魔女サマンサ−1
大狼の運転で覆面パトカーは、埼玉県の浦和に向けてナビの指示通りに走っている。
狐塚が時計を確認しており、時計は既に正午を回って二時を過ぎている。
狐塚は頭を下げてため息をつくと、髪飾りを気にするように髪に手を伸ばした。
「先輩、今日も遅くまでかかりそうですね」
「事件が解決するまでは大変な日が続きそうだ」
大狼が運転する覆面パトカーは順調に進み、一時間も掛からないでナビに入力した浦和の邸宅にまで辿り着く。
邸宅はレンガの塀に囲まれていて、門の奥には立派な庭が広がっており、更にその奥には西洋風の屋敷が奥に見える。家の門も大きく作られており、門にはインターフォンが設置されている。
大狼と狐塚は車の中から家の様子を確認している。
「立派な家ですね」
「そうだな。うちも規模は大きいが、昔からある屋敷だからな。中は改装しているので、住みやすくはなっているが見劣りするな」
「うちもです。こんな家に昔は憧れました」
大狼と狐塚は緊張感のない会話をしているが、覆面パトカーには剣や破魔弓が乗っている。
大狼と狐塚は車を降りると、装備をしっかりと身につけて邸宅へと近づいていく。大狼と狐塚は近づきながら周囲を見回している。
「術の痕跡があるので、術師が住んでいるようだが。変な術を使っている様子はないな」
「はい。むしろ術師が住んでいるにしては綺麗です」
「これはハズレか?」
「かもしれませんが。尋ねるだけ尋ねてみましょう」
狐塚がインターフォンを押すと「はい? どなたですか?」と、すぐに女性の声がインターフォンから聞こえる。
狐塚が警察手帳をインターフォンに見せながら話がしたいと伝えると「話をするなら中でしましょう」とインターフォンから返事があり、続けて門を開けるので車毎中に入るようにと言う。
狐塚が何か言う前にインターフォンが切れて、門が開き始める。
狐塚は慌てて大狼の方を見た。
「先輩、中で話すことになってしまいましたけど、どうします?」
「事件に関係があるのなら屋敷の中に入れようとは思わないと考えられるが、見つかったと攻撃して来る可能性もあるな。土御門さんに一定時間連絡が無ければ突入するように連絡をしておくか」
大狼は狐塚に土御門に連絡するようにと言うと、大狼は装備の一部を一度外すと、運転席に乗り込んで覆面パトカーを運転して門を潜った。
門から中に入ると、屋敷の庭がよく見えるようになり、花よりも緑の多い庭になっているようだと分かる。
大狼は周囲を確認するようにゆっくりと車を進める。
大狼がゆっくりと運転をしていると、狐塚の連絡が終わったようで、電話をしまっている。
「先輩、連絡はしておきました。一時間以内に連絡を返さない場合には、突入するとのことです」
「分かった。突入する、なんて事ないように祈っておこう」
「突入してるって事は私たちの命が無さそうです」
狐塚の言葉に大狼は肩をすくめた後は何も言わない。
大狼と狐塚が覆面パトカーから降りると、改めて装備を身につけた。
武装した大狼と狐塚が玄関に近づくと、玄関のドアが開いた。
ドアを開けたのは大きな人形のようで、人形の見た目は大きいが可愛らしいクマのぬいぐるみだ。
狐塚の目が輝き「可愛い」と、小さく呟く。
「こういうのも好きなのか?」
「はいっ」
「そうか」
大狼は「以前見たことある木が、似ているだけか?」と小声で呟き、クマのぬいぐるみを確認するように見ながら玄関を潜る。
大狼と狐塚が玄関の中に入ると、クマのぬいぐるみは大狼と狐塚の前に立って移動し始めた。
邸宅の中は土足になっているようで、クマから靴を脱ぐようにと指示されることはなく、靴を履いたまま大狼と狐塚はクマのぬいぐるみの後を追って移動していく。
外観と同じように邸宅の中も西洋風な家具で統一されているのか、この場だけ日本ではないような印象を持つような家になっている。
狐塚は邸宅の中を確認しながら移動している。
「中も西洋様式で作られているんですね」
「そうだな」
大狼は狐塚とは違ってクマのぬいぐるみから視線を外さない。
クマのぬいぐるみは部屋の前で止まって、ドアを開けた。
部屋の中ではドレスのような黒い服を着た女性が、窓際の机に飲み物を用意している。部屋自体は邸宅の規模を考えれば小さな部屋だが、この部屋もまた西洋様式で統一された部屋になっている。
クマのぬいぐるみは女性に近づいていき、女性に撫でられると近くの椅子に座って動かなくなった。
「ようこそ私の屋敷へ、私はサマンサ・メイダー。先に言っておきますと、警察に届けはしっかり出していますよ。それと随分としっかりとした装備をしていますが、何かありましたか?」
「警視庁妖魔局陰陽課の狐塚と申します。陰陽課で動く必要のある事件が起きていまして、お話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「そこまでの装備でこられたのです、よほどの事件なのでしょう。私に答えられる事なら構いません」
サマンサは狐塚と大狼の武装については、それほど気にした様子もなく、狐塚と大狼に座って話をしようと、窓際にある机の椅子に座るように二人に進める。
狐塚が座ったが大狼はサマンサを見たまま動いていない。
サマンサが動かない大狼に、首を傾げながら声をかけた。
「どうされました?」
「サマンサ、お久しぶりです」
「失礼ですが、どちら様でしょうか? 申し訳ありませんが、覚えがなくて……」
「大狼です。大狼 斗真です。サマンサが日本にまだ居られるとは知りませんでした」
サマンサは目を見開いた後に大狼の頭からつま先までを見て、もう一度視線を往復した。サマンサは目頭に手を持って行き目を瞑り、目を開くと、もう一度視線を大狼の頭からつま先まで往復させる。
何度も視線を往復させるサマンサに大狼は笑う。
「斗真?」
「はい。最後に会ってからかなり鍛えましたし、年も重ねましたから見た目は全然違うかもしれませんが、私は阿史那神社の大狼 斗真です」
「本当に斗真なのですね。最後に会ったのは高校生くらいでしたか? 随分と成長しましたね」
「事件以降鍛えましたから」
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