魔女サマンサ−2
サマンサは
続いてサマンサは大狼の背が随分と伸びたと、手を大狼の頭に持って行って驚き。更に大狼の腕など体を触って、随分と鍛えているようだと目を見開いて驚いた様子だ。
大狼はサマンサに触られても嫌がる事なく、笑いながらサマンサに喋りかけた。
「しっかりと覚えていないんですが、サマンサと会わなくなってから身長が伸びたかもしれません」
「ええ。私より背が低くて体も随分と線が細かったです。言われないと斗真だと分かりませんでしたよ」
サマンサの見た目は三十歳程度に見え、身長は大狼より小さいが、狐塚より大きく百七十センチ近い。髪の毛はパーマの掛かったアッシュブラウンで、影では落ち着いた茶髪だが、陽の光が入ると金髪のように明るい色に見える。
「斗真が元気なようで安心しました」
「私もサマンサの元気な姿を見れて良かったです」
「事件以降、私は
サマンサは元々大狼の実家である阿史那神社の近くに住んでいた魔女だった。
サマンサは秘密結社であるウィッチクラフト研究所を立ち上げ、首領であり同時に所長であった。だがウィッチクラフト研究所の所員によって子爵級悪魔が召喚され、悪魔を退治した後も場が汚染されたような状態になってしまった責任を取り、ウィッチクラフト研究所は解散となった。
サマンサは悪魔召喚に関しては一切関与しておらず、それどころかサマンサの留守中を狙うように悪魔召喚は行われている。
「真神様はサマンサの事を怒ってはいないと思いますよ?」
「真神様が許してくださっても私自身が許せなかったのです」
大狼は口を開いたが言葉は出てこない様子だ。
大狼とサマンサは少し見つめ合った後に、サマンサは立たせたままだった大狼を座らせる。大狼が座ると、サマンサ自身も椅子に座った。
サマンサは自身で大狼と狐塚が来たときに用意していた飲み物を一口飲んだ後、今日尋ねてきた事情を聞いた。
「それで、警視庁の陰陽課に所属しているお二人がどうして埼玉県まで?」
大狼は少し固まった後に、サマンサに事情を話し始める。
「大規模な魔法が展開されている可能性があり、場が異界側に寄って大変な事になっている可能性があります」
「それで二人ともそこまでの武装をしているのですね」
「はい。物々しく申し訳ないです」
「いえ、身を守るためですから仕方ありません」
捜査情報なので詳しい事は教えられない為、大狼はかなり省略しつつ事件について話している。
更に大狼は「荷物が多く搬入されている場所を探していた」とサマンサに伝えると、サマンサは頷いた。
「うちには海外からも物を取り寄せていますから、荷物は多く来ますね」
「サマンサは魔女ですからね」
「ええ」
サマンサは笑いながら頷いている。
大狼はサマンサに最近どこに行ったか、最近研究している魔法などを尋ねていく。サマンサは買い出しにしか出かけない事。研究しているのはハーブを使った魔法の薬だと答えた。
「魔法の薬ですか」
「私にしては随分と大人しい物だと思いましたか?」
「はい。精霊召喚や攻撃的な魔法かと」
「色々と思う事があって今は活動をあまりしていません。輸入しているのはどちらかと言うと収集癖です」
サマンサは立ち上がると大狼と狐塚を誘うと、扉の方に歩き出した。
サマンサを先頭に屋敷の中を歩いていくと、サマンサが部屋の扉を開ける。部屋の中にはクマのぬいぐるみが大量に置かれており、人間のような大きさから手の上に載るものまで様々だ。
ぬいぐるみを見た狐塚が目を輝かせる。
「これが今の趣味です。実用でも使えますが、ここまで数は必要ありませんからね」
「可愛い!」
「ありがとうございます」
狐塚の素直な感想に、サマンサは上品に笑っている。
サマンサは一体のぬいぐるみを魔法で動かして、歩かせ始めた。
ぬいぐるみは狐塚の前まで歩いてくると、紳士がするように左手を腹部に当て、右手を後ろに回して狐塚にお辞儀をした。
「凄い! 近くで見ても良いですか?」
「ええ。構いませんよ」
お辞儀をしたクマのぬいぐるみ以外にも、サマンサが狐塚にクマのぬいぐるみのコレクションを紹介し始めた。
サマンサが所有しているクマのぬいぐるみは、有名な製造所のテディベアから、個人のアーティストが作ったテディベアまであるようで、サマンサは狐塚にぬいぐるみの説明をした。
「説明を態々、ありがとうございます」
「いえ、気に入ってくれて良かったわ」
サマンサはぬいぐるみの置かれている部屋の扉を閉じると、元の部屋には戻らず別の場所へと案内し始めた。
屋敷はアンティーク家具で揃えられており、廊下まで綺麗に配置されている。所々にクマのぬいぐるみがアンティーク家具と一緒に置かれており、可愛らしい見た目となっている。
サマンサを先頭に大狼と狐塚が再び屋敷を歩いていくと、サマンサが次に訪れたのは地下の扉の前で、扉を開けると不思議な匂いが漂う部屋だった。
「ここが今の研究室よ」
大量の機材がある部屋は、現代的な遠心分離機、電子顕微鏡、試験管、フラスコなどから、更にサーバー型のパソコンなどまである。魔女が使うような鍋、箒、杖が置いてある。
サマンサの研究所は現代的な物と、魔女が使いそうな物が融合した空間になっている。
大狼は周囲の機材を触れないように確認して、サマンサに話しかけた。
「不思議な匂いがしますね」
「色々とハーブから抽出したものだからかしらね。魔法で育てているから普通のハーブではないけれど、ハーブは大半が庭で育てているものよ」
サマンサはレモングラス、バジル、タイム、ローズマリーと有名なハーブを上げていく。更に日本特有のシソ、ヨモギ、ミョウガと次々に名前を上げて行った。
サマンサはハーブの名前を上げた後に、魔女が使うような鍋を指差した。
「それらを魔法で育てて薬にしたのがこれね」
「何の薬効があるのか聞いても?」
「色々あるけれど、一番売れ行きが良いのは髪の毛が生える薬ね」
大狼も流石に予想外の答えだったのか、サマンサの方に顔を向けたまま口を開けて驚いている。
サマンサはそんな大狼を見て笑っている。
「髪の毛?」
「ええ。元々遊びで作ったのだけれど、想像以上に売れ行きが良いわ」
「魔女が作る毛生え薬なら確かに薬効はありそうですが、サマンサが……」
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