第61話 ジャマーで妨害された戦場の中で
同日午前九時にて、楽生は同じ上野一課の戦闘員である赤羽、飛鳥山と共にさいたまで戦闘を行っていた。相手はクロスナンバーらの残党と近くでくすぶっていた反社会的勢力が合流した武装組織を壊滅すべく、作戦を行っていた。
相手はスペーススプリットによって残骸が落下した場所を根城にして、JSSやJBSと戦闘を繰り返していた。今回で三十三度目となる作戦は上野支部に回ってきた。
瓦礫を背にして、楽生は二百ヤード先にいる敵から身を潜めていた。対物ライフルを抱えながら、近くにいた赤羽や飛鳥山の位置を把握していた。
赤羽は十時方向の敵に意識を持ちすぎて、注意力が欠落している。飛鳥山も少し焦りを見せていた。さっきから頭を出してしまう為、ライフルの餌食になりかけている。
「二人共下がれ」
「いえ、大丈夫です」
「このまま前進を」
楽生は前進しても隠れる場は少ない上、相手は崩れた建物から狙撃を行っていた。こちらからは建物が崩れているせいで位置を把握しにくいが、相手からは完璧にこちらが見えていた。
まるでトーチカのような所に敵はいる。上から空爆や戦車等を使えば拠点ごと破壊できるが、それを行わないわけがあった。この空間はウェーブジャマーがあった。無人機やミサイル等の妨害を行える他、小さい据え置き型のレールガンが八方向に並んでいる。イージス装甲であっても戦車はこれで破壊されてしまう。
「下にあるレールガンの餌食になる。こことあっちの間はわかりにくいがなだらかな谷底になっている。動く物はすぐに捉えられる」
「はい」
動こうとした赤羽の頭を狙うようにトーチカからライフル弾が撃たれた。弾丸は頭から三センチ上を通過する。
「一度退避も検討だな」
「下がるのですか」
飛鳥山の不満そうな言い方は鼻につく。だが、二人が作戦において足を引っ張っている現状は間違っていない。
「今日はブーツを持ってきていない。レールガンやライフルを回避することはブーツと補助ブースターが必要だから」
当初の作戦ではレールガンの操縦士を対物ライフルで遠くから狙撃する予定であった。だが、三十二度目の作戦からトーチカは改修されていた。そのずれや楽生以外の戦闘員の実力が加味されていない点が作戦失敗の理由であった。
楽生達は一度信号弾を打ってから撤退を行った。トーチカから数十キロ離れた野営地に歩いて戻った。途中で攻撃されないように警戒しつつも敵の動きは殆どなかった。
野営地に戻ると、昨日まではいなかった部隊がそこにテントを張っていた。楽生は横目でそれを確認しつつ、自分たちのテントへ戻っていった。
完全に日が沈んだ頃、楽生は一人で食堂へ向かった。あらかじめ決まった食事をトレーごと受け取り、混みあっている中で空いている席に座った。その席は部隊と部隊に挟まれた席であった。
「なんでここにいる」
ぶしつけな言い方をする隣の人物。聞き覚えのある嫌みたっぷりの声は、話しながらスプーンを口へ持っていった。
「一昨日から作戦だ」
隣に座っている辰石が楽生の方を向いた。何か意味深な顔をしてこちらを見ていた。いつもの張り合う時とは大違いであった。
「てっきり、奴と仙台だと」
「あっちは新島がいるの」
「そう。もう二人だけじゃないか」
「そっちは何処にいったの?」
「ユナイトの作戦だ。この前、成田から大量の武器が盗まれた。それがこっちで都市制圧に使われるとかで他と一緒に駐屯とか」
「ご苦労さん」
李凪にはきつく当たるが楽生にはそれほどでもない。辰石と李凪は永遠に合わないと悠が口にする程険悪であった。
「仙台に兵器が集まっている理由知っているか?」
「いや」
辰石が一度静まった中で、再び口を開いた。その口調はいつもの喧嘩腰とは違い、だいぶ重く張りつめていた。
「仙台に巨大光学兵器を作るためだってひかりが言っていた」
「光学兵器?」
「ああ、表向きは対空防衛だけど本当は世界各国を攻撃できるための兵器。緯度や経度の都合上あそこにあるんだ」
「位置的に考えれば狙える都市は平壌と北京か。それならば、東アジアの国々は文句を言ってくる。けれど標準を変えればD.C.も狙える」
「この兵器が稼働すれば理論上、どの国も狙えるから焦る国は多いはずだ。事実CIAもこの件で嗅ぎまわっている」
「日本はここ何百年とアメリカの顔色を伺って立ち回っているから、D.C.に照準を向けて攻撃をすることは現実的ではないだろう」
「それは右派の連中には効かない理論だ。JSSでもJBSでも動き始めている。日本を再び偉大にするとか言ってプロパガンダを行い、自由と正義を持って世界の頂点に立とうとするだろう。あの女はその片棒を担がされているのに何もしない」
「わかっている筈よ。李凪の意思は流されないから」
組織内の分裂は元からあった。だが、李凪はそれを受け流すようにしていた。大きくは関与しない姿勢であった。だが、関与している時は何処か裏がある。楽生も今までの李凪の姿を見ていればわかっている。
「ならいい」
皿の上にあった食事を平らげた辰石は立ち上がった。いつの間にか辰石の右隣にいた戦闘員は皆いなくなっていた。
「早めに戻すように伝えた方がいいぞ」
そういって辰石は楽生のいる場を後にしていった。
「わかっている」と楽生も反論したかったが、それは言う気にならなかった。
楽生は夕食を済ませるとテントに戻り、明日の予定を端末で確認していた。エミリアで再編されたスケジュールだが、この通りにいかないと確信していた。
オペレーターは梅野がメインで町屋が補助を務めていた。正直に言えば、この小隊ではまだギクシャクした部分が多かった。意思疎通やお互いの理解は足りていない。作戦立案はエミリアの演算に頼りすぎている。
このままでは進まないが、それを変えるための見通しは立っていなかった。
「押し付けられた気がするな」
いない人間を恨むように口ずさみ、端末を床に置いた。テント内に立てかけてある数種類のライフルが目に入る。それを見ればまた明日の戦闘を考えてしまう。
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