遺体を盗んだ魔法使い−2

 大狼おおがみ白狼はくろうに他の応援について尋ねると、まだ見ていないと言う。

 大狼は白狼と狐塚に警戒をするように伝え、携帯を取り出し電話帳から土御門つちみかどへと連絡をし始めた。

 大狼が電話を耳に当ててすぐに土御門が電話に出た。


「土御門さん、現場に到着しました。他の応援はまだですか?」

『他はまだ到着するのに時間がかかるようだ』

「土御門さん、術師が回復して逃げられる前に確保したいです」

『……。ふう。分かった。突入を許可する犯人の生死は問わん」

「はっ」


 大狼が白狼と狐塚に土御門からの連絡を伝えると、更に装備を点検するようにと言う。

 大狼は剣を鞘から抜くと抜身のまま手に持った。狐塚きつねづかは髪飾りを確認した後に、神楽鈴かぐらすずを鞄から取り出すと手に持つ。白狼は上着を脱ぐと服を車にかける。

 白狼を先頭に玄関に近づく。


「大狼先輩、全力で良いですかね?」

「構わん」


 大狼の言葉に白狼は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

 白狼が大きく息を吸い込むと、吠えながら四つん這いになった。四つん這いになった白狼の姿が狼男に変わっていく。

 痩せ型だった白狼の姿が、筋肉が増えていき服を破って二回りは体が大きくなった。更には全身から真っ白の毛が生えてくる。

 巨大な狼となった白狼は、四つん這いだった姿勢から立ち上がる。

 白狼が動きを確認するように関節を動かす。動くと服が破れていき、腕や足の一部は破れた布がついているだけで、白狼が破れた部分を剥ぎ取ると、服の大半はなくなってしまった。


「服がダメになってしまったっすね」

「帰ってから申請しておけ」

「了解っす」


 白狼は玄関の前に立つと、腕を回した。そこから腰を落として腕を引いて目をつぶる。

 白狼の妖魔としての力が大きく動き、術を完成させると目を開けた。凶悪な笑顔を浮かべた白狼は玄関に向けて拳を振るう。

 玄関の扉の前で見えない壁があるように拳は止まるが、白狼が吠えると拳に魔法陣が浮かび上がり、見えない壁が砕け散る。白狼の拳はそのまま進み玄関のドアを吹き飛ばして、家の廊下を超え、更には部屋の壁を壊して止まった。

 白狼の拳が扉の前で止まったのは魔法での結界が張られており、その結界を白狼は力技で壊してしまった。

 白狼は荒い息をしながらも嬉しそうに凶悪な笑顔を浮かべている。


「流石白狼だ。マスターキーとして優秀だな」

「普段は役立たずですからこの位は役に立ちますよ」

「適材適所で、役に立っていない訳ではないぞ」


 白狼の力で開かない扉はないため、マスターキーと呼ばれる事もある斧にちなんで、白狼の力は陰陽課でマスターキーと呼ばれる事がある。

 白狼と大狼を先頭に家の中に入っていく。二人の後ろを狐塚が神楽鈴を鳴らしながら着いていく。

 家の中は白狼が壊した玄関の扉が物を破壊したためか、かなり荒れている。色々と壊れてしまったが、電気は通じているのか廊下は明るい。

 明るい廊下にある扉を白狼が順番に蹴り破っていく。白狼が三部屋目の扉を蹴破ると、そこには人が倒れていた。


「犯人ですかね?」

「可能性があるな」


 気絶している人の側に大狼と白狼がゆっくりと近づいていく。人の側まで大狼と白狼が近づくと、二人はお互いに確認をするように頷いて、白狼が人を持ち上げた。

 白狼が持ち上げた人は男で痩せ細って頬がこけてやつれて見える。

 白狼は男の匂いを嗅ぐと、嫌そうな表情をする。


「こいつ酷い魔力の匂いっす」

「欠片と同じ匂いか?」

「魔法を使っていた魔法使いの片方はこいつですね」


 大狼は手錠を取り出すと男に掛け始めた。それから大狼と狐塚は男の魔法に使えそうな装備を外していく。

 白狼が犯人を確保したまま、大狼と狐塚が部屋の中で手掛かりになりそうな証拠を確認していく。

 狐塚が部屋の中から魔導書を見つけ出す。魔導書を持ち主に許可を取らずに勝手に開くとトラップが発動するため、狐塚は魔導書をそのまま手に持ったままだ。

 三人は犯人を確保したまま別の部屋を確認し始める。魔法使いは手錠をかけた程度では逃げ出してしまうため、白狼が捕まえたままだ。


「ところで大狼先輩、この魔法使いなんで伸びてるんですか?」

「手伝ってもらった魔法使いの魔法をまともに食らったんだろ。生きているだけマシだな」

「おーこわっ。腕が良さそうな魔法使いを倒すなんて腕が良い魔法使いですね」


 白狼の言葉に大狼は肩をすくめるだけで、今はサマンサの事を教える気はないようだ。

 白狼が順番に家の扉を蹴飛ばしていくが、部屋の中には雑多に物が置かれているだけでもう一人の魔法使いは見当たらない。

 家は三階建てのようで、全ての部屋の扉を白狼が壊して開けたが、最初に捕まえた魔法使い以外には、他の魔法使いは見当たらなかった。

 大狼は最後の部屋を確認すると部屋の中を見回す。


「いない?」

「おかしいっすね」

「そもそも遺体はどこだ?」

「確かに?」


 屋根裏部屋がないかを確認したり、部屋と部屋の間に部屋が隠されていないかを三人は確認していく。だが二階以降の部屋は物置として使われていたようで、何も見つからない。

 三人は再び一階に降りてくると、部屋を順番に確認していく。

 一部屋は魔法使いが居た部屋で魔法の道具が部屋の中に並べられている。もう一部屋は白狼が壊した玄関の扉が突き刺さった部屋で、寝室にしていたようでベッドが二つ置かれている。

 ベットサイドの写真立てには仲の良さそうな男と女の写真が置かれている。

 大狼は写真を手に取って確認する。


「死者を蘇生しようと考えたのなら、この女性を蘇生しようとしたのか」

「先輩、写真回収しておきましょう」

「ああ」


 狐塚の助言に従って、大狼は写真立てから写真だけを抜き取ると、写真を懐に仕舞い込む。

 大狼がベッドを移動させて床に細工がないか確認していくが、そのような細工はなさそうだ。

 魔法使いが居た部屋の床や本棚を調べても寝室のように不自然な点は無い。


「一度しっかり調べているからな」

「となると最後の部屋ですか」


 三人は部屋の中に入ると、あまり物がない部屋を確認していく。大狼が剣の鞘で床を叩いていくと、音が明らかに違う場所がある。

 三人は顔を合わせると、床の仕掛けを確認していく。三人が床を確認しても何も見つからず、大狼が犯人を白狼から受け取ると、白狼が体を伸ばし始めた。

 再び白狼のマスターキーとしての出番が来たようだ。白狼は「床だから難しいっす」と言いながら、どのように床を壊すか練習していく。白狼は少しすると、どうやって壊すのかを決めたようだ。


「それじゃいくっす」

「頼んだぞ」


 白狼は腰を落として妖魔としての力を足に貯めた。すると白狼は四股しこを踏むように片足をあげ、次の瞬間には凄まじい速度で足を振り下ろして、床をぶち抜く。更にそこから床を蹴り上げるように足を振り抜いた。

 床になっていた部分が凄まじい勢いで吹き飛び、家の壁を突き破って庭に突き刺さった。

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