報告

 大狼おおがみの運転で霞が関の警視庁へと戻ってくると、大狼は覆面パトカーを駐車場へと停める。大狼は寝ている狐塚きつねづかを起こして、大狼と狐塚は陰陽課から持ってきた備品を手に陰陽課へと向かう。狐塚は寝起きだが気分が良さそうに歩いている。


「先輩、助かりました」

「鍛えている私でも辛いのだから、狐塚がそうなるのは仕方ない」

「少し体を鍛えようかと思えました」

「道場で護身術を教えて貰うだけでも違うかもしれんな」


 警視庁の設備には道場しかないため、大狼は狐塚をジムには誘わなかったようだ。狐塚は今度他の課の知り合いに相談してみると、大狼と話している。陰陽課に戻ってきた大狼と狐塚は覆面パトカーの鍵を戻すと、土御門の机へと向かう。


「土御門さん、戻りました」

「おう。すまんな。どうだった?」

「肉体労働的な意味で大変でした。私でも大変だったので、狐塚には相当辛かったかと」

「それはすまない事をした」


 土御門が狐塚に謝った後に、大狼が墓荒らしについて話し始めた。十二体の遺体が盗まれた事や、掘り返したのに遺体が放置されていた事を話すと、土御門は顔を顰めている。


「多すぎないか?」

「ええ。葬儀場が同一犯だとすれば、十三体の死体を現在所持していると考えられます」


 重機を使って掘り返した跡がないので、掘り返した土を全て探したと言うと、土御門は再び顔を顰める。


「それは肉体労働として大変だっただろう。そうか、だから二人とも服がスーツではないのか」

「はい。後でクリーニングに出そうと思います」

「それならクリーニング代も経費になるだろう。私から申請しておくので領収書を貰って来るように」

「助かります」


 見つけた欠片の一部を預かっていると、大狼が土御門に預かった欠片を渡す。大狼が葬儀場の魔力と同じであれば、同一犯の可能性が高まるという。


「ヨーゼフに調べて貰うか」

「はい。お願いしたいと思っていました」


 土御門がヨーゼフを呼ぶと、前回の葬儀場から遺体が盗まれた場所に有った、骨の欠片に残っていた魔力を覚えているかと土御門は尋ねた。ヨーゼフがまだ覚えていると言うので、土御門は大狼が今回持ってきた欠片と比べて欲しいとお願いした。ヨーゼフが欠片を手に取るとじっと手元を見続けた。


「よく似ているのですが、少し違う? いや混じっている?」

「分かり難いようだな」

「はい。恐らくですが二種類の魔力が混じっているように感じます。片方が以前と同じ魔力だとは思うのですが、混じっているので確証が得られません」

「そうか。二種類と言うことは、単独犯でない可能性があるのか」


 ヨーゼフから返された欠片を土御門も手の上に乗せてじっと見続けている。土御門も二種類の術の痕跡があるようだと言う。大狼や狐塚も手の上に乗せて試すと同じ意見になったようだ。


「拾った時には気づきませんでした」

「術が違いすぎるので、ヨーゼフに言われなければ私も初見では無理だな」

「土御門さんよりは魔法にも詳しいのですが…」


 土御門は生粋の陰陽師であるために、大狼より魔法については苦手である。そんな土御門でも気づけた事を、大狼が気づけなかった事で肩を落としている。


「大狼、分かった事を群馬県警の陰陽課に連絡をしておいてくれ」

「分かりました。連絡しておきます」

「頼んだ。それと群馬県警の許可が出たら、欠片を科捜研かそうけんに出しておいてくれ。DNAが一致するか確認したい」

「はい。前回同様に欠片が骨かどうかの確認をして、骨の場合にはDNA鑑定をお願いします」


 大狼と狐塚は土御門に返事をすると二人は土御門の元から離れていく。大狼が自分の席に戻ると、群馬県警の陰陽課に連絡をし始める。陰陽課に電話が繋がると松本をお願いしている。


『大狼さん、どうされました?』

「欠片について今わかっている事をお伝えしようと思いまして」


 大狼は松本にヨーゼフが調べてわかった事を伝えて、群馬県警に残っている欠片が二種類の魔力が残っているか尋ねている。


『二種類ですか。こちらでも調べている所でして、今聞いてみます』

「お願いします」

『………戻りました。聞いたところ同じように二種類の魔力があるようです』

「やはりそうですか」


 大狼は松本に預かった欠片をDNA鑑定して、葬儀屋で見つかった骨の欠片とDNAが一致するか確認したいと松本に伝える。松本から許可が出た所で大狼は電話を切る。


「DNA鑑定して良いと松本さんから許可を取った」

「それでは書類を作りますね」


 大狼と狐塚は科捜研に出す書類を作って陰陽課を出ていく。警視庁の中を軽装の服で歩いているため大狼と狐塚を見る人が多い。


「目立っていますね」

「着替えてくる暇もなかったからな。服装が目立つのは仕方ない」

「そうですね」


 そう言いながらも大狼と狐塚は歩く速度を上げて科捜研へと向かう。科捜研に大狼と狐塚が入ると加藤を呼ぶ。加藤が大狼と狐塚の元に来ると一瞬だが固まった。


「二人とも服どうしたの?」

「昨夜の食事を断った仕事でスーツが汚れてしまって、先ほど服を買って着替えました。この後スーツをクリーニングに出しに行きます」

「それは大変ね」

「とても大変でした」


 狐塚が加藤に何があったのかを愚痴り始めた。大狼は止めずに狐塚の話すままにして、加藤に視線で申し訳なさそうに目礼している。加藤も大狼の視線を見てから狐塚の話を聞いている。


「それは大変だったわね。それで調べて欲しい欠片は?」

「先輩が持ってます」


 大狼が加藤に欠片を渡すと、加藤は前回同様にルーペで欠片を確認していく。大狼と狐塚が見守る中、加藤はルーペを下す。


「これは骨ね。前回より大きいから小動物ではなさそうね」

「ある程度の大きさがある動物ですか」

「そうね。人間の可能性もあるわ」


 大狼は加藤に前回同様にDNA鑑定をお願いするのと、前回の葬儀屋とDNAが一致するかを確認して欲しいと加藤にお願いする。加藤は大狼のお願いを請け負うと、大狼に書類を渡すように言う。加藤が大狼から渡された書類を確認して不備がないと大狼と狐塚に伝えると、欠片を預かると言う。

 大狼と加藤の話が終わった所で、狐塚が加藤に話しかける。


「加藤さん、昨日はすみませんでした」

「事件だったのだから気にしなくて良いわ。また都合のいい日に食事をしましょ」

「はいっ」


 大狼と狐塚は科捜研から陰陽課に戻ると、更衣室に仕舞われていた神職の服を着て陰陽課に戻った。二人とも服装を気にしていたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る