第10話 初めて仕事を依頼しました
その性質上、異端スキルを発動されると変則的な戦いとなる。警備中に様々な異端者と相対してきたが、必要なのは異端スキルの能力を見極めることだ。
セネカは斬撃を絶え間なく繰り出してきた。俺はすんでのところで避けるが、スピードが先ほどまでとはまるで違う。腕が三本、四本あるかのように、次々と斬撃数が増えていく。
(どれだけスピードを上げるつもりだよ)
あまり使いたくなかったが抜いた長剣で応戦する。セネカはナイフをふるいながら目を輝かせた。
「立派な剣! 本当にお兄さんは何者なの!?」
「名乗るほどでもないさ」
会話をしている間もセネカの速度は上がり続け、全身からは強い殺気が放たれている。もし一度でも判断を誤れば、こちらが大怪我をすることになる。全く、純真な顔をしたガキのくせに殺しに特化した異端スキルが発現しているってことか。
こうなるとこの狭い路地で長剣は不利だ。俺はセネカの攻め手を受けながら、大通りの方へと後ずさる。
賑わいのある大通りに突如現れた物騒な刃物を振り回す二人に街区の住民は驚きと悲鳴が混ざり合ったような声を漏らす。
異端者とはいえ年端も行かない子供を傷つけるのは気が進まないが、これ以上騒ぎは起こしたくない。剣を握る手が強くなる。
俺は大きく剣を振りかぶった。セネカのナイフがそれを止めようと動いたその瞬間、剣を背中の鞘に戻す。セネカの動きに一瞬戸惑いが生まれたのを俺は見逃さなかった。
セネカの腕を掴み、すぐさま動きを封じる。聖騎士時代に何度も繰り返してきた基本の捕縛法だ。経験を重ねた異端者だとここでさらに異質な能力を発動することもありうるが、この子供はそこまで自身のスキルを使いこなせていないのは明らか。俺は折れない程度に関節を締め付け、ナイフを取り上げてからセネカを地面に投げつけた。
地面に倒れると徐々にセネカがまとっていた殺気が消えていき、俺はほっと一安心した。
「このナイフ、錆びてるし、刃がボロボロだぞ。もう少し、商売道具は大切にしろよ」
そう言ってナイフを地面に置き、立ち去ろうとしたらセネカは痛そうに腕をさすりながら立ち上がった。
「僕を逃して大丈夫なの?」
「どういう意味だ?」
「戦ってみてわかった。お兄さん、聖騎士だろ? 僕を捕まえなくていいの?」
どうやら俺の動きでセネカに正体を勘づかれてしまったようだ。
「残念ながら元、聖騎士だ。良かったな命拾いして。数日前だったらお前は異端審問行き。ナダエル副団長あたりに問い詰められた上に、死罪間違いなしだったところだぞ」
再び猫探しに取りかかろうとしたら「待ってよ!」とまた呼び止められた。
「なんで元聖騎士があのエルフたちとなんかといるんだよ!」
「訳あって行動を共をするようになってな」
「もしかしてあいつらがギルド始めたって話は本当だったの?」
セネカは以前にカノとサニが闇ギルドを始めたという噂を聞いていたらしい。
「どうせ大した話じゃないと思ってたけどお兄さんがいるなら別だよ! 僕もギルドに入ったら何かのクエストに参加できるの? 僕、稼ぎたいんだ!」
「残念ながらまだうちはギルドの体をなしていないから、今はなんの仕事もない……」そう言いかけたところで、俺はふと言葉を止めた。
「仕事が欲しいのなら一つクエストを依頼してやってもいいぞ」
「本当に!?」
「ピットが住人に危害を加えているのを見かけたら、あいつのケツを優しく蹴り上げておいてくれ。報酬はそうだな、銀貨2枚だそう」
「お安い御用だよ!」
セネカはそういうとにこやかにその場を立ち去っていった。一旦スキルを発動すると殺意をバリバリにまとう異端者だが素直な性格のようだ。身体能力は高いし、ファミリーに加えたらゆくゆく依頼が増えた時に働き者になるかもしれない。
さぁ猫探しを再開しようと思ったら、また面倒な光景を目にする。
(これは解放した王の威光という能力のせいなのか?)
通りで俺のことをじっと見つめるのは修道服姿の物静かそうな少女。頭上には異端者を示すモヤがかった古代文字が浮かんでいる。そして少女の腕の中にはスヤスヤと眠る猫。特徴からいって探していた猫に間違いない。
面倒なことが待ち受けていることは分かりきっていたが、思い切って話しかけてみた。
「君もピットから何か言われて俺を追ってるのか?」
少女は首を振った。「明日、聖女セシル様が王都に帰ってくる。私、王の庇護を受けたい」
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