緊急会議−1

 警視庁妖魔局陰陽課に大狼と狐塚が港区の遺体盗難事件から戻ってきた。

 大狼が迷いなく土御門の元へ歩いて行き、遺体の盗難現場で起きていた事を話すと、土御門の顔色が悪くなる。


「盗みを続けている事を考えると、その数の遺体は不味いな。霞から監視カメラの動画が届き次第、緊急で会議を開く」

「了解しました」

「大狼と狐塚は簡単にで良いので状況をまとめておいてくれ」


 大狼と狐塚は三件の遺体盗難事件の資料を作っていく。

 資料を粗方作り終えたところで、狐塚が大狼に「霞さんから受け取った欠片をどうしますか?」と尋ねた。大狼は資料を送信する作業をしながら口を開いた。


「科捜研に出すべきだが、二人ともこの場を離れるのは不味い。書類は一緒に作るので、すまんがその後は狐塚だけで科捜研に出してきてくれないか」

「分かりました。事件の規模が大きくなったと加藤さんに伝えて鑑定を急いで貰います」

「頼んだ」


 大狼と狐塚は科捜研に出すための書類を作ると、狐塚が書類を持って陰陽課から科捜研へ移動する。狐塚は加藤に話しかけると、事情を説明し始めた。加藤は狐塚の話を聞くと、少し待って欲しいと言って、箱の中から書類を持ってくる。


「以前に鑑定依頼を受け付けたのはこの二件ですね?」


 狐塚が加藤から見せられた書類を見た後に、その書類であっていると同意する。加藤が急ぎで処理するように回すと、書類を先ほどとは別の箱に入れた。


「加藤さん、それとこの欠片もお願いしたいんです」

「分かりました」


 加藤が欠片を確認すると、骨のようだと言う。

 狐塚は書類を渡してDNA鑑定を加藤にお願いした。加藤が書類の確認を終えたところで、狐塚の携帯が鳴った。

 狐塚が携帯を取り出して確認すると、大狼から会議室に使われる部屋番号が書かれていた。狐塚は加藤に鑑定のお願いをした後に、科捜研から急いで出ていく。

 部屋の中に入った狐塚は、土御門と何か準備をしている大狼に近づいていく。


「先輩」

「狐塚、まだ準備中だ」

「間に合ったようで良かったです」


 狐塚は大狼に科捜研で鑑定のお願いをしてきた事を伝えた後は、土御門が進めている会議の準備を大狼と狐塚は手伝い始めた。

 会議室に人が集まり始めると、改めて陰陽課の服装が独特な事が分かる。魔女のようなローブから、お坊さんの袈裟、魔法使いのマント、何かのお面をした物までと多種多様だ。


「今、陰陽課に居るのはこのくらいか。早速始めたいと思う。大狼」

「はい、資料を事前に送信していますので、それを確認しなが話を聞いてください」


 大狼が資料が全員あるか確認した後に話し始める。

 遺体の盗難事件が頻発しており、盗まれた遺体の数が既に十五体を数え、別でスケルトンが四体確認されており、合わせて二十体近い遺体を所持している術師が居る可能性があると伝える。

 大狼が二十体近いと言ったところで騒つき、それを土御門が止めて話を進める。


「今聞いた通り、二十体と言う数は早急に対処すべき事件だと判断をした。そこで本事件を陰陽課全体で当たる事とする。まず監視カメラで撮られた映像を流すので、分かった事があれば言って欲しい」


 映像が流れた後に、術師のについて話し合いが進む。資料にも書かれているが、監視カメラを欺くほどの術を使える事を改めて大狼が伝える。

 スケルトン四体をあれだけ自然に動かすのは相当な技量があり、そのような術師が二十体もの遺体を持っているのは非常に危険だと言う話にやはりなっていく。

 そんな中、一人の男が自信なさげに手を挙げて声を出す。


「あのー、土御門さん」

「何だ白狼」

「俺はスケルトンについては詳しくないんですが、遺体ってどれも火葬されてないんすか?」

「事件になった盗難事件は全て火葬前か土葬の遺体だ。スケルトンの状態を見ても、あそこまで綺麗に骨が残っているなら全て火葬されていない可能性が高いな」


 白狼は何故か顔に傷を負っており、服も汚れてよれている。白狼は傷を触って痛そうにしながら、遺体がそこまであるのなら匂いが凄いのではないかと話した。


「匂いか。確かに十五体もの死体があれば酷い匂いがしそうだ」

「実際、俺が久しぶりに陰陽課に来たら変な匂いがしましたし」

「大狼と狐塚が持ち帰った欠片は小さかったが、そこまで匂う物だったか」


 狼男の白狼は犬や狼のように鋭い嗅覚を持っており、匂いに関してはとても敏感だ。その能力を活かして他の部署に手伝いに派遣されており、陰陽課にいる時間が短い。

 白狼が久しぶりに陰陽課に来たと言うことは、今まで他の部署に派遣されていた可能性が高い。怪我も派遣先で負ったのだろう。


「匂いについての通報を他の部署に尋ねてみる。白狼、他にはないか?」

「今のところ思いついたのはそれだけっす」

「話を聞いて何か気になったら、気にせず発言をしてくれ」


 大狼は現場に残された骨の欠片には魔力が二種類使われている事、魔力が邪悪だと霞が感じと話す。更に確定ではないが、女性だけが狙われている事や、術師は日本語とアラビア語を解する可能性を伝えた。


「更に詳しいことは資料にまとめてありますので、分からないことがあれば聞いてください」

「一回目は一種類の魔力で二回目以降は二種類の魔力なのですか?」

「そうです。協力者ができた可能性があります」


 術師が増えれば大規模な術を使う可能性が上がる為、陰陽課の警察官たちは表情が厳しくなる。術師がどのような使い手かを質問する者がいるが、大狼はまだ詳しくは分かっていないが、魔力を使う相手だと言う。質問が尽きたところで、土御門が会議を終わらせる。


「魔力を使う者たちは関連した術師団体への聞き込みをお願いしたい。他は遺体の盗難や大規模に場が異界側に転じている場所を探してくれ」


 陰陽課の警察官たちは動き出す。会議室に残ったのは大狼、狐塚、土御門、そして何故か白狼が残っている。

 残っていた白狼が大狼に近づいていく。


「大狼先輩、久しぶっす」

「白狼、元気だったか?」

「この通り傷だらけな事以外は元気です」

「白狼の身体能力でそこまでの傷って何をしたんだ?」


 白狼は動物園から逃げ出した猿を捕獲するのに走り回った結果だと言う。殺す訳にもいかず手加減をした結果、引っ掻かれようが噛みつかれようが反撃する事ができずされるがままだったと、肩お落としながら大狼に説明した。


「それでその程度の怪我なのは流石だな」

「あんまりにもやられて、イラッとしちゃって吠えたら大人しくなったっす」

「また逃げなくて良かったな」

「しっかり捕まえてたっす」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る