緊急会議−2

 片付けが終わったところで、四人は陰陽課に戻る。大狼おおがみ白狼はくろうに陰陽課の匂いが欠片が原因か確かめたいと、白狼に確認をお願いする。

 白狼が了承した後に狐塚きつねづかが白狼の元に欠片が入った容器を持ってくると、白狼が慌てた様子で止める。


「ストップ! ストップ!」

「まだ容器の蓋を開けていませんよ?」

「それっす、絶対それっす! 匂いは薄いんですが、不快な酷い匂いなのでそれ以上近づけないで!」

「人間には分かりませんね」


 狐塚が欠片を元の場所に戻すと、白狼は鼻を洗ってくると部屋を出ていった。

 狐塚は自分の手を鼻に近づけて匂いを嗅いだ後に、大狼に匂いがするかと尋ねて、狐塚は手を大狼の顔の前に持っていく。


「分からんな。狐塚が使っているハンドクリームの匂いがするくらいか?」

「ハンドクリーム。それはそれで恥ずかしいです」


 狐塚は手を引っ込めると、一応手を洗ってくると部屋を出ていった。

 狐塚が手を洗って戻ってきても、白狼は一向に戻って来ず大狼、狐塚、土御門つちみかどが東京都内の警察署の陰陽課に連絡をしていると、白狼が鼻を触りながら戻ってきた。

 大狼が白狼に気付いて声をかけた。


「白狼、大丈夫か?」

「はい。酷い匂いで、テンション下がりましたけど大丈夫です」

「そんなに酷いのか?」

「酷いっす。魔力の匂いもあるとは思うんですが、酷い悪臭なんすよ」


 白狼は喋りながらも鼻を触ったり鼻をかんだりと、かなり辛そうな様子だ。

 白狼のような妖魔は、魔力の匂いを嗅ぎ分ける事ができる鼻を持っているため、匂いに敏感になっているので、強すぎる匂いは苦手だ。


「もしかして真神様が温泉に入ろうと言ったのは、匂いが酷かったからか」

「大狼先輩、真神様と温泉行ったんですか? 良いっすね」

「温泉には入れたが、仕事だったからな。すごく大変だったぞ」

「うへー」


 肉体労働で墓荒らしだと大狼が言うと、白狼は顔色を青くしている。白狼は大狼に「大変だったっすね」っととても同情的だ。

 狐塚が自分も行ったと言うと、白狼は狐塚にも慰めの言葉をかけている。

 狐塚と白狼が話し続けそうになったところで、大狼が白狼に声をかけた。


「白狼は他の部署から今回の事件に関係しそうな事を何か聞いていないか?」

「それっぽい話は聞いてないと思いますよ」

「そうか」


 白狼は知り合いの警察官に聞いて回ってみると、大狼に言うと陰陽課を出て行った。

 大狼は群馬県警の松本に電話をして、墓荒らしと同一の人物が再び遺体を盗み出した事や、術師の危険性を伝えた。大狼が松本との電話を切ると、狐塚が大狼に話しかけた。


「先輩、私たちは外回りをして異常がある場所を探してみますか?」

「いや。白狼が言っていた匂いが気になる。通報で匂いについて記録がないか調べてみたい」

「匂いって、大量にありそうですけど?」

「大量にあるだろうな。時間を絞って、一週間以内で良いだろう」


 大狼と狐塚は東京都での通報内容から匂いに関する物がないか調べていくが、それらしい物がないようだと、大狼と狐塚が話している。

 大狼が通報内容を調べていると、大狼の電話が鳴る。大狼が携帯を確認すると、白狼と書かれている。

 大狼は電話に出て、携帯を耳に当てる。


「大狼だ。白狼、何か分かったのか?」

『知り合いに相談したところ怪しそうな話が聞けたんですが、犯人かどうかまでは分からないんです』

「どんな話だ?」


 白狼が聞いた話は、匂いが問題になった訳ではないが、普通ではない人が住んでいると有名な場所で、しかも普段から荷物の搬入が多く、遺体が運び込まれたとしても分からないだろうと言う。

 場所は東京都ではなく、埼玉県の浦和で立派な邸宅との事だ。


「埼玉県か。群馬県で墓荒らしをしたと考えれば不自然ではない。しかし、匂いの情報は無しか」

『そうなんっす。なので犯人候補としては微妙なんですが、邸宅という程大きのなら設備があれば隠せるかもしれないと思ったので、大狼先輩に電話をしました』

「確かに事前に準備をしていれば匂いは隠せるな。分かった一度私が言ってみよう」

『お願いします』


 大狼は狐塚に白狼からの話を説明した後に、狐塚を連れて土御門にも同じように白狼の話を伝えた。土御門は大狼の話を聞くと頷いて「埼玉県警には自分から連絡をしておく」と大狼に伝えた。


「銃以外の装備もしっかりと準備をしていくように、それと欠片も犯人を確認するために持って行け」

「はい」


 術師に対して銃は当たれば効果があるが、事件を起こすような術師は銃に対する術を常時発動している場合が多く、拳銃を撃ったところで意味がない。そのため陰陽課の警察官は銃以外にも攻撃する手段を持っており、事件によって持っていく装備を変えている。


「狐塚、お札や神具を持っていく。服も神職の物にしよう」

「分かりました。準備します」


 そういうと、大狼は更衣室へと移動して着替えていく。

 大狼や狐塚が警視庁に持ち込んでいる神職の服は特注品で、服自体に術が施してある物だ。銃弾を逸らすような術や、打撃、斬撃にも強くしてあり、防弾チョッキより高性能だ。値段も高く、量産が難しい為、陰陽課の警察官か特殊部隊にしか配布されていない装備だ。

 大狼が着替え終わると、手に櫛を持ったまま更衣室を出る。狐塚が同じように更衣室から出て来ると大狼に背中を向けると、大狼が狐塚の下ろした髪に櫛を入れる。


「先輩、すみません」

「気にするな。髪を止めるのに、ゴムで止める訳にはいかないからな」

「ちゃんと着るってなるとそうなんですよね」


 大狼は狐塚の髪を纏めると、奉書ほうしょで髪を包み、熨斗のし丈長たけながを着け、最後に狐塚が愛用している髪飾りを着ける。

 奉書ほうしょは和紙であり、熨斗のし丈長たけながも狐塚が使うものは作り方まで特注品である。

 大狼が狐塚に違和感がないかと尋ねると、狐塚は頭を動かして確認している。


「問題なさそうです。ありがとうございます」

「それなら良かった」

「先輩、上手ですよね」

「よく実家で手伝ったからな。バイトの巫女につけた事もある」


 大狼と狐塚は更衣室の前から移動して、陰陽課の倉庫へと向かう。

 倉庫の中で大狼は剣を手に取ると鞘から抜いた。抜いた剣は諸刃もろはの剣で両刃だ。大狼は剣を鞘に戻すと、剣を腰に差した。更に大狼はお札、破魔矢、破魔弓と時代にそぐわぬ姿となった。


「現代の技術で作っているので、軽いとは言え数が多いな」

「チタンの剣に、カーボンの弓と矢って何でもありですよね」

「これで効果があるように作れるのが凄いな」

「私の髪飾りや服もどうにかして欲しいです」


 狐塚は大狼と話しながら、倉庫にあった鞄を手に取ると、御幣ごへい神楽鈴かぐらすずを手に取ると神鏡しんきょうや勾玉を鞄の中に入れた。

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