俺にも名前がある。名はその人物ものを意味するものだ」

 あながち間違いではない。しかし敵対している以上、相手を本来とは違う名称で呼ぶことはよくあることであった。

 シロッコには現実の世の中に対して、どう思っているかはわからない。だが、時代の波に乗ることなく自分自身と言うものを確立させている。そこには反定立のようなものに触れても構わないという姿勢があった。

 雲が多くなり、日は完全に落ちていた。公園側の路地が騒がしくなり、こちらに目が向き始めていた。やや斜めになった路地裏から李凪や楽生の位置は見えにくい。

「目立つのはお互いいけないだろう。少し移動するか」

「二対一の劣勢でも指示が出せるか」

「コピー拳銃で勝てるとでも」

 李凪が持っていたジュリアを見て口にした。現在一番所持することが容易なコピー拳銃の一つであった。暴発も多く、狙った所に撃てないと揶揄される程に作りは悪い。

「鉄拳会の組員は放せ」

 楽生は立ち上がって組員から降りた。李凪のいる隣まで移動すると組員は立ち上がり、服をはたいて汚れを落としながら二人の方を睨んでいた。

 シロッコが組員を連れて路地の奥へと進んでいった。二人もそれを見て路地の奥へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る