遺体を盗んだ魔法使い−1
サマンサの家から出た
車の運転は再び大狼だ。狐塚は髪を結んでいる関係で運転する事が難しいため、正式な巫女服を着用している場合は大狼が運転する事がほとんどだ。
狐塚は助手席から運転中の大狼を何度か確認した後に、迷った様子で大狼に声をかけた。
「先輩、ところでサマンサさんって何者なんですか?」
「そうか。狐塚は知らないか。サマンサ・メイダーはウィッチクラフト研究所の所長だった人だ」
「えっ!」
狐塚はウィッチクラフト研究所の資料を呼んだと以前言っていたが、人の名前までは覚えていなかったようだ。
そのため大狼は狐塚にサマンサ・メイダーがどのような人物かを狐塚に説明してく。大狼がサマンサ・メイダーが悪魔召喚に関与していない事まで説明すると、狐塚は納得したと大狼に返事をしている。
ウィッチクラフト研究所を解散させたサマンサはどこかに消え、阿史那神社に戻ってくる事はなかった。なので大狼はサマンサが日本に居るとは思っていなかったと言う。
それが埼玉県に住んでいるとは思ってもいなかったと大狼が話す。
「人間として妖魔になったサマンサと、狼から妖魔になった真神様は経歴や性格が似ていたのもあって仲が良かった。なので近くにいるのならば会いにくると思っていた」
「そう言えばサマンサさんは本物の魔女なんですね」
「ああ。私は子供の頃から面倒を見てもらっていたから頭が上がらないんだ」
魔女に偽物がある訳ではないが、妖魔となった魔女や魔法使いは”本物の”と呼ばれる事が多い。
魔女や魔法使い、それ以外にも一部の術師は、術を極めて人間から次の段階へと変化する事を目的とする術師たちがいる。鍛錬の先に神を目指す者もいるし、術を極めるために時間の制限がある人間を辞めるなどと、理由は様々だ。
サマンサは術を極めるため、時間の制限を無くそうと人間を辞めている。魔女や魔法使いであれば、人間を辞める理由としては多い理由だ。
「子供の頃からってサマンサさんは何歳なんですか?」
「女性に年齢を聞くなと言われた事があるが、少なくとも真神様とは百年前から知り合いのようだ」
サマンサの年齢は三百歳を超えており四百歳近い。サマンサは第一次世界大戦が終わった後に観光目的で日本に来ており、その時に真神と出会っている。
サマンサは観光目的での来日だったので、すぐにその時拠点にしていたアメリカへと戻った。
「百年前って西洋人の見た目をしているのに随分と昔から知り合いなんですね」
「その時はすぐに別れたようだ」
第一次世界大戦と第二次世界大戦の間、アメリカの術師全体が自由に活動しすぎた為に、場が異界化しすぎた。
術師たちが事態に気づいた時には、場の管理を国単位でどうにかするような問題になっており、魔女や魔法使いのような場を異界化するような術師は、術の制限を受けることになった。
一部の国は術師を追い出したが、アメリカは領土が広大なこともあり、そこまで強硬な手段には出なかった。だが術を研究するには地下に潜ってする必要があり、サマンサのような表で活動しても問題ないような魔女は国を移動し始めた。
サマンサは元々イギリスの出身だったため、一度はイギリスに戻ったが、イギリスもアメリカ同様に術の制限をかけており、世界中を転々として日本にたどり着いた。
「真神様が言うには、サマンサは日本が術師たちが行動しやすいと、噂になる少し前から日本に移り住んでいたようだ」
「それは珍しいですね。戦前は日本出身の術師しか居なかったと聞きましたね。警察の陰陽課も場の管理しかしていなかったと習いましたし」
陰陽課が発足したのは意外と古い。警察組織が発足した時には陰陽課は存在していた。発足当時は陰陽課は今のように忙しい部署ではなかった。
陰陽課が忙しくなったのは他国から術師が大量に流入したからであり、それ以前は大狼と狐塚が事件がない時にやっているような通常業務だけが仕事で、全体の陰陽課の人員も少なかった。
大狼と狐塚がサマンサの事について話していると、大狼の携帯が鳴ったので、狐塚が大狼から携帯を受け取る。
携帯に書かれていた名前は白狼で、狐塚が大狼に白狼だと言った後に電話に出た。
「狐塚です」
『あ、大狼先輩が運転だったか。ごめん。今、目的地までたどり着いた』
「こちらももう少しで到着します」
『分かった。それなら見張っておくよ』
狐塚は大狼に白狼が現場に着いた事と、自分たちの到着を待っていると伝えた。
大狼は頷くと、狐塚に武装や防具を再確認するように言う。
狐塚は防具を確認した後に、武器の確認をして、自分の装備が終わると大狼の武装を確認していく。
狐塚の点検が終わる頃に大狼が運転する覆面パトカーは目的地に到着した。
「白狼と合流する」
「はい」
大狼が運転していた覆面パトカーに向かって白狼が駆け寄ってくる。
車から降りた大狼と狐塚は白狼と合流すると、現場がどうなっているか白狼に確認する
「俺が到着してから正面玄関からの出入りは確認できません。それと場に残っている痕跡や匂いも不自然なくらい少ないです」
「少なくとも先ほど一度魔法が返されている。術の痕跡が感じられないのはやはり何かの術で痕跡を隠匿しているようだ」
「凄腕の術師ですね」
普段飄々とした受け答えをしている白狼が真面目に大狼に報告をしている。白狼は興奮しているのか、瞳は狼のように瞳孔が縦になっており、灰色の虹彩となっている。
「私も家を確認する」
「はい。不自然なので敷地内には入らないでください」
「分かった」
大狼と狐塚はサマンサが犯人の家だと特定した家を確認し始めた。
犯人の家は、サマンサの家のように邸宅と言えるような大きさではなく、一般的な大きさの家よりは少し大きい程度で普通の家だ。
術師は必要になる荷物が多いため、凄腕の術師が住むには少し小さい家だが、本来の家ではない可能性がある。
家の敷地内に入らないように慎重に家を確認した大狼と狐塚は、白狼がいる正面玄関へと戻ってくる。
「中は一切確認できないな」
「そうなんです。術だと思うんですが、俺でも家の匂いも確認できません」
「白狼で確認できないのなら術だろうな」
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