魔女サマンサ−3

 大狼おおがみは余程の衝撃だったのか固まっており、狐塚きつねづかはそんな大狼を不思議そうに覗き込んでいる。

 サマンサは大狼を見て笑っていたが、笑うのをやめると真面目な表情で、大狼の胸元を指差した。


「ところで斗真とうま、何か事件の手掛かりになる物を持っているでしょ?」

「サマンサには気づかれてしまいますか」


 大狼が着ている神職の服の内側につけているポケットの中から、警視庁から持ってきた容器を取り出す。大狼は容器を確認した後、サマンサに見えるように持ち上げた。

 容器を確認したサマンサは目を細めている。


「酷い魔力ね」

「容器に入っていても分かるんですね」

「ええ。随分と酷い魔力の使い方。流派の問題以前ね、執念のような物が入り込んでいるわ」


 術の元となる力は大きく分けると二つになるが、細かく分けていくと陽の力である神、精霊、聖獣などと、妖魔と呼ばれる悪魔、妖怪、悪霊など細かく分けられる。

 更にそこから感情などの力も合わさることで、より複雑な術となっていく。

 熟練の魔女であるサマンサだからこそ、容器越しに欠片に込めらている魔力の使い方を把握できた。

 サマンサは立てかけてあったサマンサ以上に大きい大型の杖を手に取ると、大狼に話しかけた。


「斗真、それを預けてくれるなら犯人を探してあげても良いわ」

「サマンサがですか?」

「ええ。斗真がそこまでの装備をしているんだもの。随分と大事のようだし、心配にもなるわ」


 大狼はサマンサの提案をすぐには答えられないようで、上司に連絡を取って良いかとサマンサに尋ねた。サマンサが頷くと、大狼は胸元から携帯を取り出して、電話をかけ始めた。


『どうした大狼』

「土御門さん、白狼が見つけた家主と会えました。私の知り合いだったのですが、犯人探しを手伝ってくれると言っています、どうしますか?」

『大狼の知り合い? 阿史那あしな神社の関係者か?』

「いえ、サマンサ・メイダーです」

『サマンサ・メイダー? サマンサ・メイダーだと!』


 土御門の大声に大狼は携帯を遠くにして、耳をさすろうとしたが容器を持っている事に気づいたのか途中で辞めた。

 狐塚は携帯から聞こえた土御門の大声に驚いて大狼の携帯を見ている。

 土御門の驚き方からして、ウィッチクラフト研究所の所長であったサマンサについては知っていたようが、サマンサが日本に住んでいたことや、埼玉に住んでいたことは知らなかったようだ。

 大狼は携帯を再び耳に近づけて土御門に尋ねる。


「どうしますか?」

『……分かった手伝って貰おう。だがDNAの鑑定を待った方が良いだろう。手伝って貰うのだ、事情を詳しく説明しておいてくれ』

「分かりました」


 大狼は真面目な表情で電話を切ると、携帯を胸元にしまう。

 サマンサは上品に笑いながら「元気な上司ね」と大狼に声をかけた。大狼は苦笑を浮かべながら「たまにああ言う時もある」とサマンサに伝えている。


「それで斗真、どういう話になったの?」

「サマンサに手伝って貰うようにとの事です。ですが術に使われた物の鑑定を終えていないのです」

「どういう事か説明をお願いしても?」


 大狼は頷いた後に、今起きている遺体の盗難事件についてサマンサに詳しく説明を始めた。大狼は容器をサマンサに渡して中の物が人間の骨である可能性は高いが、鑑定結果が出れば確証が持てるとサマンサに話している。

 サマンサも大狼の話に頷いて、欠片の大きさを見るに生物を特定していた方が成功率が上がると言う。


「人間の骨ね」

「サマンサは何の魔法が使われると思いますか?」

「この魔力の感じと、人間と言われて思い出したわ」


 サマンサは過去の友人に起きた話だと言って語り出した。

 優秀な魔女が出会ったのは魔法を使えない普通の男でした。魔女と男は惹かれ合い、ついには結婚する事となりました。残念ながら子供には恵まれませんでしたが、二人は幸せそうでした。

 ですが別れは訪れます。寿命という限りある物が二人を別れさせる事になってしまったのです。

 先に男が死に、魔女も後を追うのが普通なのでしょう。でも魔女は優秀が故に寿命では死ねなかった。男に出会った時にはすでに寿命という制限を乗り越えていたのです。

 男のいなくなった世界に魔女は悲しみ、ついには魔女は狂ってしまった。好きなあの人が居ないのなら生き返らせれば良いと、魔女は魔法を編み出しました。

 どれほど土地が異界に汚染されようとも気にせず、魔法を使い男を蘇らせようとしたのです。

 ついには魔女の狂気を止めるべく、多くの魔女や魔法使いが集まり、魔女の討伐が始まってしまいました。

 サマンサはそう語ると、容器の中にある欠片を悲しそうに見つめている。

 狐塚は顔を青くしながら、サマンサに尋ねた。


「その魔女はどうなったんですか?」

「私が殺しました。彼女は最後の瞬間『やっと彼に会えると』幸せそうに笑っていました。優秀な彼女でも死者の蘇生は無理だったようです」


 魔女や優秀な術師は一定上の能力があれば、人間を辞めて妖魔になれる。妖魔になった元人間は寿命から解放される。肉体も強化されるが、不死身になる程ではない。

 人間から妖魔になるには生半可の実力では不可能で、そのような者が死者の蘇生を成功させていないという事は、妖魔では死者の蘇生は不可能だと考えられる。

 大狼はサマンサの持っている容器を見つめた後に、サマンサに目を向ける。


「つまり死者の蘇生をしようとしている者がいると?」

「死者の蘇生、もしくはそれに近い事をしている可能性が高いわ」

「最悪ですね」

「ええ」


 死者の蘇生に手を伸ばそうとする人や術師は多いが、実際に成し遂げられそうだと行動に出る術師は一握りだ。だが成し遂げられなくとも諦められないのが死者の蘇生なのだ。

 死者の蘇生は失敗したとしても、場の異界化してことでの汚染はとてつもない事となる。術士として師匠から必ずと言って良いほど習うことで、試すことすら禁忌とされている。

 デジタル上への改ざんまで術で行える術師であると考えると、死者の蘇生をするために術師が術を作っている可能性がある。


「ところでに種類の魔力があると思うのですが、二人で術を行っているんでしょうか?」

「いえ。これは何かを召喚した可能性が高いです。人間の魔力とは思えません」

「そのための大量の遺体ですか」

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