魔女サマンサ−4

 自分の技量だけでは無理だと悪魔などを召喚で呼び出して、代わりに術を代行してもらう場合はあるが、自分の実力以上の召喚を執り行えば召喚され出てきた妖魔や神によって術師は殺される可能性が高い。

 術師は召喚された者に殺されないために、召喚する妖魔や神の好みに合わせて供物を用意しておく方法がある。供物は集めるのが大変な者が多く、実力以上の召喚を行おうとする術師は少ない。


「おそらく、それだけではありません。私も友人の討伐で知りましたが、肉体の蘇生と魂の召喚には同性の遺体が大量に必要なのです」

「初めて知りました」

「私も友人が書き残した手記を確認しなければ知りはしなかったでしょう」


 大狼おおがみは携帯を取り出すと、サマンサに許可を取って連絡先から土御門つちみかどを選ぶと、再び電話をかけはじめた。

 大狼が土御門にサマンサから聞いた話を伝えると、土御門は返事をした後に少し待つように大狼に言う。


『話を皆に伝えるように頼んだ。それと今科捜研から加藤さんが来られて、頼んでいた結果が出たと書類を持ってきてくれた』

「想像以上に速いですね」

『元々かなり準備は進んでいたようだ。検査の結果だが、人間とのことだ。とり急ぎだったので、同一人物かまではまだ分からないようだ』


 大狼が土御門にお礼を言うと、土御門は場所が分かり次第連絡するようにと伝えると、電話が切れる。

 大狼が携帯をしまうと、サマンサに顔を向けた。


「サマンサ、人間だったそうです」

「死者の蘇生であればそうでしょうね。では始めましょうか」

「お願いします」


 サマンサは研究室にある大型のディスプレイに杖を向けると、ディスプレイには関東の地図が表示される。

 サマンサは次に容器を持った手を前に出すと、空中で容器から手を離す。普通なら自然に落下していく容器はそのまま空中に浮かんでおり、サマンサが杖を振ると容器から容器から骨の欠片が出てくる。


狐塚きつねづか、よく見ておけ。最高峰の魔女の魔法だ」

「はい」


 狐塚は大狼の言葉に従ってサマンサの魔法を見るために前のめりになった。

 サマンサは杖を掲げながら振り返り、大狼を見る。


「神童と呼ばれた斗真とうまにそう言われるのは光栄だわ」

「神童と呼ばれたのはサマンサのおかげですから」

「私は真神まかみ様のおかげだとは思うけれど」


 術を行使するときは集中しなければならず、サマンサのように視線を外して他者と言葉を交わすことなど並の術師では不可能だ。

 それだけでサマンサの術師としての技量が分かる。

 サマンサは再び前を向くと、足元に魔法陣が出現する。サマンサは杖で魔法陣を叩くと、宙に浮いていた骨の欠片が動き始める。

 骨の欠片が地図が写っているディスプレイに近づいていくと、ディスプレイに写っている地図が徐々に拡大されていく。

 地図は徐々に拡大されていき、最終的な場所にピンが立って位置情報がディスプレイに表示される。魔法なのに非常に現代的だ。


「あら。術を返されたわ」


 サマンサは笑いながら杖を再び振るうと、魔法陣がサマンサの前に多層状態で表示されたと思ったら収束して、収束した魔法陣にサマンサが杖を振るうと魔法陣がディスプレイの地図のピンへと収束した。

 サマンサは相手からの攻撃を跳ね返した上に、更に魔法を返して反撃をしたようだ。

 魔法を使った後も、薄らと笑みを浮かべながら、杖を構えたままだったサマンサは、少し時間をおいてから構を解いて大狼の方に振り返った。


「やりすぎないようには注意して魔法を使ったけど、死んでいたらごめんなさいね」

「いえ、サマンサにお願いをした時点で不測の事態は覚悟はしていました。それにサマンサが相手の技量を見誤るとも思えませんから」

「斗真の師匠の一人としては死んでいない事を祈っておくわ」


 杖を下ろしたサマンサは、大狼と狐塚をディスプレイの方へと誘う。

 大狼と狐塚はサマンサに近づいて行き、サマンサが魔法で探し出した犯人が居ると思われる位置情報を確認していく。

 地図上のピンは群馬県の川越市内の住宅地を指し示している。

 大狼と狐塚は住所をメモすると、大狼が携帯を取り出して土御門に位置情報を連絡し始めた。

 狐塚は住所を見ながら顔を顰めている。


「山の中かと思っていました。住宅地とは思いませんでした」


 埼玉県のような住宅地に住んでいて、場の異界化を地域の陰陽課が知らない事はあり得ない。


「場の異界化を家の中だけに魔法でお押さえ込んでいるのかもしれないわ」

「異界化を抑え込むなんて、凄まじい技量ですね」

「ええ。私の魔法に気づく程度の実力はあるようだから、更に反撃があると思っていたのだけど、反撃が来ないのは変ですからね」


 居場所を探るような魔法を使った場合は相手側に魔法を使ったことが知られることが多い。だがサマンサほどの実力があると、魔法自体を巧妙に使うことで相手側に魔法を使ったと悟らせない事が可能だ。

 今回サマンサが探し出した相手は、魔法を使われた事を察知して即座に反撃をしており、術を使う技量はかなりの腕ではある。

 そのような腕のいい術師たちが術での応酬になると、普通なら術を返しあってどちらかが致命傷を受けるか、諦めて術を止めるかしない限りは術を使っての攻防となる。

 だが今回はサマンサの一撃で敵の攻撃が返って来ない事から、相手が何らかの事情で術に集中できない可能性が高い。術に集中できなかった理由として、術師は異界化を家屋内だけに留めるような魔法を使っているのではないかと、サマンサは予想したようだ。

 住所を送信していた大狼の携帯が鳴る。電話の相手は土御門のようで、携帯に名前が出ている。

 大狼はすぐに電話を取ると、携帯を耳にあてる。


「はい」

『大狼、連絡は見た。至急現場に向かって欲しい。突入のタイミングと討伐の判断は現場の任せる』

「分かりました」

『それと、埼玉県警の陰陽課にも応援を要請している。うちの陰陽課としては白狼が一番近い距離にいる』


 大狼は電話を切ると、狐塚にも電話と同じ内容を伝えた。

 サマンサも早く行った方が良いと、大狼と狐塚に言と、二人はサマンサにお礼を言った後、現場に向かう事を伝える。

 サマンサの案内で玄関まで来た大狼と狐塚は、改めてお礼を言った後に覆面パトカーに乗り込む。

 窓を開けた大狼はサマンサに挨拶をする。


「斗真、あなたなら大丈夫だと思うけれど、気を付けるのよ」

「分かっています。今日はありがとうございました」

「いえ。斗真にも居場所が知られてしまいましたから、今度真神様にご挨拶に行くわ」

「真神様にもお伝えしておきます」

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